10. 歌が裁く探求の歌
夜風が冷たく肌を撫でる中、セリアとカイルは神詠騎士団の裏手にある訓練用の小屋にいた。
普段使われていないこの場所は、実験をするにはうってつけだった。
カイルは机の上にノートや計測器のような道具を並べ、準備を進めている。
「カイルさん、本当に大丈夫なんでしょうか……?」
「安心しろ。騎士団には許可を取ってある。あくまで訓練の一環という名目だ」
カイルは冷静に説明しながら、機械をチェックしている。
「ところで、その道具は何ですか?」
「古代文明の名残を利用した『音波共鳴測定器』だ。歌の振動数や強度を計測できる」
「そんなものがあったんですね……」
セリアは驚きながらも興味を抱いた。
「まずは基準値を取るために、普通の歌詠士と比較する。リク、準備はいいか?」
「はい!」
リクが前に出て、カイルの指示通りに歌唱を始める。
「――癒しの風よ、傷を癒し、命を守れ……」
優しい光が広がり、カイルが測定器を覗き込む。
「ふむ、安定した共鳴波だな。特に異常は見られない」
メモを取りながら、カイルはセリアに視線を向けた。
「次は君の番だ」
セリアは少し緊張しながら、歌唱杖を構えた。
「――癒しの光よ、優しさを与え、傷を癒せ……」
柔らかな声が響き、淡い光が広がる。
その瞬間、測定器が不規則に音を立て、針が大きく揺れ動いた。
「やっぱり……通常の共鳴波と異なっている。周波数が大幅にずれているな」
「それって、どういうことですか?」
カイルは眉をひそめ、ノートに詳細を書き込む。
「普通の歌詠士の歌が持つ振動数は一定の範囲に収まっている。しかし、君の歌はその範囲を超え、独自の波長を持っているようだ」
「独自の波長……?」
「要するに、君の歌は普通の歌詠士とは全く異なる原理で力を発揮している可能性がある」
その言葉に、セリアは戸惑いと不安を感じた。
「次に、共鳴実験を行う。リク、お前はそのまま支援歌を歌い続けろ」
「わかりました!」
リクが歌を続ける中、セリアも同じ歌を重ねた。
「――力の風よ、仲間を包み、速さを与えよ……」
リクの声とセリアの声が重なると、再び測定器が激しく反応する。
「おい、これは……」
測定器の針が振り切れ、光が強烈に弾けた。
「くっ……!」
リクが驚き、よろめく。
「大丈夫?」
「う、うん。でも、なんか急に力が抜けた感じが……」
カイルが真剣な表情で結果を確認する。
「予想通りだ。君の歌は他の歌詠士の歌に干渉し、共鳴現象を引き起こしている」
「共鳴現象?」
「通常、支援歌同士が重なっても、波長が調和して強化される。しかし、君の歌は特異な振動数を持っているため、逆相関を生じ、力が相殺されることがある」
「じゃあ、私の歌が……リクを弱めたってこと?」
セリアの声が震える。
「そうだ。ただ、すべてのケースでそうなるわけではない。君の歌が特に強く発動した場合、他者の歌と干渉して逆効果を及ぼすことがあるようだ」
「どうすればいいんですか?」
「まず、歌の強度を調整する訓練が必要だ。それから、自分の歌がどのように共鳴するかを理解し、調和させる方法を見つけるしかない」
カイルは真剣な表情でセリアに向き合った。
「セリア、君の歌にはまだ未知の力が潜んでいる。だが、その力を否定するのではなく、受け入れて磨くべきだ」
「私……そんなことができるでしょうか」
「できるさ。君がその力を恐れずに向き合えば」
カイルの力強い言葉に、セリアは少しずつ自信を取り戻していく。
「でも、もしまた誰かを傷つけたら……」
「その恐れは誰にでもある。だが、真実を知ろうとする意志がある限り、必ず制御の道が見つかる」
リクが頷きながら言葉を添える。
「俺も協力するよ。セリアが自分の歌を信じられるように、支えるから」
「リク……ありがとう」
二人の支えが、セリアの心を少しだけ軽くした。
その夜、セリアは部屋で一人、カイルから教えられた制御法を試しながら歌っていた。
「――安寧の風よ、心を癒し、静けさを与えよ……」
力を意識的に抑え、音を柔らかく響かせる。
すると、光は少しずつ安定していき、暴走することはなかった。
(やっぱり……意識の持ち方が重要なのかもしれない)
小さな成果を感じたセリアは、希望を胸に抱きながら眠りについた。




