8. 歌が裁く不協和音
翌朝、訓練場に向かうセリアの足取りは重かった。
昨日の訓練で起きた光の暴走――またしても、自分の力が異常だと示してしまった。
レオン副団長の言葉で少しだけ前向きになれたが、それでも周囲の視線が怖い。
訓練場に到着すると、すでに何人かの同期が集まっていた。
しかし、セリアが近づくと、数人がわざとらしく距離を取る。
その冷たい空気に、胸が締め付けられるようだった。
「おい、昨日のあれ、本当にやばかったよな」
「加護の歌があんなに爆発的な力になるなんて、普通じゃないだろ」
「やっぱり、魔物と何か関係があるんじゃないか?」
小声で囁かれる声が、耳に突き刺さる。
セリアは目を伏せて訓練場の隅に座った。
(私……どうしてこんなふうに……)
「セリア、大丈夫か?」
リクが心配そうに声をかけてきた。
「うん……平気だよ」
「また皆が変な噂してるけど、気にするな。あんなのただの憶測だろ」
リクは必死に励ましてくれるが、セリアの心は晴れない。
その日の訓練は、魔物討伐に向けた模擬戦だった。
歌詠士と剣士が組んで連携を取り、実戦形式で戦う練習をする。
「リク、私と一緒にやろうか?」
「もちろん!」
リクが快く引き受けてくれて、少しだけ安心する。
模擬戦が始まり、リクが前衛で剣を振るい、セリアが後方から支援の歌を響かせた。
「――力の風よ、剣を包み、速さを与えよ……」
リクの体が淡く光り、動きが一段と速くなる。
「おお、いい感じだ!」
リクが笑顔で応じ、剣を振るう音が軽快に響く。
だが、その時だった。
別の組が戦っていたエリアから、突如として怒声が上がった。
「おい! あいつ、何しやがった!」
「またセリアの歌が暴走したのか?」
突然の非難に、セリアは驚きながら振り返った。
そこには、倒れた訓練生と、騎士団の教官が険しい顔で立っていた。
「どういうことだ? 加護の歌が逆に体を硬直させただと?」
「違います! 私はただ普通に歌っただけで……」
加護の歌を使った訓練生が、必死に否定しているが、教官の表情は険しい。
「まさか……セリアの力が干渉したんじゃないか?」
「またあの異常な力が……」
囁きが広がり、セリアは言葉を失った。
(私が、また迷惑をかけたの……?)
訓練後、セリアは控室で一人、膝を抱えて座っていた。
何が悪かったのか、どうして力が暴走してしまうのか、わからない。
(私の歌が、みんなに迷惑をかけてる……)
ノックの音がして、リクが顔を覗かせた。
「セリア、入るぞ」
「……うん」
リクがそっと隣に座り、沈黙が続く。
「さっきのことだけど……セリアのせいじゃないよな?」
「わからない……でも、もし私が原因だったら……」
「そんなことないって。だって、セリアの歌は俺にちゃんと効いてたし」
リクは必死に励ましてくれるが、セリアの不安は消えない。
その時、扉が開き、アイリスが入ってきた。
「セリア、少し話がある」
アイリスの冷たい視線が突き刺さる。
「訓練中の事故についてだが、加護の歌が異常に増幅され、逆効果を及ぼしたという報告があった。お前の影響ではないかと懸念がある」
セリアは俯いたまま、声を絞り出した。
「……わかりません。でも、私が原因なら……」
「今後、しばらくは支援歌の訓練を控えるべきかもしれない」
その言葉に、セリアは絶望的な気持ちになった。
「待ってください、隊長! セリアが悪いと決まったわけじゃないです!」
リクが反論するが、アイリスは首を振った。
「確証はないが、同じような事態が続けば、歌詠士としての立場が危うくなる。信仰心を問われる前に、力を制御する術を学ぶべきだ」
アイリスの冷静な判断が、かえってセリアを追い詰めた。
その夜、セリアは一人、訓練場に佇んでいた。
月明かりが照らす中、杖を握りしめ、歌を口ずさんでみる。
「――癒しの光よ、安寧を与え、傷を癒せ……」
光が柔らかく広がるが、また一瞬、強く輝く。
(どうして……制御ができないの?)
不安がこみ上げ、喉が震える。
「セリア……」
振り返ると、レオンが静かに立っていた。
「こんな夜更けに、一人で歌っているとは珍しいな」
「……副団長、私……もう歌が怖いです」
涙を堪えながら、セリアは自分の気持ちを吐露した。
レオンはそっとセリアの肩に手を置き、穏やかな声で語りかけた。
「恐れる必要はない。君の歌が暴走する理由はわからないが、力そのものを否定することはない。君がどうしたいか、それを見つけるまで歌い続ければいい」
その優しさに触れ、セリアは少しだけ涙を流した。




