16.歌が裁く異端の真実
地下牢の冷たい空気が肌を刺す中、セリアは異端者の言葉を反芻していた。
「お前の歌には“解放”がある。神の加護なんてクソくらえだ。歌そのものが持つ力を引き出している。それが暴走の原因だ」
(私の歌が、神の加護じゃない……? じゃあ、一体なんなの?)
隣で様子を見守っていたレオンが、異端者に鋭い目を向けた。
「“解放”とは何のことだ?」
異端者は皮肉な笑みを浮かべて答えた。
「信仰に縛られている奴らには理解できないさ。俺たちは、歌そのものが持つ本来の力を追求しているだけだ」
「神の加護を否定するというのか?」
「加護だと? お前らが使っているのは、ただ力を制御するための枷に過ぎない。本当の歌は、もっと自由で荒々しいものだ」
セリアは不安を抱えながら問いかけた。
「じゃあ、私の歌が暴走するのも、その“解放”が原因なんですか?」
「かもしれんな。お前の中にある“力”が枷を越えようとしているのかもな」
男はニヤリと笑い、拘束されているにもかかわらず、どこか誇らしげだった。
団長室に戻り、グラン団長に報告を終えたセリアとレオン。
団長は眉をひそめながら腕を組んだ。
「異端者の言葉をそのまま信じるわけにはいかない。しかし、“解放”という概念が気になるな」
レオンも同意しつつ、セリアを見やる。
「セリアの歌が神の加護でないとしたら、どう説明すればいいのか……」
団長はしばらく考え込んだが、やがて厳しい声で告げた。
「いずれにせよ、歌の力が暴走し、制御できない事実は変わらない。今後も訓練を続け、完全に安定させるまで実戦参加は控えさせる」
「……わかりました」
セリアはうなだれながらも、その決定を受け入れた。
その夜、寮の部屋で一人、セリアは布団の中でじっと天井を見つめていた。
(私の歌は、神の加護じゃない……? じゃあ、なんで私は歌を使えるの?)
頭の中が混乱し、自分が何者なのかわからなくなりそうだった。
その時、ノックの音がしてリクが顔を覗かせた。
「セリア、起きてるか?」
「うん……」
リクは部屋に入ってきて、ベッドの横に座った。
「さっきアイリス隊長から聞いたけど、異端者が“解放”とか言ってたんだって?」
「うん。私の歌が、神の加護じゃないかもしれないって……」
セリアの声が震えているのを感じ、リクは優しく肩を叩いた。
「そんなこと気にするなよ。お前の歌が何であろうと、俺にとっては仲間を守る力だ。それだけで十分だろ?」
「リク……」
「大事なのはさ、歌が加護かどうかじゃなくて、セリアがどう使いたいかだろ?」
その言葉に、少しだけ救われた気がした。
翌朝、訓練場に向かうと、アイリスが待っていた。
「セリア、今日は私が訓練を担当する」
「はい、よろしくお願いします」
アイリスの眼差しは少し険しく、どこか緊張が走っている。
「君の歌が暴走する理由は、信仰心の問題ではないかもしれない。だが、それでも制御が不十分であれば、危険性が伴う」
「それは……わかっています」
「今日は防御歌を中心に試してみよう。力を分散させながら、衝撃に耐えられるかを確認する」
セリアは深呼吸し、歌唱杖を構えた。
「――守護の風よ、静かに包み、力を緩めよ……」
柔らかい光が広がり、バリアが形成される。
アイリスが軽く杖を振り、防御バリアに衝撃波を当てる。
「うん、安定している。暴走の兆候はない」
セリアは少しだけホッとしたが、アイリスは険しい表情のままだった。
「問題は、力を引き出そうとした時だ。もう少し出力を上げてみろ」
「わかりました」
セリアが力を込めると、バリアが一瞬だけ光を増し、揺らいだ。
「やはり、出力を強化すると制御が不安定になる。歌の強さに気持ちが引きずられているのかもしれない」
「気持ちが……?」
「恐れが歌に影響している可能性がある。自信を持って、歌そのものを信じるんだ」
アイリスの言葉に、セリアはもう一度深呼吸をし、気持ちを整えた。
「――守護の風よ、静かに包み、力を緩めよ……!」
力を込めながらも、心を穏やかに保つイメージを描く。
バリアが安定し、輝きを保ったまま揺るがない。
「やった……!」
「いいぞ、その感覚を忘れるな。歌の制御は、力だけでなく心の安定も重要だ」
セリアはアイリスの指導に感謝しながら、自分の歌に少しだけ自信を持てた気がした。




