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第79話:巨魔試験(15)

「あの、ルクス。私達はどうして闘技場のど真ん中に立っているんですか?」

「知らん。あそこにいる剣馬鹿に聞いてくれ」


 俺の言葉にセレナードは小さくため息を吐く。


「ほらほら二人とも! もう勝負は始まってるんだから早く剣を抜いて斬り合いなさいよ!」


 観客席からロゼの声が響く。


「はわわわ……!? 本当にあの子を病院から連れ出してるじゃないですか……!」

「控えめに言って彼女はキ〇ガイですね」


 同じく観客席にいるアリアンナとイェルが、それぞれそう言った。

 病院から連れ出した過程で大騒ぎになり、その結果、決闘場にはたくさんの人々が集まっている。

 俺の知り合いは当然の事、名も知らない野次馬たちも観客席でワイワイと観戦していた。


 もはや言い逃れは不可能だし、この決闘が終われば間違いなく何らかの別のトラブルが発生するのは明白。

 良くて出場停止、下手すると法的処置も発生しかねない。

 今度ロゼと再会する時は法廷か牢屋かもしれないな。

 これから試験を受ける奴の行動とは思えないロゼの蛮行に流石の俺もドン引きしていた。


 とはいえ、これを機会にセレナードと一度話をしてみるのも悪くはないかもしれない。

 かつての仲間であり、俺を殺そうとした主犯。

 いまも、俺の心は複雑だ。

 おそらく頭で考えるだけでは永遠に答えが見つからないだろう。


 それなら剣しかない。

 俺達は『武人』だ。

 戦いの中でしか答えを見つける事が出来ない不器用な生き物。


 俺は大きく深呼吸をする。

 そして、ゆっくりと袖から雷龍刀を取り出した。


 自身の掌に収まる程度の小さな暗器。

 しかし、この武器にはそれ以上の大きな信念が宿っている。

 小さくとも決して折れる事がない。


「セレナード。お前も剣を抜け。お前の『覚悟』がどれほどのものか、今から俺が見極めてやる」


 覚悟が足りなければ殺すことも辞さない。

 俺はその気持ちを今の言葉に乗せて伝えた。


 セレナードにもそれは伝わったようで、ゆっくりと静かに鞘から剣を抜いた。


「ルクス。私はこれまでアナタが嫌いでした。崇高な使命もないのにパーティに入って、そのくせ私よりも遥かに強くて、立派に白道を歩んでいる。そんなアナタが太陽みたいに眩しくて本当に嫌いでした」


 セレナードは剣を中段に構える。

 時計の針の12時を向いた方角に剣先を向けて、満月を描くようにゆっくりと時計回りに回転させていく。

 前世よりもやや白みがかった白銀の髪が、月の光に怪しく照らされて幻想的に光る。


 次の瞬間、俺の方から駆け出して攻撃を仕掛ける。

 彼女の首元を狙う鋭い一撃。

 しかし、それは白い刃によって阻まれる。


 セレナードが刀身で受け止めたのだ。

 今の彼女は《霊力武装》を纏っていない。

 俺の基本速度は雷速なので、霊力武装がなければ捉えきれないはず。


 なぜだ?


 疑問は残ったが、俺は二撃目の攻撃を放つ。

 これまたセレナードは冷静に剣で受け流した。

 それだけでなく、刃を滑らせるように反撃さえしてきた。


 だが、俺はすでに霊力武装を纏っているためその攻撃は通らない。

 岩盤に阻まれるような硬い音が響き、セレナードの剣が一瞬止まる。

 その隙をつくように俺は彼女を蹴り飛ばした。


 鈍い音が聞こえ、セレナードが地面に落下した。

 セレナードの咳込む声が聞こえる。


 本来なら今の一撃だけで彼女を殺すこともできた。

 だが、俺はそれをなぜかしなかった。


 理由は自分でもわからない。

 答えの見つからない答えを探す。


 セレナードは闘争心を失っておらず、フラフラと立ち上がり、今度は自分の方から俺に向かってきた。

 当然、俺も迎え撃つ。

 お互いの剣が幾度も激しくぶつかり合う。

 基本的に俺の方が優勢であるが、それでも彼女は持ちこたえている。

 幼女になったことでスピードと威力は半減してるものの、敵の攻撃を最小限の動きでかわし、冷静に戦局を見極めている。


 彼女は紛れもなく超一流武人であった。


「ルクス」


 セレナードが俺の名前を呼んだ。


「なんだ?」

「私は変わりたい」

「随分と虫のいい話だな。俺には刺客を送ってきたのに、今更許して下さいと言っても俺は絶対許さないぞ」

「それでも私は変わりたい。許してくれなくてもいい。私は、アナタのように真っすぐな目で剣を握りたいんです!」


 セレナードはそう叫んで、大きく剣を振った。

 刃で受けるが、予想以上に大きな衝撃が俺の手に伝わり、俺は少しだけよろけた。


 すぐに追撃が来ると思ったが、セレナードの動きが突然止まり、顔に大量の冷や汗をかいている。

 上手く呼吸ができていないようで、苦しそうにしている。目の焦点も合っていない。


 昼間と同じく、発作が起きたのだ。

 激しい動きに、極限の緊張感。

 発作が起きてもおかしくない状況ではあった。


(……流石にこれ以上は戦えないか)


 俺はそう判断し、剣を下そうとした。

 が、セレナードが飛び掛かるように突っ込んできた。

 もちろん、発作が治ったわけではなく、その表情は苦悶に満ちて今にも死にそうだ。

 目には大量の涙が浮かんでいる。


「セレナード。それ以上動けば死ぬぞ」

「………死んでも……いい」


 雷龍刀に刃を押し込みながら、鬼気迫る表情で答える。


「ルクス……わた……し、本当に、変わり……たい。もう、後悔は………したく、な…………」


 セレナードは、最後の言葉を言い終えることなく、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 すでに呼吸はしておらず、今ので息絶えたのがわかった。


(後悔したくないか……)


 彼女が最後に伝えようとした言葉を心の中でつぶやいた。

 その後、彼女をそっと抱き上げて、観客席にいるイェルを呼んだ。


「彼女の治療を頼む」

「もう用件は済んだんですか?」

「ああ。もう大丈夫だ」


 セレナードの覚悟は十分伝わった。

 それに、俺が憎んでいたセレナードはもう死んだ。

 死んだ相手に憎悪をぶつけるほど俺は執念深くない。 


 イェルの治療が終わったら今度はちゃんと受け入れよう。

 俺はそう思いながらイェルと共に病院へと引き返した。



【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

セレナード:エメロード教の元聖女。現在は転生して7歳の少女になっている。

イェル:千歳以上生きている仙女。

ロゼ:天魔の一人娘。


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