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341・必要とされるもの

 暗闇の中、ファリスは自分の感情を吐露したおかげか、幾分すっきりした表情をしていた。


「……ごめんなさい」

「別に構わないわ。それより早くここから出ましょう」


 正直ここに留まるのはあまり得策とは言えない。時間もわからないし、いつ状況が変わるかわからないからだ。

 あくまでここはスライムの体内で、私達は異物なのだから。


「……わたしは、ここに残る」

「え?」


 今までの流れから完全にファリスも一緒に帰ると思っていたんだけれど、予想外の反応が返ってきた。


「何を言ってるの?」

「ティアちゃんがわざわざ助けに来てくれたのは本当に嬉しいよ。涙が出たくらいに。でも……」


 暗い影を落とした表情を浮かべたファリスは、私から一歩引いて寂しそうな笑みを浮かべていた。


「わたし、人と付き合うなんて出来ないもの。ティアちゃんがわたしの物にならないなら……必要とされないならあそこにいる必要もないかなって」

「ファリス……」


 彼女は笑ってどこかに行こうとするけれど……私はそれを手を掴んで引き止める。

 驚きと困惑の表情を浮かべているファリスは、捕まれた手と私の顔を交互に見ていた。


「ティアちゃん?」

「確かに、私は貴女の物になる事は出来ない。ティリアースの次期女王として……私を支えてくれている人達の為に……いえ、違うわね。貴女の本当の気持ちもわからないままなんですもの。応える事なんて出来る訳ないじゃない」

「え……?」


 信じられない……といった様子だけれど、私としては至極当然の話だった。彼女は確かに過去のローランの記憶を受け継いでいるのだろう。だけど、それはあくまでファリスが『ローラン』の記憶を持っているだけに過ぎない。記憶に振り回されている少女のものになる事は出来ない。


「な、なにを……」

「ファリス。貴女はあの時のローランじゃない。ローランも……貴女じゃないの。だから――」

「駄目だよ。そんな事今更言われたって。わたしはこの生き方を変えるつもりないもの。大切なティアちゃんとの思い出。これだけがわたしの全てだったんだから」

「それでも! それでも……貴女には過去じゃなくて現在(いま)を生きて欲しい。それに、彼だって……もう一人のローランだった同じことを願ってる!」


 私の言葉をファリスは暗い表情で聞いていた。かなりローランが心配してくれている事が効いているみたいだ。


「そんなの……わたしは……!」

「ファリス。過去を捨てるなとは言わない。その記憶も、貴女を構成する大切な一部よ。だけどね、貴女はまだ何十年も生きていない。これから先、もっと大切なものが、沢山したい事が見つかるはず。それは他の誰でもない貴女の宝物なの。だから……簡単に自分を諦めないで」


 真摯に彼女に向かい合う。私の言葉に、微塵も嘘はない。産まれてから数年くらいで何がわかる? 私はこの世界で様々な物を見つけた。


 色んな種族が激しく争い、いがみ合う事もある。

 だけどそれ以上にみんなが笑顔で過ごしている。それをいっぱい見てきた。


「もし、貴女が何も見つけられなくても……私が一緒に探してあげる。だから、行きましょう。新しい未来に。これから続く道に」


 伸ばした手をファリスは呆然と見つめていた。その様子からは手を取っていいかどうか悩んでいるように見える。

 これ以上何かを言っても彼女には届かず、余計な事でしかない。ただ見守る。そして――


「わたし……出来るのかな?」

「それを決めるのはこれからの貴女。この暗闇から足を踏み出せるのなら……私もローランも。みんなが一緒に手伝ってあげるから」

「……うん」


 握られたその手はとても暖かく、柔らかかった。とても剣を持つ子の手じゃないな……なんて思ったけれど、それは私も同じか。

 今も昔も、怪我は魔導で治せる。いつまでもそのまま手でいられるんだしね。


「……えへ、ティアちゃんの手、あったかい」


 ちょうど同じことを考えていたようだ。なんだか照れてしまう。

 初めて見た彼女の純粋な笑顔がとても眩しく映る。


「……!」

「どうしたの?」


 和んでいた私の顔を見てなにを思ったのか、子供が悪戯をしてるときに浮かべていそうな笑みで私を見て――


「んっ……」


 いきなり抱きついて、何か柔らかいものを唇に押し付けてきた。

 暖かいものが触れて、ぬるりと口の中に滑り込んで――


「――っ!?!?」


 自分が何をされているのか完全に理解した私はファリスの身体を突き飛ばそうとするのだけど、余計に力強く抱き締めてくる。

 ぬちゃぬちゃと水っぽい音が響いて私の口内は蹂躙されて……しばらく後、満足したファリスが離れ、ニッと微笑んだ。


 はぁはぁと荒い息と、自分でわかるほどの上気した頬。信じられない気持ちが頭の中を支配していく。


「ふふ、ごちそうさま」


 同じように頰を赤らめたファリスはそっと私に呟く。

 今何をしたのか強制的に理解させられてしまい、ただでさえ赤い顔が更に染め上がってしまう。


「な、なんで……」

「ティアちゃんが一生懸命になってわたしを引き留めてくれたから……そのお礼。それと、やっぱりわたし、貴女を諦めきれない。ずっと好きでいるから、ね?」


 嬉しそうに笑うファリスからは、先程までの苦悩は感じ取れなかった。

 ……心が晴れたのは良いけれど、わざわざ私にキスしなくても良いのに。しかもあんな大人な。


 これじゃあ、本当にお嫁に行けなくなってしまうかもしれない。

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