23.歌が裁く新たな風
神詠騎士団の訓練場には、朝日が差し込み、清々しい空気が漂っている。
セリアは歌唱杖を握りしめ、呼吸を整えた。
(前世の記憶……音波や共鳴の考え方が、歌の制御に使えるなんて……)
黒狼獣との戦いで、自分が無意識のうちに音響工学の知識を活かしていたことに、少しだけ驚きと戸惑いがあった。
「セリア、準備はできているか?」
レオン副団長が声をかける。
「はい、副団長。よろしくお願いします」
「今日も実戦形式で制御訓練を行う。動きながらの制御が課題だ」
「了解しました!」
模擬戦が始まり、レオンが剣を構え、光の斬撃を放ってくる。
「――守護の風よ、光を包み、力を和らげよ!」
セリアの歌がバリアを張り、光の斬撃を受け止めた。
「いいぞ、そのまま維持しろ」
レオンがさらに踏み込み、強化した斬撃を繰り出す。
(今の光の振動数を合わせて……)
セリアは歌のトーンを少し下げ、バリアを強化しつつ、衝撃を吸収するように調整した。
「成功……!」
「力が安定してきているな。即座に対応できるようになってきた」
訓練を見守っていたアイリスも納得した表情を見せる。
「以前のような暴走がほとんど見られなくなった。制御の感覚が身についたようね」
「はい。歌の響き方を意識すると、安定させやすいみたいです」
(音波を重ねる感覚を持てば、干渉や共鳴が抑えられる……これが私のやり方かもしれない)
訓練を終え、休憩を取っていると、リクが駆け寄ってきた。
「セリア、今日も絶好調じゃん!」
「ありがとう、リク。だいぶ安定してきたみたい」
「さっき見てたけど、レオン副団長の斬撃をあそこまで抑え込むなんて、さすがだよ」
「でも、まだ完璧じゃないから、もっと練習しないと」
リクが笑いながら肩を叩く。
「お前なら大丈夫さ。俺ももっと鍛えて、お前を守れるように頑張る!」
昼食後、訓練場から戻る途中、騎士団本部前がざわついているのを見つけた。
「何かあったのかな……?」
「セリア、リク、こっちだ」
アイリスが手招きして呼ぶ。
「どうしたんですか?」
「新たな異端者が捕まったらしいわ。街で騒ぎを起こしていたらしい」
「また異端者……?」
セリアは胸騒ぎを感じた。
広場には拘束された若い男が立たされていた。
「俺たちは真実を求めているだけだ! アリアの加護なんて偽りだ!」
男の叫びに、周囲の隊員たちが怒りを露わにする。
「黙れ! 神の教えを否定する異端者が!」
「異端思想を広めるな!」
セリアはその男の声にどこか既視感を覚えた。
(この人、前にも会ったことがある……?)
その時、男がセリアを見つけて叫んだ。
「あんた……あの光の歌詠士か? もしかして、解放を手に入れたのか?」
「解放……?」
男の問いに、周囲がざわつく。
レオンが前に出て厳しく問い詰める。
「解放とは何だ?」
「知らないのか? 歌の力を枷から解き放ち、本来の力を発現させる方法さ」
「そんなものがあるはずがない」
「いや、俺は見たんだ。あの女の歌が暴走しながらも黒狼獣を吹き飛ばした瞬間をな!」
男の言葉に、隊員たちがセリアを警戒する目で見る。
その後、男は地下牢へ連行され、セリアたちは本部に戻った。
団長が険しい表情で問いかける。
「セリア、黒狼獣との戦闘中に何か異常はなかったか?」
「いえ……ただ、力を抑えようと工夫しただけです」
アイリスがフォローに入る。
「私も見ていましたが、確かに暴走ではなく、制御された力でした」
団長はしばらく考え込んだが、やがてため息をついた。
「解放という言葉が気になる。異端者たちがそれを唱えることで、騎士団内部に不安が広がりかねない」
「確かに……もしそれがセリアの力と関連していると誤解されれば、再び問題が起きるかもしれません」
レオンが深刻そうに言うと、セリアは不安げに口を開いた。
「私……また異端者として見られるのでしょうか?」
団長はきっぱりと否定した。
「違う。君は騎士団の一員だ。力が異常であろうと、制御するために努力している。それが事実だ」
その言葉に、セリアは少しだけ胸を撫で下ろした。
その夜、セリアはリクと共に中庭で夜空を眺めていた。
「異端者の話、ちょっと怖かったな」
「うん……でも、私の歌が異端だと言われても、私は信じたい」
リクが笑顔で頷く。
「そうだよな。お前の歌があったから、みんな助かったんだ」
「ありがとう、リク。私、もっと頑張る」
「その意気だ! 俺もお前の歌を支えられるように強くなる!」
(私は、前世の記憶があるからこそ、この力を使いこなせるかもしれない。音羽静としての知識をもっと活かして、私の歌を確立させたい)
セリアは新たな決意を胸に、夜空を見上げた。




