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転生した元公務員の俺は、 貧乏辺境伯領を教育改革で立て直す ~文字も読めなかった領民が王国を支えるまで~  作者: 芋平


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第27話 公開の場

 公開討論会の告知は、想像以上に早く広まった。


『教育と国家の関係について』

『学ぶ者・教える者・管理する者の三者による公開討論』


 王都中央広場。

 誰でも立ち会える形式。


「……やりすぎでは?」


 トーマが、珍しく弱気な声を出した。


「一歩間違えば」

「火に油です」


「分かっている」


 分かっていて、やる。

 それが、今回の選択だった。


 隠せば、疑念が育つ。

 閉じれば、地下に潜る。


 なら――。

 最初から、光の下に出す。


 当日。

 広場には、想定以上の人が集まっていた。


 貴族。

 職人。

 元生徒。

 教師資格を失った者。

 そして、ただの野次馬。


 壇上には、三つの席。


 国家側代表――エドガー。

 教育現場代表――資格教師の一人。

 学んだ側代表――あの青年。


 俺は、進行役として、一段低い位置に立っていた。


「本日は」

 声を張る。

「結論を出す場ではありません」


 最初に、釘を刺す。


「意見を、見せる場です」

「違いを、隠さないための場です」


 ざわめきが、少し収まる。


 最初に話したのは、エドガーだった。


「教育は、国家の基盤です」

「だからこそ、管理が必要です」


 簡潔で、無駄がない。


「善意だけでは」

「社会は、守れない」


 拍手は、まばらだが、確実にある。


 次に、教師代表。


「現場では」

 少し緊張した声。

「資格よりも、子供の目を見ています」


「制度は、必要です」

「でも、現場を信じてほしい」


 共感の声が、あちこちから上がる。


 そして――。


 学んだ側の青年が、前に出た。


「俺たちは」

 深く息を吸う。

「教育を、もらいました」


「だから」

 続ける。

「考える力を、持ちました」


 静かになる広場。


「考えた結果」

 彼は言う。

「疑問を、持っただけです」


「なぜ」

「学びの形を」

「選ぶ権利が、俺たちにないのか」


 直接的だが、荒れてはいない。


 誰かが叫ぶ。

「じゃあ、どうしたいんだ!」


 青年は、一瞬だけ言葉に詰まり――

 そして、正直に言った。


「……分かりません」


 その答えに、空気が揺れた。


「でも」

 彼は続ける。

「考え続けたい」


 拍手が起きた。

 大きくも、小さくもない。

 だが、確かに。


 その瞬間。

 後方で、怒声が上がった。


「綺麗事だ!」

「責任も取らずに!」


 一人の男が、前に出てくる。

 地下私塾の関係者だ。


「お前らは」

 青年を指さす。

「表に出ただけで、満足か!」


 空気が、張りつめる。


 俺は、すぐに前に出た。


「……ここは」

 低く言う。

「殴る場ではありません」


 男は、こちらを見る。


「じゃあ」

 吐き捨てる。

「誰が、責任を取るんだ!」


 答えは、一つしかなかった。


 俺は、はっきりと言った。


「私です」


 どよめき。


「制度を作り」

「線を引き」

「ここに、この場を作った」


「その結果がどうなろうと」

「責任は、私が引き受けます」


 エドガーが、こちらを見る。

 驚きは、ない。


 覚悟を、確認する視線だ。


 男は、何か言いかけ――

 やがて、黙って引いた。


 討論会は、その後も続いた。

 結論は、出ない。


 だが。


 誰も、血を流さなかった。

 誰も、逮捕されなかった。


 それだけで、十分だった。


 夕方。

 人が散り始める。


 青年が、近づいてきた。


「……失敗、ですか」


「いいや」


 即答する。


「初回としては」

「上出来だ」


 彼は、少しだけ笑った。


「俺たちは」

「どうなるんでしょう」


 問いは、重い。


「分からない」


 正直に言う。


「だが」

 続ける。

「もう、無かったことにはならない」


 教育は、声を生み、

 声は、場を生んだ。


 それだけで、

 世界は、少し変わった。


 だが同時に――。


 光の下に出た火は、

 もう、簡単には消えない。


 次に燃えるのは、

 希望か。

 それとも――分断か。


 国家教育編は、

 その分岐点に、静かに差しかかっていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

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