第62話:深淵の帝王(4)
奈落へと近づくにつれ、その建物が誰かの邸宅である事がわかった。
貴族の邸宅らしき建物はオクシデントな建築様式で彩られており、その規模は上流貴族の邸宅にも匹敵した。
屋根の上に時計台がある建物はコの字型をしている。
上下の窓の並びから察するに三階建てだと思われる。
その建物と、少し離れた位置にある別の建物は五階建て。
もう一つの建物とは完全に切り離されているようだ。
庭園には木々や花壇が並んでいた。花壇には紫色の花が多く植えられている。
人の姿は今のところ一人も見えない。
仮にいたとしても、光すら届かないこの深淵で活動する輩なんて普通の人間ではないだろう。
おそらく、魔人の邸宅だと考えられる。
そしてようやく、俺達は最深部に降り立つ。
がっちりとした安定した大地を踏むと少しだけ安心感を覚えた。
さて、どうやって屋敷に近づこうか考えていると、
正門がゆっくりと開いて、そこから金髪女性が現れた。
シャルロット本人ではないが、それに近い相貌の女性。
背中には黒い蝙蝠の翼が生えている。
相手側は俺達の存在に気づいていたようで、俺達の方へとまっすぐと近づいてくる。
「旦那様がお待ちです」
吸血鬼は開幕そう告げる。
そして、くるりと背を向けてそのまま屋敷の方へと戻っていく。
特に挨拶もなかった。
俺とロゼは顔を見合わせて彼女についていくか相談する。
結局、あの女性についていく事に決まった。
こちらの存在はすでにバレているので臆しても仕方ない。
門をくぐり屋敷へと入る。
すると遠目からでも確認できた庭園が視界に広がった。
「ふーん、随分と立派な庭だな。魔族にしてはなかなかセンスがある」
俺がそう呟くと前を歩いている女性が一瞬立ち止まり、
こちらを振り返ってギロリと睨みつけてきた。
ほとんど無意識で出た言葉だったので悪気は一切なかったが、怒らせたのなら謝らないとな。
たとえ相手が魔族とはいえ、敵意を見せなければ俺も礼儀は重んじるつもりだ。
「すまなかった。悪気があって言ったわけじゃないんだ」
「……別に怒ってませんよ、下等な人間」
冷たい言葉を告げて再び歩き始めた。
どうやら俺達に対して好意的な感情は持っていないようだ。
その後も彼女の案内に従って目的地まで淡々と進んでいった。
最終的に俺達は大広間へと到着した。
広間の一番奥。
玉座には肥満体の吸血鬼が座っていた。
全長が二メートル以上もあり、横幅も大きいためとても威圧感があった。
目つきが鋭く、口も大きい。大きな牙が口の端に見えた。
背中には巨大な四枚の羽根。
どうやら彼も吸血鬼のようだ。
めちゃくちゃ偉そうに座っているので彼がここの主だとすぐにわかった。
「旦那様。申し付けいただいた通り、ここまで彼らを連れて参りました。例の侵入者でございます」
「うむ、よくやった。下がっていいぞ」
「承知しました」
女性吸血鬼はそう答えると無表情で大広間から出て行った。
「我が名はバルデッシュ。吸血鬼一族を統べる深淵の帝王である」
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
ルクス:化境の武人。
ロゼ:天魔の一人娘。
【読者の皆さまへ】
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