第15話 特別訓練?
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翔太郎はメイドのアリッサと三階の部屋に戻る。訓練着はそこに用意してあると言われたからである。
再びアリッサの手を借りて着替えた。メイドの職業意識が日本人の羞恥心に勝ったといえる。翔太郎は『ゴワゴワした生地だな~』と考えることで耐え切った。
忘れずに腕時計を外す。
日本には未練はないが、物欲は人並みであるのだ。断捨離には程遠い、もったいない派かもしれない。
着替えを済ませた後、一階に向かう。
五人組も既に集まっていた。
「よし。集まったな。では騎士団の錬兵所に移動する」
騎士団長の号令で外に出る。
外に出てから改めて辺りを見渡す翔太郎。勇者召喚でこちらの世界にやって来たのは昨晩。一応建物の外を歩いたのだが、真っ暗で何も見ていないのと同じだった。
陽光の元翔太郎の目に映る王宮の光景は、第一印象は、大学の構内のようだった。
あちらこちらに横長の建物が建っており石畳の広い通路で繋がっているのが見える。しかし現代日本の団地のように整然としておらず建物自体も見るからに豪奢な感じがする。
建物と通路以外の場所は公園のように芝生や並み木になっているところも在るが大部分が田畑になっていていつの間にか王宮の外に出たのではないかと翔太郎を困惑させた。
錬兵所までの道程、騎士団長によると、いつでも篭城できるようにとのことだった。
土地を無駄にしていないところが庶民の翔太郎の好感度を上げるのだった。
騎士団長に案内された錬兵場は王宮の端らしく長い壁が見える。近くに騎士団の通用門があるらしい。
この辺の建物は宮殿らしさはなく、話によると当番兵の宿舎が多いということだ。
コロシアム、せめて整地されたグランドを思い浮かべた翔太郎だったが、訓練場は単なるだだっ広い荒地にしか見えなかった。
翔太郎を入れて6人が訓練するには広すぎるのではないか。ここは正に軍隊が集団訓練するための場所ではないかと疑問に思う。
そう尋ねると、今日は初めての訓練だから案内も兼ねて、ということと、慣れないうちはスキルが暴走することもあるので念のため、ということらしい。
翔太郎が納得したところで早速訓練が始まる。
だが、特筆することはなかった。
「いいか! 今日はひたすら剣を振れ! スキルがあってもステータスが高くてもお前らは素人だ! 剣に慣れないうちはダンジョンにも連れて行かないからな!」
ということで翔太郎たちは剣を振る。
五人組からは文句も出たが、ダンジョンの話を聞いて渋々素振りを続けている。
翔太郎は文句はなかった。いきなり模擬戦でボコボコにされるパターンよりはずっとマシだからだ。
翔太郎に剣術など武道の経験はない。正確に言えば中学高校時代に授業で柔道と剣道を習った程度だ。真剣など触ったこともない。
持たされたのは訓練用とは言っても鉄のような金属でできた、ネットの知識のよればバスタードといわれる大ぶりの剣だった。竹刀と比べて重いの何の。
始めのうちは剣を振りながらも周りを窺う余裕があった。
五人組を見てみると翔太郎の素人目にも動きにキレがあるように見えた。
『これが若さというものか』などと冗談半分思ったが、ここが異世界で彼らが勇者なら答えは簡単、『これがステータスの恩恵か』と言ったところだ。
こうなると不思議なのは翔太郎のほうで、昨日パーナード司祭に勇者という駒扱いされないように予防策として『巻き込まれ召喚』説を提唱し『被害者アピール』を試みたが、五人組と比べると『瓢箪から駒』『嘘から出た真』でないかと思われてくる。
ステータスが非表示な上、異世界言語が通じているので何かしらスキルが与えられいるのは確かなのだから確定できないのが一層もどかしい。
『大体、巻き込まれ主人公はネット通販スキルとかガチャスキルとか初期は役に立たないけど追放されてから大化けするスキル持ってるのがテンプレだろ? それさえ見れないってどんなクソ設定だよ。あ、主人公じゃないからか。
そりゃステータスのない異世界だってあるだろうけど、そんな特別扱いは要らねーよ! 何? どん底から這い上がれってのか? じゃあ、オレこれからダンジョンの最下層にでも捨てられんの? 勘弁してくれ。それだったらチートは要らねえから仕事をくれ!
あー、学院の先生の勧誘、受けとけばよかったかな~』
思考が混乱している。
素振りを始めて10分経ったかどうか。翔太郎はすでに息が上がり腕の筋肉もプルプルし始めた。
「もうへばったのか? 情けない。よし。俺が特別訓練をつけてやる。こっちに来い! あ、お前たちはそのままそいつらが手を抜かないように監視を続けていろ!」
勇者それぞれを指導していた騎士団長が翔太郎に厳しく告げた。部下の騎士に指図した後一人翔太郎を訓練場から連れ出す。
『病身だから手加減してくれ』と言いたかった翔太郎はゼーゼーと言葉にもならない。仕方なく騎士団長の後をついていく。
翔太郎は歩きながら考える。病気のこと、癌のことを告げるかどうか。初日に言いそびれたことが何となく引っ掛かっていた。
それにまだこの世界の常識がわからない。病気への対処法もだ。癌と言う病気が理解されないとして、未知の病気は同対処するのだろうか。隔離、いや、中世の黒死病のように焼却処分ということもありえる。
やはり情報を集めるまで黙っていた方が吉だろうと結論付けた。
そんな現実逃避をしながら、何とか剣を落とさずに到着したのは兵舎の脇だった。
「さて、特別訓練と言ったが、まあ、心配するな。ここで適当に素振りでもしていてくれ」
「え?」
まだ息が整っていない翔太郎はそう返すのがやっとである。
「ステータスがわからなきゃ、どう鍛えていいかわからんのだ。もしかしたら魔術特化で剣スキルがないかもしれないしな。ていうか、ダメなのが一目瞭然だろ。
まあ、教会が大臣たちと協議してるらしいし、そのうちわかるだろ。それまでは適当でいい。勿論魔術特化でも剣を鍛えて悪いことなんかないからな。
ああ、お前さんのステータスの件は一応内密になってる。あいつらにも言うなよ。
じゃあ、適当に頑張ってくれ」
そう言うと騎士団長は訓練場の方へ戻っていった。
騎士団長が何故一人で連れて来たのか何となく理解した翔太郎はホッと息を吐き、地面に座り込んだ。
病身の上日頃の運動不足、加えて不摂生な生活、これで体力があったらそれこそチートだろう。幸いというか生憎というか、翔太郎は極普通の人間だったようである。
兵舎脇には水場があり、宮殿の客室のような魔道具ではなく釣瓶井戸だったが、翔太郎はありがたく使わせてもらった。
水質がどうのと言っていられない。苦労して汲み上げ、直接桶から浴びるように喉の渇きを満たした。
一息つくと急に寒さを感じた。
日本と時間がシンクロしているかもしれないと予想はしていたが、季節もそうかもしれない。
そう考えた翔太郎だったが、この状況で防寒着を着るわけにはいかない。言われたとおりに適当に運動して身体を温める手段を選んだ。
翔太郎は素振りを続けた。腕が疲れると休憩を取るが身体が冷える前に素振りを再開。これを愚直に繰り返す。素振りをしている間中今後のことを考える。いや、妄想した。それが疲れを誤魔化せた理由かもしれない。
何時間続けたかわからないが、空が夕焼けに包まれ、『ああ、こっちにも夕焼けがあるんだな』と現実逃避をしていると騎士団長が迎えに来た。
その時騎士団長は感心したような呆れたような顔をしていたが、翔太郎に何か言う元気はなかった。
その後五人組と合流したが、流石の彼らも疲れ果てて翔太郎に絡む元気はなかったようだ。
騎士団長に連れられ宿舎代わりの別館に戻るとすぐに夕食となる。
五人組は急に元気を取り戻したようで食事に夢中だった。ゴブリンの肉かどうかを確かめる余裕があったのは翔太郎も感心した。
翔太郎本人は、いや、本人も食欲があった。運動したから当然ともいえるし、逆に胃がおかしくなったのではないかという不安もある。
だが、今更どうしようもない翔太郎は欲求に身を任せることにして五人組に負けずと食事を摂ったのだった。
部屋に戻るとメイドのアリッサが風呂の用意をしてくれていた。
ありがたくいただく。
汗を流しバスタブに浸かると変な声が出た。これは日本人の性質みたいなもので、特に疲れているときは仕方がない。
などとお湯の中で翔太郎はのんびりと考えていた。
のぼせない内に風呂から上がる。
昨日と同じようなネグリジェにアリッサの手を借りて着替える。
アリッサに礼を言い、ベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってきた。
目が覚めると朝だった。
こんな気持ちの良い目覚めを二日連続で迎えられたのはどれだけ久しぶりのことか。翔太郎はささやかな幸せを感じていた。
アリッサがまたタイミングよく入って来る。今日は朝食を運んできておらず、一階の食堂を勧められる。
昨日の五人組の様子からそれほど悪いことにはならないだろうと軽く了承する。
そうなると着替えなければならない。
またまたアリッサの手を借りることに。
着替えながら今後のスケジュールを聞く。服の質で何となくわかったが、剣の訓練は午後からで午前中は主に講義中心だそうだ。
今日は魔術についての講義だそうで、翔太郎は状況も忘れてワクワクした。
問題なく朝食が終わり、さあ、これから魔術の講義だ! と大会議室に向かう翔太郎を呼び止めるものがいた。
「ショータロー殿、ちょっと一緒に来てください」
それは、この国のとは違う感じの騎士を連れたパーナード司祭であった。
わけのわからないまま、翔太郎は連行されていく。
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