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17.歌が裁く疑念の声

異端者が捕まってから数日が経った。

神詠騎士団内では、「異端者の歌」と「歌の暴走」についての議論が続き、不安と疑念が渦巻いていた。

セリアは訓練場で自主練をしていたが、どこか気が散っている。


(私の歌が異端の力だとしたら……)

自分を信じると決めたはずなのに、心の中に不安が広がる。

杖を握りしめ、再び歌を口ずさんでみる。

「――癒しの光よ、安らぎを与え、心を癒せ……」

光が広がり、ふわりと包み込むような力を感じた。

(大丈夫、私の歌は……)


その時、訓練場の端で数人の訓練生たちが話している声が耳に入った。

「やっぱりセリアの歌、危険なんじゃないか?」

「異端者と同じ“解放”とか言ってたし……」

「団長が直接管理してるけど、暴走したらどうなるか……」


セリアは息を飲んだ。

(私が異端者と同じ……? そんな……)



訓練を終え、寮に戻る途中でリクが駆け寄ってきた。

「セリア、大丈夫か?」

「うん……」

「また変な噂が立ってるけど、気にするなよ。お前の歌は異端じゃないって、俺は信じてる」

リクの励ましが胸に沁みるが、それでも不安は消えない。

「ありがとう、リク。でも、どうして私だけがこんなふうに……」

「それは……セリアが特別だからじゃないか?」

「特別?」

「お前の歌には、俺たちが持ってない力がある。だからみんな怖がってるんだと思う」


その言葉を聞き、セリアは少しだけ考え込んだ。

(私が特別……でも、それが異端の力なら、私はどうすればいいの?)



その日の夕方、団長からの呼び出しがかかった。

セリアとレオンが団長室に入ると、グラン団長とアイリスが真剣な表情で待っていた。

「セリア、状況が悪化している。異端者の言葉が隊内で広まり、君の力に対する疑念が強まっている」

団長の声に、セリアは胸を締め付けられた。


「一部の隊員たちは、君の力が危険であるとして、隔離を求めている」

「隔離……?」

「歌の暴走が実戦中に起きれば、味方を巻き込む可能性がある。それを危惧しているのだ」

レオンが険しい顔で口を挟む。

「ですが、セリアの力が危険だと決まったわけではありません。制御訓練も進んでいます」

「それは理解している。だが、実際に黒炎獣との戦いで暴走しかけたのは事実だ。私としても慎重にならざるを得ない」


アイリスが厳しい表情で言葉を続けた。

「信仰を重んじる神詠騎士団において、“解放”という異端の考え方が広まることは避けたい。セリア、君自身はどう考えている?」

セリアは答えに詰まり、唇を噛んだ。

「私は……自分の歌を信じたいです。でも、もし本当に異端の力だとしたら……」

レオンが静かにセリアの肩を支えた。

「恐れるな、セリア。君が信じる道を貫けばいい」


団長はしばらく沈黙していたが、重い口調で言った。

「これ以上、隊内で疑念が広がると混乱を招く。セリア、しばらくの間、実戦任務から外れ、訓練に専念しろ」

「はい……」

セリアは力なく頷いた。



夜、寮の中庭でひとり、セリアは静かに歌を口ずさんでいた。

「――癒しの風よ、心を包み、恐れを消し去れ……」

涙が頬を伝い、震えた声が夜空に溶け込んでいく。

(私は異端じゃない。だけど、みんなを守りたい気持ちが暴走するなら……どうすればいいの?)


すると、ふと足音が聞こえた。

「こんな夜更けに一人か?」

カイルが現れ、木陰に腰を下ろした。

「カイルさん……」

「聞いたぜ。隔離されるかもしれないって話」

セリアはうなだれ、力なく呟いた。

「私の力が異端だとしたら……みんなに迷惑をかけてしまう」

「異端だろうが何だろうが、お前はお前だろ?」

カイルが淡々と言うと、セリアは驚きの表情を見せた。

「力をどう使うかはお前自身が決めることだ。周りがどう言おうと、自分を見失うな」

「でも、異端者が言っていた“解放”って、本当に私の力なのかもしれないんです」

「もしそうだとしても、それをどう受け止めるかだ。俺は“歌そのものの力”を追求している。お前も自分の答えを探せばいい」


セリアは涙を拭い、カイルを見つめた。

「私は……歌で人を救いたい。その気持ちは変わりません」

「なら、その道を進めばいいさ。俺も協力するぜ」

カイルの軽い言葉に、少しだけ心が軽くなった。

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