第12話 講義・2
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脱線に継ぐ脱線をしたものの、講義は正午まで続いた。
この世界の大まかな歴史ということで、内容は昨日翔太郎がパーナード司祭から説明されたものと大方同じであった。
『大異変』『魔族』『魔人』『魔物』そして『ダンジョン』。勇者として必要なのはそれ関連の知識であるようだ。
翔太郎が興味を持ったのは、『大異変』が起こる前の、いわゆる『先史文明』についてであった。残っている数少ない資料から、どうやら地球文明によく似た科学文明が発達していたらしい。
それを聞いたとき、翔太郎は異世界転移ではなく未来にタイムスリップしたのではないかと、これもまたネット小説から得た知識を思い出す。
だが、惑星アーテラスの地形などを説明され、その可能性は低いと判断する。『大異変』というのはそれまでにはなかった『魔力』が大量に発生したことが原因であり、特に大陸が移動したという記録はないとのことだった。
ではその先史文明はどうなったかというと、大異変の後200年の間に技術継承が途絶えてしまったらしい。インフラは全て魔物に破壊され、生き延びた人々は原始的な生活を余儀なくされたようで、文化文明などと言っている余裕はなかったそうである。
これを歴史区分で『暗黒時代』または『暗黒期』と呼ぶそうだ。
その暗黒期だが、末期は人類が滅亡の危機に瀕するほど人口が減少した。それを救ったのが『創造神プタルカ』である。
昨日パーナード司祭が説明したように、『試練』のため神が直接魔物を倒したりすることはなかったが、間接的な手助けとして人類に『ステータス』と『スキル』を与えたのだ。
この『ステータス』という概念は、魔物を倒すと『経験値』を得ることにより各種能力が強化でき、また『スキル』は各種魔法などの使い方を習得しやすくなり、『レベル』を知ることで各人の強さがわかるという、現代日本人にとっては非常にわかりやすい、ゲーム的な概念である。
これを聞いた翔太郎の感想は、おくびにも出さなかったが、『胡散臭い』であった。
それはともかく、王都中央学院・神学課主任のジェラール・デプイ氏の補足によると、当時大陸の一つで人類が滅び、このパンドア大陸でも北大陸が滅んだ。その状況を哀れんだ神が一人の少女に神の力の宿った水晶を授け使い方を教えたそうだ。
これが宗教学上『始まりの巫女』と呼ばれる存在で、プタルカ教が組織されるきっかけとなった。その巫女は『ステータス』の利用法を人々に伝え、人類は効率的に魔物に対処できるようになり人類の領域を少しずつ広げていった。
また『ステータス』布教の過程で複数の『巫女』の才能を持つものが見つかり、彼女たちが神と交信することにより新たな『神の水晶』が授けられることとなった。
これによって人類の戦力が底上げされ、人口も回復し始める。
そして300年後、大異変からおよそ500年後にパンドア大陸の南大陸で『魔人撃退完了宣言』がプタルカ教から発表されたのである。
この時期を『復興時代』または『復興期』と呼ばれる。
ちなみに、『神の水晶』は巫女以外使うことができず、巫女の死後記念に飾っておく(嘘か真か、プタルカ教総本山の宝物庫には『始まりの巫女』の水晶が安置されているらしい)ぐらいしかできなかった。
それを後世の巫女の一人が神に伺いを立てて再利用できるようにしたのが、翔太郎も知っている『ステータス判別器』である。
大量生産ができるものではないので一般販売はしていないが、各国の重要機関や冒険者ギルドに配れるぐらいの水晶はあったらしい。
更にちなみに、魔術師や錬金術師がこの『神の水晶』を研究し、複製を試みるも未だに誰も成功していない。唯一、研究の副産物として魔力を数値化することができた。これも翔太郎が知っている『魔力測定器』である。
こちらは魔術師ギルドという組織が管理し、比較的簡単に誰でも手に入れることができ、公的機関だけでなく貴族や大商人も個人で所有する場合がある。
この情報は王都魔術学院・学院長のヴェッセル・バンダンが楽しそうに語っていた。
さて、魔人を排除してメデタシメデタシで終わるなら、今更勇者の出る幕はない。
『復興期』に人口と人間の領域が増え、集落レベルから村へ、村から町、町が合併し都市へと規模を大きくしていった。
だが、魔族の脅威が減るにしたがって人類同士の争いが増えるようになる。より豊かな土地を巡って、或いは支配者の地位を巡って。もう一つ争いの原因があるが、それは後日と王都中央学院・政治学課主任のエウゼピオ・アルマニ氏は言葉を濁していた。
復興期末期には『王』を名乗る者も現れ、お互い勢力を競っていた。
この時期はまだ各地の有力者やプタルカ教の巫女が仲裁していたのだが、皮肉なことに『魔人撃退完了宣言』が新たな戦乱の引き鉄を引くことになった。
きっかけは、魔人が南大陸からいなくなったことで巫女の存在価値もなくなったと勘違いしていた一人の『王』が紛争の仲裁をした巫女を殺したことである。
当時は、神の代理人とされる巫女を手に掛けたら神罰が下ると考えられていたが、その王には、雷に打たれるなどの直接的神罰も、ステータスやスキルがなくなるといった間接的罰もなかったという。そのことからその王は『自分こそ神に選ばれた王の中の王だ!』と各地に宣言、『神選王』と名乗って服従を迫った。
これにより臣従する者、反旗を翻す者、新たに王を名乗る者が入り乱れての戦乱の時代に突入した。『王』を名乗る者が初期には100を超えていたという文献もあるようで、時代区分はズバリ『戦国時代』である。
その時プタルカ教はというと、いくら巫女が神に伺いを立てても神託が下りなかったため、神は人同士の争いに関わらないのではないか、という判断がなされ、教会もその方針に従うことにした。
自己防衛と間接的報復のため『新選王』の支配領域から教会関係者全てを引き上げさせた。当然巫女もである。
するとどうなったか。
当時既に『ステータス』は当たり前の概念になっており、教会に行ってお布施を払えばすぐにステータスを調べてもらえるのは大変便利だったのだが、それが王のせいでできなくなったのであるから民の不満も溜まる。
巫女の恩恵はそれだけではない。ステータス自体は知らなくとも魔物を倒せばレベルが上がるのだが、スキルがわからなければ自分の才能を効率よく伸ばすことができない。例えば魔法のスキルがあるのに剣を鍛えても強くなれない、その逆も同じ、のようなことだ。
結果、ステータスを調べたい人は『神選王』の国から流出し、人が減れば魔物の被害が増え、戦争にも負ける。『神選王』は早い段階で部下に殺されたという。ちなみにその部下に神罰が下ったという記録は残っていないので『神に選ばれた王』というのは歴史的にも宗教的にも否定されているという。
神の方針により、教会が積極的に争いを仲裁することはなくなった。
故に戦乱の時代は長く続く。
「……休憩にしましょうか?」
ケンジたち5人の様子を見てマイコル学院長は提案してきた。
「ええと……お願いします」
ケンジたちは何も言わなかったが、目が訴えていた。
翔太郎自身はもっと話を聞きたかったが、その迫力に負けて了承してしまう。
翔太郎の言葉の後、ケンジたちは飛び上がって喜んだ。
マイコルたちは微妙な表情である。
『失礼は失礼だけど、持った方だよな。学級崩壊みたいにならないでよかった。まあ、あれだけ総長に脅されたんだから無理もないか』
翔太郎は早速仲間同士で愚痴を零している様子を見て苦笑する。
日本製の腕時計を見ると10時少し前だった。
だが、それが正確かどうかわからない。
翔太郎は、異世界と日本の時差はどれぐらいか、そもそも1日は何時間か、などの疑問を早く解消したい、と思った。ことによるとこの時計は役に立たないかもしれないからだ。
「それは何かね?」
メイドさんたちのお茶を楽しんでいた講師陣だったが、王都魔術学院・学院長のヴェッセル・バンダンは翔太郎の様子がおかしいのに気が付いた。
「えっと、時計です。こちらにありますか?」
皆に見えるように左腕を差し出す。
場合によっては失礼な物言い。だが、これは異世界文化交流の一環である。
「時計か。あるにはあるが、そこまで小型なのは……うん? 確か遺跡で発見された異物に似たようなものがあった気が……まあ、壊れてたらしいが」
「少し話は聞いたが、勇者殿の世界の技術は優れているそうだな。今度学院で説明してもらえないか?」
と話を振ってきたのは王都中央学院・経済学課主任のロック・マリオン。彼は今回ほとんど出番がないだろうが、異世界の技術目的で参加したものかと考えられる。
「まあ、方向性が違うだけで、こちらの世界の技術もすばらしいものがありますよ」
残念ながら自分は技術者でないので情報提供はほとんどできないと、やんわりと断る翔太郎。
自身の情報収集のほうが大事だからだ。
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