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第57話:聖女の平穏(1)

いわゆる休憩回です。

 転生先の記憶を引き継いだとはいえ、慣れるまでには少々時間がかかった。

 記憶の齟齬を頭で修正するのは中々難しく、最初の数日はどうしても前世の経験に体が持っていかれた。

 だが、それも一週間を過ぎればほとんど気にならなくなった。

 別に誰かと戦っているわけでもないし、魂も肉体へと徐々に適応していた。


 気がかりは一つだけ、

 私がやってくる前のこの子の魂と、私が宿った今の魂が同一なのかは正直わからない。

 できれば同一であって欲しい。

 もし違っていれば、この体を私が乗っ取ったということになってしまう。


「……」


 いずれにせよ、私がやる事は変わらない。

 修練場にて木刀を構え、誰もいない場所を睨む。


 意識を強く集中させるとエイルーンの姿が映像となって浮かび上がってくる。

 エイルーンが音撃波を放ってきた。

 素早く体を動かして刀身で受け止めようとしたが、対応できず失敗し、自身の体が真っ二つになってしまった。


 私は大きく息を吐いて剣を握る腕を下した。


「ただの衝撃波ですらまともに受られず即死とは、七歳になるとここまで弱くなるんですね」


 ひどく弱体化した今の自分に幻滅してしまう。

 肩を落としてがっかりと項垂れる。

 しかし、すぐに気を取り直し、今度はイメトレではなく肉体訓練から始めようと思い至った。

 黒道に身を落とし、一度は仲間に殺された身の上。

 もう二度とあのような後悔はしたくない。

 これくらいで挫けてはルクスと同じ道を歩むことはできない。

 闘志を奮わせて私は修行を再開した。


(最低でも、この一年で『気の発動』と『気の制御』まではできるようになりたい。そのためには昼夜問わず修行が必要ですね)


 前世では人目を避けて夜間にしか修行をしなかったが、今世では昼も夜も関係ない。

 体がぶっ壊れない範囲で全力で修行をするつもりだ。

 舗装された地面を大きく蹴って私は走り出した。


 ………

 ……

 …


 あれから二週間が経過した。

 修行はとても順調であり、体力はまあまあついた。

 気の発動の習得は、まだまだ時間がかかりそうであるが、前世でも一度通った領域なのだから今世でもきっと可能だろう。

 そんなことを考えてると、メイドのマチルダが修練場までやってきた。

 私は訓練を一旦中断してマチルダへと近づく。


「最近、お嬢様はよく修練場にいらっしゃいますね。何か理由でもあるんですか?」

「理由?」

「これまでは、汗臭くて苦手と言って、修練場にあまり近づかなかったじゃないですか」


 過去の記憶を辿ると、たしかにそんなことを言っているね。


「この子は剣よりもお花を摘むのが好きなおっとりとした性格でしたからね」


 私の言葉にマチルダは怪訝な表情を浮かべた。


「それより、お昼のお弁当を持ってきましたよ。お嬢様の大好きなサンドイッチです。お嬢様お嬢様、あそこの日陰で一緒に食べましょう」

「ええ、そうですね。私もお腹が空いてきたところでしたので」


 私はニコリと頷いて、東屋へと歩いていく彼女に背中についていった。



【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

セレナード:エメロード教の元聖女。転生して7歳になっている。


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