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第81話:巨魔試験(17)

 病室を出て、病院内をあてもなく適当に散歩する。

 すると、イェルが慌てた様子で俺の元へと駆けつけた。

 呼吸が乱れており、なんだかただならぬ気配。


「どうかしたのか?」

「ルクス。アリアンナさんが大変です」

「なにかあったのか?」

「それが、巨魔試験に参加した可能性があるのです!」


 イェルの様子とは対照的に、俺は落ち着いており、アリアンナに対して感心したような声を発した。

 へー、アリアンナも成長したなぁ。

 昔はあんなにふわふわしてたのに、今では自ら危険な試験に飛び込んで、果てしなき武術坂(ぶじゅつざか)を登ろうとするなんて、もう立派な武人だ。


 これは先輩としてアリアンナを応援してあげないとな。

 俺の反応に違和感を覚えたようで、イェルは少しだけ語気を強めて俺に詰め寄った。


「ルクスはアリアンナさんが心配ではないのですか?」

「うん。まったく。むしろアリアンナの成長を感じて嬉しく思うよ」

「はぁ!? あ、あなたはいったいなにをおっしゃっているのですか。わけがわかりません!」


そんなこと言われても困る。

武人とは戦いの中で自分の価値を証明する生き物だ。

巨魔試験は過酷な試験かもしれないが、厳しい分、乗り越えればそれだけ強くなれるはずだ。

俺がそのように返事を返すと、イェルは大きなため息を吐いた。


「あの、アリアンナさんが勘違いしてロゼさんについて行った可能性があると思うんですけど」

「イェルは心配性だな。いくら天然なアリアンナでも、気づかずに試験に参加するわけないじゃないか」

「普通ならそうですけど、他でもないアリアンナさんですよ?」

「アリアンナは強い子だ。決めつけるのは良くない。アリアンナは自分の意思で試験に参加したはずさ」

「いや、決めつけてるのはアナタじゃないですか。普通に考えて平和思考のアリアンナさんが巨魔試験なんかに参加するわけありませんって」

「母さんや、あの子を信じてあげましょう」

「私はアナタの妻になった記憶はありません」


 チョップするような動きで、イェルが俺の言葉にツッコミを入れた。

 一方、俺は腕を組み、威厳に溢れた顔つきでイェルを見つめる。

 それを見たイェルは、呆れた表情でふたたびため息を吐いた。


 たしかにアリアンナは天然だ。

 だが、もっと強くなりたいと思う気持ちがあるのは事実。

 今は二流武人であるが、修行を続ければ一流武人にもなれるだろう。

 だが、実践の経験はいつでも積めるわけじゃない。

 実際に命の危機に直面しなければ気づかないこともたくさんあるし、そこで学べることも多くある。


 だから今回の巨魔試験はアリアンナにとってとても良い経験になると考えている。

 もしかするとその過程で死ぬかもしれないが、死んでしまったときはその程度の器だったということだ。

 俺はアリアンナを子ども扱いするつもりはない。

 それはアリアンナを一人の仲間として認めているからだ。


 心配性のイェルはやばいよやばいよと繰り返し呟いているが、一番やばいのはお前の可愛さだ。

 千歳を軽く超えてるロリババアなのに、どうしてこんなにかわいい反応できるんだ。

 ほんとかわいいな、キミ。こっちの理性が飛びそうだ。


「そんなに心配なら見に行けばいいじゃないか」

「そうですね。そうします。誰かさんはすっかりとロゼ思考に頭が染まって会話になりませんし」


 ロゼ思考という謎ワード。

 間違いなく良い意味で使われてないだろう。


 とりあえず、セレナードの問題も解決して特にやることがないので、俺もイェルについて行くことに決めた。


 道中ではイェルのペースに合わせているが、かなりアリアンナを心配してるみたいで、風のように山道を駆け抜けていく。


 10分後には目的地の山頂に到着するほどだ。


「参加者の方ですか?」

「いえ、ここに金髪のエルフがきませんでしたか?」

「天魔宝剣と一緒にいた方ですか?」

「そうそれ。その方の行方を探してます」

「その方なら天魔宝剣やザイン氏と一緒に試験に参加してましたよ」


 受付の言葉にイェルは絶句した。

 かわいそうなイェル。俺達が毎回問題起こすからいつも尻拭いをさせられてる気がする。



次回から本格的に一次試験が始まるので、サブタイトルの名称を変えます。

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