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龍ノ旅人(旧題 仮免龍神が行く!)  作者: まなしし
第3章 人間の国と勇者編
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4話 自称ベテランと大物冒険者

冒険者ライフがスタートしました!

時刻は早朝。まだ空が薄暗い中起床した俺とソフィアは外に出る。宿の裏手にある井戸で顔を洗い、夜の見張りで眠そうにしている衛兵に挨拶をして北門を通して貰うと、2人で外壁に沿って街の周りを走る。


ソフィアは下半身に、俺は足に瞬間的に“龍気"を発生させて疾走する。街なだけあってそこそこ距離があり、1周で村5周分程を走る事が出来た。普通の龍人なら百メートルほど走れば“龍気"が尽きてしまうが、ソフィアは走りきった。龍神仕込みの訓練の効果は流石である。


南門の衛兵に驚かれたりしながら北門まで帰ってくると今度は街道の脇に逸れて2人で基礎訓練と組手を行う。“龍気"で強化した肉体がぶつかり合い、硬質な音を早朝の森に響かせる。何事かと北門の衛兵が見に来たが、説明すると納得して訓練を眺めていた。


ハイスピードで行われる組手を見た衛兵が口を開けてアホみたいな顔をしていたが、俺はそれを一瞥してソフィアの飛び蹴りを躱し、浮いた体に回し蹴りを叩き込むのであった。


いつもよりハードな早朝訓練を終え、ついに“龍気"が尽きてぐったりしたソフィアを俺は抱え、走る前に渡してあった着替えを他の衛兵から受け取る。

そのまま少し歩き、近くを流れている大きな川にソフィアを放り込み2人で背中合わせになって汗を流す。

そして着替えを済ませ、朝食を食べに宿へと戻る。これが毎朝の日課になりそうだ。


「兄様、今日はどうするのですか?」


堅焼きのパンをスープに浸しながらソフィアがそう聞いてくる。


「今日からランク上げだな。それぞれ依頼をこなして、昼の鐘が鳴ったらギルドに集合して昼飯を食べよう」


「分かりました!競争ですね!!頑張りますよ!!」


早朝訓練の疲れから復活し、やる気を漲らせるソフィア。この世界に時計はあるが高価故にあまり市場に流通していないので朝、昼、夕の決まった時間に鐘を鳴らすのが一般的だ。朝食を食べ終え、服装を整えて2人で早速ギルドへ向かう。


朝のギルドは依頼を探す冒険者で活気にあふれていた。俺たちが建物に入ると、一瞬視線が集まったがすぐに元に戻った。みんな依頼の確保に忙しいのだ。俺たちもEランクの依頼ボードへと足を進める。


「うーん。どれにしようかなぁ〜」

「じゃあ俺は薬草採取だな」

「あ、兄様早い!なら私は〜これ!」


ソフィアが俺に負けじと適当に掴んだ依頼書には『材木確保とその運搬手伝い』と書書かれている……大丈夫だろうか。

まぁEランク依頼だし大した事は無いだろう。俺はそう思ってカウンターの列に並び、依頼を受注して外へ出た。


南門を出て、街道から逸れた森へと向かう。目的の薬草はこの森の浅いところに群生している。傷薬の材料に使われるため非常にポピュラーな草だ。大抵の冒険者は適当に毟ってしまうのだろうが、トートに見せて貰った薬草辞典に採取方法が載っていたのでそれに従い丁寧に根っこから採取していく。また、1つの群生地から採りすぎないのがマナーだ。


あっという間に目標量を集めギルドに戻る。受付嬢に採取が丁寧と褒められながらカウンターに納品して依頼を完了する。ギルドカードを受付嬢に渡すと、カウンター奥にある魔導具にかざしてから返却される。戻ってきたカードは、左側にある丸い模様の下が少し赤くなっていた。これは依頼を達成するたびに模様が赤くなっていき、失敗すると消される。20回連続達成して模様が全て赤くなると円の縁が輝き始めてランクアップ条件を満たすというわけだ。俺はそれを一瞥すると再びコルクボードから新たな依頼書を掴んだ。


犬の散歩や屋根の修理など、街中の依頼を纏めて受注してこなしていると昼の鐘が鳴った。もうそんな時間かと一人呟き、ギルドへ向かう。賑わう昼時だが、酒場ではなく何故かギルド内に人集りが出来ていた。


「あの!俺、朝の依頼で一緒だったんですけど、その体で斧を振り回して木をぶった切って丸太を一人で運ぶなんて本当凄かったです!良かったらこれから一緒にメシでも!!」


「馬鹿野郎!嬢ちゃんは俺とメシを食う約束だ!嬢ちゃん俺の事覚えてるだろ?さっき一緒に廃屋の解体したジャンってんだ!」


「はっ、誰がお前みたいなむさ苦しいやつと飯なんて食わなきゃいけないんだ。嬢ちゃんは朝見かけたときから気になってたんだ。受けてた依頼から察するに初心者だろ?ここはこのCランクベテラン冒険者の俺が手取り足取り教えてやるよ」


「あ、あの……私は待ち合わせをしてて……」


ワイワイガヤガヤと騒ぐむさ苦しい男達の隙間から空色の髪が僅かに見えた。どうやら張り切った結果なかなか人気者になってしまった様だ。と言うかソフィアさん張り切り過ぎだ。俺はため息を吐くと、人集りを掻き分けていった。


「おいソフィ。飯行くぞ〜」


「あ、兄様〜!!行きます!行きますよ!」


俺の声に気付いたソフィアが助かったとばかりに顔を明るくして抱きついてきた。いくら強くなってもまだ6歳。むさ苦しい男達に囲まれるなど恐怖以外の何者でもないだろう。


「あぁ?なんだお前いきなり出てきて」


自称ベテラン冒険者がそう言って睨みつけてくる。ソフィアに言い寄っていた他の冒険者も同じ表情だ。人集りが俺達を囲む様に変形する。


「妹を変態の魔の手から守るのは兄の務めだ」


「んだとぉ⁉︎……ん?お前、そういや朝に嬢ちゃんと一緒にいたな。Eランクの依頼受けてたの見たぞ。なぁ嬢様ちゃん、そんなヒヨッコに守られるくらいならこのCランク冒険者のジャン様が守ってやんよォ!」


そう言ってニヤニヤとソフィアを見てくる。

これはアレだな、中堅と呼ばれるCランクになって気が大きくなっているパターンだ。勇者時代にもこんな奴をよく見かけたものだ。世界は違っても人は変わらないんだな。

……ん?ソフィアが俺の服を握ってプルプルしている。マズい、恐怖から解放されて安心していたが、今度は俺を馬鹿にされてお怒りのようだ。


「おい、なんの騒ぎだ。騒ぐなら外行けよ」


腹も減ったし、ソフィアの鉄槌が下る前に俺がこのオッサンを介錯してやろうかと思い始めたその時。人集りの中から一人の男が俺たちの前に現れた。黒髪を肩まで伸ばし、浅黒い肌をしている。


「あぁ?お前には関係な……」


自称ベテラン冒険者が怒りの表情で振り向いたが、その男を視認すると変な顔で固まってしまった。「お、おいアレ……」「Aランク冒険者のジェゾだ……」「マジかよ!あの地龍族の⁉︎」「なんでこんな辺境に?」騒然となる周囲をまるで気にもせず、男は俺とソフィアを見ると珍しい物を見たように軽く目を見開き、口を開いた。


「お前ら、一緒にメシ食わねぇか?」


先程の周囲の反応からするにかなり名の通っている人なのだろう。ソフィアに声を掛けていた連中も人集りもそさくさと退散していった。依頼完了の手続きをした後、3人で隣の酒場へ向かう。丁度空いた隅の席に腰を落ち着けメニューを注文してから、俺達は改めて男と向き合った。


「さっきは助けてくれてありがとう。俺はレイクルだ」

「ありがとうございました!私はソフィアです!」


2人で取り敢えずさっきのお礼を述べる。挨拶は基本だ。


「俺はジェゾだ。さっきの事は気にすんな……と言うか俺が止めなくても何とかなっただろ。全く、新人が絡まれてると思って声を掛けたらまさかの天龍族とはねぇ。わざわざ山から下りてきたのは……その剣か、まさか本当に引っこ抜く奴が現れるとはな」


ジェゾは笑ながら、俺の隣に立てかけてある剣を一瞥すると感心したような視線を向けてくる。


「俺もまさか取れるとは思ってなかったけどな。引き抜いた以上、何か力になれないかと思って下りてきた。ソフィアは巫女の素質があるから共に旅をすることにしているんだ。こっちも地龍族に会いたいと思っていたんだがこんなに早く会えるとは思ってなかったよ。この前の神託は伝わっているだろう?」


わざわざ真実を話す必要はないだろう。この先もこの説明で通すつもりだ。


「……なるほど。それで下りてきたのか、立派な志だ。大地のことは地龍族の領分だが、協力してくれるならありがたい。神託は伝わっているぞ、召喚したのはこの国アレウス王国。まだ市民に公表していないが、勇者達は今王都で大人しくしている。目的は不明だ」


そう言うとジェゾはやれやれと首を竦めた。

……召喚したのはこの国か。隣国と小競り合いをしているようだが、勇者をぶつけるほど本格的に戦争している訳ではない。獣王国は遠すぎて攻めるメリットがない。大森林を侵略なんてしたら世界中に追求される。となると。


「魔国領に手を出すつもりか」

「……何?」

「本当ですか兄様⁉︎」


2人が食いついてくる。と言うか少し考えれば分かる気もするが……まぁ多種族に興味の薄い龍人のことだ。監視しておいて何か問題が起きたら止めれば良いやくらいにしか考えてないのだろう。運ばれてきた料理を一口食べて、俺はさらに言葉を続ける。


「あぁ、最初の目的はおそらく魔国領だな。この山脈を挟んだ反対側の場所は鉱山資源が豊富だ。一騎当千の勇者達を育てて少数で山脈を越えて侵略。次はそこを拠点にして兵を送り込み、あわよくば魔国領をと考えているのだろう」


「そいつは……何とも……」


「無謀というか杜撰な計画だな。反対側の街は制圧出来たとしても拠点の確保を維持するので精一杯になるだろう。勇者達の強さによってはそいつらだけで魔王城へ乗り込むくらいは出来るだろうが……悪戯に魔族を刺激して戦争を起こすだけだな。だから最初のと言ったんだ。おそらく別の目的があるのだろうが、現時点では考えようがないな」


どうせ昔に召喚された勇者の文献を見つけたに違いない。当時の魔王は転生者で、様々な策を用いてこちら側を侵略していたようだ。龍神が介入しようかと考え始めたその時に召喚され、戦況を一人でひっくり返し、今の状態に落ち着けた勇者は相当な強さだったのだろう。そんなイメージの存在を12人も召喚してしまったら舞い上がってしまうのも無理はない。


「人間と言うのはどうしてこうも救い難いんだ……で、お前らはどうするつもりなんだ?地龍族は監視を続けて、その戦争が本格的に起こったら両方を止めるように動くと思うが」


「それで構わない。準備だってあるし、この国もすぐ行動を起こす事はないだろう。俺たちはもう少し力をつけたら勇者に接触するか、魔王に会ってみようと考えている」


これは次の段階の目標だ。初めて聞いたその話にソフィアが驚いている。


「そうかい。この事は既に念話で仲間に伝えてあるから、行く先々の地龍族は協力してくれるだろう。冒険者やってる奴はあまりいないが、宿屋とか商人やってる奴は結構いるぞ」


「……念話?」


驚いていたソフィアだが、聞き慣れない単語に今度は首をかしげる。


「んん?龍人なら念話は使えるだろう……まさか山に引き篭もってるから天龍族は使ってないのか?」


その問いかけに俺たちは頷く。そう言えば龍人は念話を使えるとエルマに教えて貰ったが周囲は誰も使っていなかったな。


「なんという事だ……念話って言うのは頭の中で離れていても会話が出来る技だ。使う為にはまず、お互いに“龍気"を少し分けて登録するんだ。それが終われば次からは少し“龍気"を纏って相手の事を思い浮かべれば相手に声が伝わる。1対1でしか念話出来ないが便利だぞ。ここで会ったのも何かの縁だ、3人で登録するか」


俺達としても、そんな便利機能使わない手はないので登録を行う。


(兄様!聞こえますか?)


早速ソフィアが俺に使ってきた。


(ちゃんと聞こえてるぞ)


ジェゾとも同じやり取りをした後、昼食の残りを平らげ酒場を出る。すっかり長話をしてしまった。


「なかなか有意義な話を出来て良かった。そう言えばジェゾはどうしてここに?普段は王都で活動してるんだろ?」


俺はふと気になった事を聞いてみる。


「あぁ、あっちの方で一仕事終えたから羽を伸ばしにな。ここは山の麓で綺麗だし居心地が良いんだ。お前達も自由に動きたいなら早いところBかAランク目指した方が良いぞ〜。Sランクになると金と地位は貰えるが行動が制限されちまうからな」


彼の口ぶりから思うにSランクの実力はあるのに昇格を蹴っているのだろう。そりゃ有名になる訳だ。


こっちに来た理由がなんか嘘臭く感じたが、問い詰めるほどでも無いだろう。そう思って俺たちは午後の活動する為にそれぞれの方へ歩き出した。



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