6話 爆発するストレス
街を出発した馬車は順調に街道を進む。
王都までは片道1週間と結構な距離だ。
俺達はトコトコ進む護衛用の荷馬車に乗って四方を見渡しながら雑談していた。
「兄様、退屈ですね〜」
「……もう飽きたのか、まだ1日目だぞ」
荷台の縁に腰掛け、足をぶらぶらさせながらそう言うソフィア。刺激的な日々を送るこの6歳児には退屈はかなり堪えるようだ。
「なんだい情けないねぇ。そんなんじゃ上のランクには行けないよ?」
アマンダという名の女冒険者がそう言うと、兄弟で冒険者をしている兄マックと弟ジェーンが笑う。彼らも出発した当初はかなり張り切って警戒していたが、あまりの長閑さに今ではすっかりリラックスモードである。
「むぅ〜。あっ!兄様オカリナを」
「仕事中に吹けるかバカ」
そんな話をしながらこの日は何事もなく進み、日が傾いてきた頃野営地に到着した。
すっかり打ち解けた俺達はテキパキと役割分担して準備を進める。狩りに行ったソフィアとジェーンがウサギを数羽仕留めてきたので素早く処理し、冒険者全員で焚き木を囲む。商人とジェゾは別の場所で食事をとっている。
「ソフィアちゃん凄かったなぁ。いきなり茂みに向かって矢を放ったと思ったらしっかりウサギを仕留めていたんだよ!僕なんて全然気付かなかったのに」
一緒に狩りをしたジェーンがそう言ってウサギ肉にかぶりつくと、マックが感心したような視線をソフィアに向ける。
「ほう、狩りでも獲物を見つけるのが得意な弟にそう言わせるとは……天龍族ってのはみんなそうなのか?」
「私や兄様ほどじゃないですけど、他の人達も岩とかに隠れている獲物を察知したりは出来ますよ!」
「そういやアンタ達、天龍族なんだよね、初めて見たよ。ここら辺は平和だけど、王都に行くなら気を付けなよ」
「何を気をつけるんですか?」
スープを飲んでいたアマンダの忠告にソフィアが思わず聞き返す。
「天龍族なんてもう何百年も地上に下りてないって話だからね、姿は謎で山の上に住んでる種族ってくらいしか知らない連中がほとんどさ。その珍しい空色の髪に綺麗な顔、人攫いとか奴隷商が目を付けるに決まってるよ。特にソフィアは狙われるね。ま、龍人って分かれば手を出してこないと思うけどね。なんて言ったって世界の混乱を収める力を持った種族って御伽噺になってるくらいだからね」
そう言ってアマンダは笑った。確かにそれは俺も考えていたことだ。地龍族と海龍族はある程度人と交流しているので認知されているが、天龍族はほとんど知られていない。日本で例えると、雪山に雪女が出るらしい。くらいの認識しかされていないのだ。
ソフィアなら人攫いなど一網打尽に出来る力は備わっているが知識がない。俺みたいにトートに解呪のノウハウを教えて貰っていないため、騙されて奴隷契約でもしてしまったらアウトだ。
これはしっかり教えていかないといけないな。俺はそう思いながら残りの肉を口に放り込んだ。
馬車は順調に街道を進み5日が経過した。この辺りは左右を森に覆われている道が続き、盗賊によく襲撃される場所のようで各自気を引き締めて警戒していた。
しばらく進んでいると、俺は森の奥で1つの気配が荷馬車と併走した後、荷馬車の進行方向へと消えていったのを確認した。
ソフィアも気付いたらしく視線を送ってきた。
「何者かがさっき俺達を見ていた。おそらく盗賊の斥候だと思う。この先襲撃に警戒するぞ」
俺とソフィアの索敵能力を信用してくれている冒険者達はそれを信じて素早く持ち場についた。商人へ伝えるようジェーンにお願いし、俺とソフィアは荷馬車から下りて俺達の荷馬車の御者を挟むように左右に分かれ、並走する。
やがて少し先の木々の影から複数の気配を感じた。よく目を凝らしてみると、軽く土を被せた縄が地面に垂れており、それが左右の木々へと伸びているのが見えた。どうやらそれを引っ張り馬車を足止めして襲撃するようだ。俺は冒険者達にそれを伝えて、馬車の速度を減速させる。
縄を切って逆に奇襲をかけようと思ったその時、俺達が警戒していると気付いた盗賊達が前方の木々から現れた。パッと見30人くらいはいるだろうか。
街道を完全に塞ぐように広がり、数人が俺らの後方へと移動していった。
「……罠に気付くとはやるじゃねぇか。だがどの道終わりだ」
荷馬車が停止すると、この集団のリーダーと思われる大男が一歩前に進み出てニヤニヤしながらそう言ってきた。
「女が2人か……しかもどっちも上玉と来たもんだ。へへっお頭、単独の商人と聞いていやしたが思わぬ収穫ですね!」
「あぁそうだな。特にあの前にいる2人の髪は珍しい色をしてがる。顔も悪くねぇし高く売れそうだ」
リーダーと取り巻きと思われる男がそう言うと周囲の奴らが下卑た笑い声を上げた。
大人数の盗賊に遭遇してしまった商人も御者もこの世の終わりのような顔をしているし、他の冒険者も顔を固くしている。
だが例外もいた。ジェゾは気にせず爆睡しているし、俺は面倒くさそうな顔、そしてソフィアはキラキラと顔を輝かせていた。
「兄様……」
「どうしたソフィ?」
この5日間、朝の日課も出来ず移動する日々を送ってきた。初日で退屈だと不満を漏らすソフィアのことだ、5日もこんな事をしていれば相当なストレスが溜まっていることだろう。
「なんか丁度いい的が現れましたね!」
「……ほどほどにな」
溜まりに溜まったストレスで、もはや目の前の盗賊が的にしか見えていないソフィアさん。後ろに回り込んだのは少数だ、十分彼らで対応できるだろう。
ヤバい雰囲気を醸し出しているソフィアなんて気にもせず、盗賊達がニヤニヤしながら荷馬車の方へ一歩踏み出したその時。ドンッ!という音と共にリーダーが後続を巻き込んで吹き飛んだ。
突然の出来事に全員が固まる中、リーダーがいたであろう場所には、翡翠の“龍気"を纏い、同じ色の角を流れるように後ろ向きに生やしたソフィアが立っていた。
「……さぁ、いきますよ〜」
「な、なn」
隣にいた取り巻きはそれ以上声を発することはもう無かった。“龍気"を全開にしたソフィアの回し蹴りにモロにくらい、数人を巻き込み、それでも止まらず木をへし折りながら横に吹き飛んでいく。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
目の前の人が地面と水平き吹き飛ぶというビックリ現象を目の当たりにした盗賊達だったが、ようやく止まっていた思考が動き出したようだ。声を上げた盗賊の方を向いたソフィアは、にっこりと笑顔を浮かべていた。
そこから先は一方的な蹂躙だった。
無我夢中で振り回される数々の武器を、その小柄な体格を生かして猛スピードで躱し反撃していく。数の差など物ともせず、ある者は武器ごと骨を砕かれ地に伏し、ある者は物凄いスピードで吹き飛んでいく。
冒険者達も我に帰り、挟撃してきた盗賊と交戦を開始する。俺も抜剣して翡翠の閃光が走る集団の中へ進み、次々と賊を打ち倒していった。
5分ほどで盗賊団は壊滅した。なんとか敵を倒しヘトヘトになって地面に座り込んでいる冒険者達を尻目に、俺はとても晴れやかな顔をしているソフィアと共に飛んでいった盗賊を回収する。盗賊達が持っていた縄で全員拘束し、しばらく休憩した。
その後歩けない者は荷馬車に、歩ける者はそのまま歩かせて王都へ再び進み始める。みんなソフィアを見ると怖がってしまい、非常にスムーズに進む事が出来た。
ソフィアの角やオーラについて聞かれたので
冒険者達に龍人についての軽い講義をしながら進み、7日目の朝、ついに王都へ到着した。
沢山の人が行き交う街道を、大勢引き連れて進む俺らは非常に目立ち、門の前で衛兵に呼び止められた。事情を聞いた衛兵はジェゾの姿を見ると納得したような顔をして、俺らを労った後盗賊達を連れて行った。彼らはみんな犯罪奴隷となり、後でその報酬が俺らに支払われるのだ。
手続きを終えて門をくぐると、商人達は依頼書にサインしてジェゾに渡し、街中へ消えていった。俺らはノーフィスより遥かに賑やかな街中を進み冒険者ギルドへ向かう。やはりジェゾはかなり有名のようでギルド内にいた冒険者に次々と声を掛けられていた。
ジェゾは先ほどの依頼書とまた別の書類を受付嬢に渡していた。しばらくすると俺達が呼ばれ、全員のギルドカードを回収された。
「少し緊張感が足りなかったが合格だ。Cランク昇格おめでとう!」
そう言ってジェゾが笑うと、受付嬢から返却されたカードにはCランクと書かれていた。
「……こんな簡単で良いのかい?」
アマンダが不思議そうにジェゾへ問いかけた。
「あぁ、Aランク以上の昇格は厳正な試験があるが、他は試験官を付けて依頼をこなせばオッケーだ。流石に今回の襲撃は予想外だったがレイクルとソフィアがいて良かったな」
(絶対知ってただろ、だから保険でお前が試験官頼まれたんじゃないか?)
(……まぁ細かい事は気にすんな!結果オーライじゃねぇか)
俺が念話で話し掛けたがどうやら図星のようだ。
(それにしてもソフィアちゃん強過ぎないか?あの龍気量は俺以上だぞ)
(……細かい事は気にすんな)
どうやら爆睡しているようでちゃんと見ていたようだ。みんなが報酬を次々と受け取っている中、俺はジェゾと共に不敵な笑みを浮かべていた。




