第58話:聖女の平穏(完)
一週間後。
私はマチルダと共に街へとお出かけした。
個人的に剣の修行の時間に充てたかったが、あまりにも以前と行動が異なると従者に怪しまれるので子供らしい振る舞いも必要だろう。
また、息抜きも兼ねている。
私は現在、アビスベルゼのクエム地方のマターラという町に暮らしている。
このマターラは、国の中でもかなり発展してる場所であり、多種多様な施設が存在してる。
そしてアビスベルゼと聞くと、住民は全員修羅しかおらず、人を食い、妻を凌辱し、人を平気で虐殺する人間の皮を被った生き物が生活していると教わったが、それはまったく嘘のようで、この地で出会う住民はみんな普通の人達ばかりだった。
とはいえ、気になる部分がまったくないわけではない。
この国では『天魔神教』という宗教が国教となっている。
どんな宗教かというと、天魔を頂点とした魔王軍のような軍隊式の宗教である。
天魔>巨魔>魔将>魔頭>魔卒>魔徒の六階層から成り立っており、武人がある程度の力を持っている。
そのため、イキってる武人がそれなりに散見された。
天魔神教の教えでは、武人は一般人に対して横暴な振る舞いをすることは禁じられているが、あまり守られていないようにも思える。
武功を学んだ者は、どうしても力を持っている分、そうでない者を下に見がちだ。
だが、それは私の国でも同様であるため、すべての国が持っている構造上の欠陥と言えるだろう。
今後、混乱が起きないように最初に断言しておくが、
私は今でもエメロード教の敬虔な信徒である。
前世では大きな過ちを犯したとはいえ、エメロード教の基本的な教えは間違ってないと思ってるし、それを守り続けることがエメロード様への償いにもなると信じている。
エメロード教に従うと黒道に堕ちるのなら流石の私も宗教を変えるが、黒道に堕ちたのはあくまで私自身の責任であってエメロード教そのものに罪はない。
重要なのは、それをどう扱うかだ。
人殺しの道具である剣も、正しく扱えば悪党から大切な人を守るための道具に変わる。
剣術も宗教も、最終的にはその者の『心』が一番重要になってくるのだ。
今世では、その『心』を大切に考えて生きるつもりだ。
エメロード教の教えを守りつつも人の道としておかしいと感じたら柔軟に対応する。
前世の失敗を今世では上手く生かしていきたい。
道沿いを歩いていると服屋が視界に止まった。
私がいた国での考え方だが、
自分の従者に金品を与えることは美徳とされている。
それがよく働く者なら尚更だ。
この子はまだ七歳なので、褒美を与えるという行為をあまりしてこなかったみたいだ。
マチルダは比較的この子に忠実なので、たまには労ってやることも、今後の良い関係にも繋がるだろう。
この機会にマチルダに服を買ってあげよう。
「お嬢様。お洋服が気になるんですか?」
「ええ。見てもいいかしら」
「もちろんです。参りましょう」
店内に入る。
カラフルな衣装が並んでいた。
店の外装からそこそこ予想していたが、ここは貴族を中心に取り扱った服屋のようだ。
「いらっしゃいませ。あらまあ可愛らしいお嬢さんですね。今日はどういった服をご希望ですか」
店員がやってきて私におべっかを使う。
よくある光景だ。
私は特に気にせず、マチルダを指差した。
「この方に服をプレゼントしたいので服を仕立ててあげてください」
「お、お嬢様!?」
「あらまあとてもお優しい方ですね!」
店員は感動して跳びあがった。
そして、私の申し出を快く聞き入れて、生き生きとした様子で服を探しに行った。
「あ、あの……お嬢様? 私に服をプレゼントって話は本当ですか?」
「ええ、本当です。なにかご不満ですか?」
「いいえめっそうもない! むしろ貰っちゃっていいのかなと思って」
「アナタはよく働きます。それに、これまでたくさん迷惑をかけたので私から恩返しをしたいのです」
「あ、ありがとうございます、セレナード様」
感極まったマチルダは、前世と同じこの子の本名を言って感動の涙を流した。
マチルダの言葉を聞くと、少しだけこれまで犯してきた罪の意識が軽くなったような気がした。
【強さの段階】
神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人
【登場人物】
セレナード:エメロード教の元聖女。転生して7歳になっている。
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