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342・斬り捨てられしスライム

 とんだハプニングに見舞われたけれど、とりあえず……ファリスが前を向いてくれてよかった。そう思おう。

 というか、そう思わないとやってられない。


 まさかあんな事をするなんて思うわけが無い。完全に油断していた。


「それで、どうやって出るか考えてるの?」


 私がどんな思いをしているか知りもしないで、呑気に聞いてくるファリスの神経の図太さに尊敬すらしそうになる。


「……よくそう平然と聞けるわね。あんな事をしておいて、何も無かったことにするつもり?」


 あまりの自分勝手な振る舞いに苦言を呈しても、肝心のファリスには何も届いていないみたいだ。


「……えへっ、だってあんまり無防備だったから」

「だからといって、状況も考えずにするものでもないでしょう?」

「だってー、美味しそうだったんだもん。隙だらけなティアちゃんが悪いんだよ?」


 まるで今が食べ頃みたいな言い方はやめて欲しい。

 とりあえず落ち着こう。深呼吸は心を落ち着かせてくれる。冷静さを欠いて判断を誤れば、抜け出せるものもなくなってしまう。


「――ふぅ、さて……ここから抜け出すのは簡単よ。より威力の高い魔導を解き放って、内側から蹂躙する。そうすれば耐えられなくなるはず」

「さっきわたしがティアちゃんにしたみたいに?」


 私の口の中を問答無用で蹂躙した事をわかっているなら、わざわざ口に出さないでもらいたい。

 にやにやしてすっかり調子を取り戻したようだけど……こんな事ならあまり色々言わなかったら良かったかもしれない。


 ……まあ、少しよか――いけないいけない。変なことを考えるより、先にこの状況を打開しないと。


「……ファリス、私からあまり離れないでね」

「それは良いんだけど……上手くいくのかな?」


 ようやく真面目に話をするつもりになったのか、冷静さを取り戻した表情をしていた。

 ……もう少し早くそうなって欲しかったけれど、仕方ない。


「大丈夫。これがどんな空間であれ、ね」


 スライムの体内の割には自由に動ける――という事は中は魔力で作られている可能性が非常に高い。結界を構築して獲物を隔離し、情報を手に入れながら緩やかに消化させる事が目的のはずだ。


 そうでなければファリスはもっと早くに消化されていただろうし、私だって無事じゃ済まないはずだ。

 ……あくまで推測、だけどね。それでも、ある程度は思った通りのはずだ。


 魔力で作られている空間なら、壊すのは簡単だ。


「【人造命剣『ミディナルーネ』】!」


 一瞬迷った末、私は人造命具を使う事にした。

 ローランが同じような行動を取ってスライムに絡め取られたけれど、今回はまた勝手が違う。

 体内では触手で絡み取る事も出来ないし、ここなら消化される心配も薄い。


「……ミディナルーネ。否定の力を宿した人造命具、だよね?」

「ええ。よく覚えているわね」


 この子に見せたことは一度しかないのに……と思ったけれど、転生前のローランには教えてたっけ、と思い直す。彼の思い出や知識がどれほどファリスに受け継がれているか知らないけれど、知ってる前提で話を進められるのはありがたい。説明する手間が省けるしね。


「えへへ」


 えらいえらいと頭を浅しく撫でてあげると、ファリスは嬉しそうに照れ笑いを浮かべていた。

 ……本当、こういうところは可愛いんだけどね。時折変な事をしなければ尚更いい。


「さあ、全てを否定しなさい。【ミディナルーネ】――!」


 遠慮なく人造命具の力を発揮させる。このミディナルーネはただ単に魔導を打ち消したり、攻撃を受け止めたりする剣じゃない。文字通り全てを否定する。もちろん例外は存在するけれど……それは神やそれに準ずる存在・魔導に対するものくらいだ。今私達を飲み込んでいるスライムくらいならなんの問題もない。


 私の思いに鼓動するように力を宿すミディナルーネは、早く使って欲しいと訴えているようだ。


「でも、ミディナルーネで何を斬るの? ここには何もないみたいだけど……」


 今度は不安そうな顔をして、ころころと表情を変えるファリス。

 気持ちはわかる。この人造命具の特性をよく理解している人以外が見たら、ただ剣を振り下ろそうとしているようにしか見えないしね。


 静かに、集中して神経を研ぎ澄ませる。ミディナルーネの力を最大限高める。このスライムはいわば結界だと思えばいい。明確にその場に『ある』と認識で斬れば……斬る事も容易い。


「さあ、私に力を見せて――!」


 迷いなく振り下ろした刃は、空間――スライムの体内を斬り裂いて、空間の裂け目のようなものが現れる。

 そこに広がっているのはスライムに飲み込まれるまで私が見ていた景色。居た場所。


「す……すごい! 流石ティアちゃん!!」


 大げさに喜んでくれているファリスは、ぴょんぴょんとはしゃぎながら裂け目の方へと歩みを進める。


「ティアちゃん、行こう?」

「ええ」


 これ以上ここに留まる理由はない。上手くいったのだから、さっさと抜け出すのが上策だ。

 ファリスを先に通らせて、少しだけ振り返る。ここでただ出ていくのは簡単だ。

 問題は……ここを出てもスライムはそのままで再び飲み込まれる可能性があるということだ。


「……【エアルヴェ・シュネイス】」


 だからこそ、出来る事は全てやる。私の全力を込めた【エアルヴェ・シュネイス】を発動させ、効果を確認する前に裂け目を潜って元の世界へと戻る。

 これが上手くいけば――後はシュタインだけだ。

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