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転生した元公務員の俺は、 貧乏辺境伯領を教育改革で立て直す ~文字も読めなかった領民が王国を支えるまで~  作者: 芋平


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第18話 試験導入

 決断は、夜まで持ち越された。


 執務室の灯りの下、再審請求制度の案を何度も書き直す。

 言葉を弱め、範囲を狭め、責任の所在を曖昧にする。


 ――通すための文章だ。


 理想を通す書き方ではない。

 だが、現実を動かすには、これしかない。


「……試験導入」


 そう呟いて、最後の行に線を引く。


『一部地域・一定期間に限り、進級停止者による再審請求を認める』

『判断は第三者委員会が行い、最終決定権は行政に帰属する』


 声は与える。

 だが、主導権は渡さない。


 不完全で、歪んだ妥協。

 それでも、一歩だ。


 翌朝。

 エドガーの執務室に、正式に提案を出す。


 彼は、目を通すなり、眉をひそめた。


「……また、余計な手間を」


「手間です」

「ですが、必要です」


「何のために?」


 即答する。


「制度が、暴走しないために」


 エドガーは、鼻で笑った。


「制度は、感情で暴走しません」

「人が暴走する」


「なら」

 一歩踏み込む。

「人が声を持たない制度は、必ず歪む」


 沈黙。


「あなたは」

 彼は言った。

「国家を信用していない」


「違います」

「人間を、信用しすぎていないだけです」


 しばらくの間、沈黙が続いた。


「……条件があります」


 エドガーが、ようやく口を開く。


「試験導入は、王都直轄地域のみ」

「期間は、三か月」


「短すぎます」

「十分です」


「結果が出なければ」

「即、廃止します」


 想定内だった。


「構いません」


 俺が頷くと、彼は少しだけ目を細めた。


「あなたは」

「制度の中で、革命を起こそうとしている」


「革命ではありません」

「保守です」


 彼は、意味が分からないという顔をした。


「壊さないために」

「変えるだけです」


 数日後。

 試験導入が、布告された。


 小さな記事。

 目立たない告知。


 だが、反応は、想像以上だった。


「……本当か?」

「意見を、言っていいのか」


 王都の下町。

 地方から来た若者たちが、ざわつく。


 その中に、ミレイユの姿があった。


「始まりましたね」


 彼女は、静かに言った。


「まだ、試験です」

「分かっています」


「だからこそ」

 彼女は続ける。

「ここで、失敗させません」


 彼女の背後には、数人の若者が立っていた。

 皆、学校で学び、今は行き場を失った者たち。


 再審請求の受付が始まる。


 最初の数日は、静かだった。

 誰も、やり方が分からない。


 だが、一人が動けば、流れは変わる。


 簡素な文書。

 拙い字。

 だが、理由は明確だった。


『努力した』

『諦めていない』

『学ぶ機会がほしい』


 それらが、次々と積み上がっていく。


 委員会は、戸惑った。


「……想定より、多いな」

「処理が追いつかない」


 トーマが、報告してくる。


「現場から、苦情も出ています」

「“前例を作るな”と」


 当然だ。


 その夜。

 エドガーから、短い通達が来た。


『結果を、出せ』


 それだけ。


 翌日。

 最初の判断が下された。


 再審、却下。


 理由は、明確だった。

 基準未達。


 ミレイユが、俺のもとに来る。


「……厳しいですね」

「ええ」


「ですが」

 彼女は言った。

「これで、皆、分かりました」


「何を」


「声を上げても」

「すぐには、報われないということを」


 それは、失望ではなかった。

 覚悟の顔だった。


「それでも」

 彼女は続ける。

「続けます」


 その目を見て、理解した。


 試験導入は、制度のためではない。

 人のためでもない。


 **覚悟を持った声を、選別する装置**だ。


 その危うさを、俺は噛みしめる。


 三か月後。

 この試験は、何を残すのか。


 秩序か。

 反発か。

 それとも――。


 教育は、もう静かではいられない段階に入っていた。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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