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22.歌が裁く信念の剣

南方の村近郊、黒狼獣を討伐した後、セリアたち神詠騎士団は村人から感謝の言葉を受けていた。

「本当にありがとうございます。騎士団が来てくれなければ、私たちは……」

「無事でよかったです」

セリアが微笑むと、村人たちは安堵の表情を浮かべた。


レオンが指揮を取り、周囲の警戒を続けながら撤収準備を進めている。

「今回の任務、無事に終わってよかったな」

リクがセリアに声をかける。

「うん……私、うまくできたかな?」

「できたってもんじゃないだろ! あの黒狼獣を止めたのはお前だぜ」

リクの明るい声に、セリアも少しだけ胸を張った。



王都への帰路、セリアは馬車の中でぼんやりと考えていた。

(あの時……私は確かに「音波」についての知識を思い出した。だけど、あれは一体……)

黒狼獣の突進で意識が遠のいた瞬間、突然浮かんできた研究室の光景。

「音羽静……音響工学……」

小さくつぶやくと、隣にいたアイリスが不思議そうに聞いた。

「セリア、何か考え事?」

「いえ……ただ、あの時ふと、歌の制御方法を思いついただけです」

「即興であそこまでやれるなんて、驚いたわ。でも、その工夫がなければ、あの魔物には勝てなかったかもしれない」

アイリスの言葉に、セリアは少しだけ自信が湧いた。

(私が持っているこの知識……使いこなせるようになれば、もっと力を抑えられるかもしれない)



王都に戻り、神詠騎士団本部では団長を含めた報告会が開かれた。

レオンが前に立ち、黒狼獣討伐の経緯を報告する。

「今回、セリアの支援が功を奏し、魔物の動きを封じることができました」

団長が厳しい顔でうなずく。

「なるほど、暴走することなく力を抑えたというわけか」

「はい。セリア自身の工夫で、攻撃を和らげ、魔物を封じる歌を即興で編み出しました」

アイリスも補足し、団長が少し驚いた表情を見せた。

「即興で……か。以前のように暴走しなかったのは大きな進歩だ。しかし、その制御法はどこで学んだ?」

セリアは一瞬戸惑ったが、正直に答えた。

「わかりません。ただ、黒狼獣に吹き飛ばされた時、ふと“音波”という考えが浮かんで……」

団長は少し考え込んだ。

「その“音波”という概念について、何か心当たりがあるのか?」

「それが、私にもはっきりとは……」

レオンがフォローに入った。

「戦場での直感だったのかもしれません。セリアが暴走を抑えるために、自ら工夫を凝らした結果です」

「ふむ……確かに、力が安定してきているのは事実か」

団長は少しだけ安堵した表情を見せた。

「今回の働き、よくやった。引き続き制御を徹底しつつ、支援任務に当たることを許可する」

「ありがとうございます」



その夜、セリアは寮の中庭で一人、星空を見上げていた。

(私は……やっぱり前世の記憶があるのかな。音羽静……音響工学……)

頭の中でぼんやりと浮かぶ断片的な記憶。

その時、足音がして、リクが近づいてきた。

「セリア、ここにいたのか」

「リク……どうしたの?」

「いや、さっき団長が褒めてたぞ。『セリアの力が安定してきた』って」

「そうなんだ……よかった」

リクが不思議そうに顔を覗き込む。

「何か悩んでるのか?」

「ううん、ちょっと考え事してただけ」

「お前、今日はすごくカッコよかったぞ。俺も見習わないとな」

リクの言葉に、セリアの顔が少しだけほころぶ。

「ありがとう、リク。私、もう少し頑張ってみる」

「おう、応援してるからな!」



その夜、セリアはベッドに横たわりながら、再び記憶を巡らせていた。

(私は……音響工学の研究者だった……。でも、なぜその知識が突然蘇ったの?)

もやもやとした不安と期待が入り混じり、セリアは眠りについた。



翌朝、訓練場に集まった騎士団の隊員たちが、セリアを迎えた。

「おはよう、セリア!」

「昨日の活躍、聞いたぜ! すごかったらしいじゃないか」

徐々に仲間たちの視線が和らいでいることを感じ、セリアはほっと胸を撫で下ろす。

リクがニヤリと笑って、セリアの肩を叩く。

「な、言っただろ? お前はできるって!」

「ありがとう、リク。本当に……」


その時、レオンが訓練場に現れ、全員を集めた。

「本日より、セリアも支援訓練に復帰する。力の制御が安定してきたとはいえ、まだ気を抜くな。引き続き制御訓練も強化する」

「はい!」

セリアは気を引き締め、訓練に臨む決意を新たにした。

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