第14話 祝祭の裏
2人目の子供が産声を上げたのは、激しい嵐の夜だった。
黎克に続き、私と白蓮の間に授かったのはまたも男の子。
「愛璃、よくやった!」
琉克は、父親である白蓮より先に、赤子を抱き上げる。
「名は凛克とせよ」
そう、短く告げた。
白蓮の血を引きながら、琉克の一字を刻まれたその子は、誕生した瞬間から、皇帝の所有物であることを運命づけられていた。
翌月、新たな皇族の誕生と、長男の黎克が3歳になったことを祝う祭りが盛大に行われた。
「時間だ、民が待っている」
琉克の声を合図に、私は凛克を抱いて、祝いの場に参列した。
雲ひとつない青空の下、宮廷前の大広場には、大勢の民がひしめき合っている。
「皇帝陛下!万歳!」
琉克の治世を称える声が、地響きのように鳴り響いていた。
「陛下、みんながぼくを見ていますね」
「黎克はこの国の希望だからな。ほら、民衆に手をふってごらん」
大陸での人気を確立した舞神である白蓮。
その息子であり、カリスマ的な魅力の皇帝の血を引く黎克。愛らしくも立派な姿に、歓声があがる。
「わぁ、すごいね!」
「そうだな」
琉克は黎克の小さな手を取り、微笑んでいる。
2人の後ろ姿は、まるで親子のよう。
群衆を見下ろすその眼差しは、もはや疑いようもなく琉克に似ていた。
「愛璃」
白蓮がそっと私の肩に手を置いた。
「ええ、大丈夫よ」
やがて、黄金の衣を纏った琉克が、ゆっくりとバルコニーの最前列に立った。
民の歓声が最高潮に達したその時、スッと右手を挙げる。
――その一瞬で静寂を強いた。
「我が民よ。この祝いの場で、私は重大な宣言を行う」
広場を埋め尽くす群衆、そして背後に並ぶ皇族や臣下たちが、何事かと息を呑む。
「ここにいる黎克を、我が正統なる後継者――、皇太子に指名する」
一瞬の静止の後、爆発的な歓声が上がった。
しかし、その歓喜の渦とは対照的に、バルコニーの一角には凍りつくような殺気が渦巻いた。
「――正気か、琉克……!!」
声を荒らげたのは、現皇太子の地位にいた異母兄、驍宗だった。武官を掌握する強硬派であり、次期皇帝の座のため、琉克の首を狙っていたのは周知の事実。
「どこの馬の骨とも知れぬ舞男の種を皇太子だと? 皇族の血を汚すのも大概にせよ」
「驍宗、言葉を慎め。これは皇帝である私の意志だ」
琉克は激昂する驍宗を冷ややかに見下した。
「……許さぬ。断じて許さぬぞ、琉克! 正室の娘だからと偉そうな愛璃も、その子供たちも、卑しい舞男も、まとめて地獄へ送ってやる!」
驍宗は吐き捨てるように言い残すと、自らの配下を引き連れて祝宴の場を去った。
「驍宗兄様!」
「放っておけ」
振り向くと、琉克が私を見つめていた。
「案ずるな、愛璃。すべては予定通りだ」
琉克が耳元で囁いたその声は、祝祭の喧騒を貫いて、私の鼓動を凍りつかせた。
「蓮耀国の新たな希望に万歳!」
民衆の声がいつまでも空に響いていた。
――その日の夜。
祝祭の篝火が消えぬうちに、玄武殿の警備兵たちが密かに、しかし一斉に持ち場を離れた。
ついに、琉克が牙を剥き始めたのだ。




