表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/110

第56話:神医(完)

「た、大変です! 恐れていた事態が起きました。現在街が大量のモンスターによる襲撃を受けています!」

「な、なにぃ~!?」


 街との連絡役を担っていた青龍団の団員が慌てながら俺達の下へやってきた。


「ど、どうすればいいでしょうか!」


 ザインが困惑した様子で俺に尋ねてくる。


「もちろん街の応援に向かう。人命救助が最優先だ」

「流石だァ! 仲間を見捨てねえなんてかっけぇ! おっさんの意見に俺も乗るぜ!」

「私も!」「俺も!」「ボクも!」


 俺の決断にすべての団員が合意する。

 イェルも相変わらずテンションは低いが俺の選択には賛成のようで、待ったの言葉をあげる事はなかった。


 俺達はすぐさま元来た道を引き返していく。

 彼らのペースに合わせるのが理想ではあるが、それでは遅すぎるので俺は一言許可を入れてからスピードを上げる。


「は、はえぇ!?」

「なんてすごい軽功だ。まるで雷のようだ」

「やっぱりルクスさんはすごい!」


 背後からかすかに聞こえてくる彼らの驚愕する声。

 それに反応するのは時間の無駄であった。


「見かけによらず仲間想いなんですね」

「!」


 驚いたことに、イェルが俺と並走して走っていたのだ。

 今の俺のスピードは雷とほとんど同じ雷速。

 超一流以上の武人でなければ追いつけない領域であったが、彼女はそれをもろともせず平然とした顔でついてくる。


「最近の医者は随分と速く走れるんだな」

「成長期ですからね」


 俺の皮肉にイェルは表情一つ変えずにそう返した。


「ルクス、アナタは本当に素晴らしい武人です。あの点結を見た時、最初は半信半疑でしたが、先ほどの戦いを間近で見て確信しました。アナタは私と同じ『化境』の領域に足を踏み入れている」

「化境か……ロゼにも以前そう言われたな。てか、その言い方だとイェル。もしかしてお前は……」

「私は『白桃仙』という名前の仙人です」

「!!」


 仙人。

 武功を究極に極めた達人がたどり着く極地の一つ。

 入神境へと足を踏み入れる一つ前の段階であり、その強さは化境に匹敵するとされている。

 変わり者が多く、争い事を極端に嫌うため、俗世から離れて静かに生活する特徴がある。

 いわゆる世間から認知されていない達人だ。


「イェルは、いつ仙人になったんだ?」

「いまから大体1000年前ですね」

「千年!?」

「当時の私は血気盛んであり、たくさんの武人と戦っていました。

 ですが世の中には、上には上がいるんですね。

 とある達人にあっさり負け、私はそこで命を落としました。

 ですが、運がいい事に、私の武功はある一定の水準を超えていたみたいで、そこから蘇って仙人になったんです」


 一度死んで生き返った……

 なるほど、尸解仙か。


 尸解仙とは、

 死んだ後蝉が脱皮するように変ずることで化境になった者を差す。



 ある日、自ら悟りを開いた者は天仙。

 霊脈の豊かな名山で長年修行して悟りを開いた者は地仙。

 死ぬことがトリガーとなって化境に至った者は尸解仙。



 一応このように分類されている。

 どれも化境であることには変わりないので、人間の俺達からすると大差ないように思えるが、仙人同士によると、尸解仙は一番下で、天仙が一番上。

 どうやら悟りを開くまでの経緯に序列があるらしい。


 イェルの正体を知って、流石の俺も驚きを隠すことはできなかったが、だからと言って彼女に対しての対応が大きく変わるわけでもない。

 イェルの人間性は短い時間ながら一応理解したつもりだ。


 彼女は紛れもなく善人である。

 化境としての実力がありながら、それを争いではなく医術へと生かしている。


 俺やロゼに対しても懇切丁寧に接している。

 この町のゴロツキ共がこの幼女をイェル先生と慕う理由は、彼女の分け隔てない平等さにあった。


 さて、そんなことを考えているうちにも俺達は街へとたどり着いた。


 街の入り口の門付近には大勢の魔物が密集しており、多くの武人がそれに抵抗していた。

 魔物は魔人と比べると知能が低いため対処しやすいとされる。

 しかし、一匹一匹は貧弱であってもその数が百を超えていれば話は別だ。


 こっちの霊力が持たなくなりどうしても物量で押し切られてしまう。

 さっそく助けに入ろうとしたその時、俺の横にいたイェルが速度をさらに上げて、俺より先を走った。


 武器である手甲鉤てっこうかぎを構え、視界の先にいるサイクロプスを一撃で葬り去った。

 頑丈で耐久力もあることで有名なサイクロプスであったが、彼女の前では紙切れのようにあっけなく引き裂かれた。


 そして、桃色の竜が、圧倒的な武功で戦場を蹂躙した。

 眼にも止まらぬ速度で次々と魔物を処理していくイェル。


 そこで戦っていた守衛達はなにが起こっているのか理解できず、ただただ困惑するばかりだ。

 だが、彼らにはイェルの速度を捉える事はできない。

 化境は規格外の強さを持つから化境と呼ばれるのだ。


 イェルの身につける手甲鉤が、真っすぐ(スタンダード)なものから『扇形』に変化する。

 霊力を込めると、まるで巨大な扇のように霊力が膨れ上がる。

 見の丈よりも遥かに大きなピンク色の扇。

 イェルは全身を以て力強く一回転しながら扇を振るう。


「絶招一式『気まぐれ仙女の天扇』」


 イェルが認識しているすべての魔物が、その一振りにて、素粒子レベルで分解された。

 俺は、彼女の圧倒的な美しさと強さを前に、恋心にも似た感情を覚えるばかりであった。


【強さの段階】

神和境>入神境>化境>超一流武人>一流武人>二流武人>三流武人>一般人


【登場人物】

ルクス:化境の武人。

イェル:神医。

ザイン:朱雀団団主。

イーノック:青龍団団主。


【読者の皆さまへ】

この小説を読んで


「面白い!」

「続きが気になる!」


と思われたら、↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えて応援していただけますと嬉しいです!

多くの皆様に読んでもらうためには、どうしてもブックマークと星が必要となります! 

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ