304・鬼の血(雪雨side)
「行け……! 【メテオーズ・アブソリュート】!!」
竜人族の魔法。【マウンテンプレッシャー】と【フリーズコロナ】の二つを混ぜ合わせた最強の融合魔法。【化身解放】によって竜化していない状態なので威力は劣るが、それでも雪雨を一撃で沈めるには十分な威力を備えていた。
「はは、これがアルフを葬った魔導かよ。なるほど、こいつはわくわくしてきた」
普通の者ならば震え上がるだろう。個人に向けて放たれるような魔法ではない。明らかに威力過多な上、絶望感すら漂う光景に立ち向き合う気力すら湧いてこないだろう。
だが、このような状況になっても雪雨は笑みを絶やすことはなかった。
「行くぜ【鬼神・修羅明王】!!」
雪雨の発動した魔導。それはかつて、セツキが自身の身体能力を最大限発揮させる為に扱った魔法だった。
鬼人族が自らの鬼の血に目覚め覚醒した姿こそが鬼神族。だが、通常の鬼神族は自身の能力を無意識にある程度制限している。日常に不便が生じるからかこうなったのかは不明だが、種族的に制限を受けているのは間違いない。
そして……今の魔法【鬼神・修羅明王】はその能力の制限を全て取っ払い、鬼神族本来の能力を全て引き出すことが出来る物だった。
「さあ、行くぜ……! 【焔地・火土龍鳳演舞】!!」
全能力を解放した状態で放たれる炎の鳥と土の龍。エールティアと戦った時よりも何倍も魔力が凝縮されたその姿は、レイアの【メテオーズ・アブソリュート】と比べても見劣りしないくらいだった。
迫りくる巨大な冷たい隕石に対峙する白に近い炎の鳥と、立派な土の龍。まるで世界の終末を彷彿とさせる光景が観客達の前に繰り広げられ、安全圏でそれを観戦している者達の血肉を沸かせる。
シューリアも実況を忘れたかのように歓声を上げ、目を輝かせている。
まるでこれが最終決戦とでも言うかのような光景の中、二つの魔導に気を取られているレイアは、雪雨の動向にまで気が回らなかった。
気を回そうにも、直後に雪雨とレイアの二人の魔導が激しくぶつかり合った為、結局はそちらに意識を向けざるを得なかった……というのもあった。隕石が砕け、炎の鳥の威力が弱まりながら、会場は徐々にメチャクチャになっていく。
このままではジリ貧になると判断したレイアは、更なる魔法を発動させ、一気に優勢に傾けさせようとする。彼女は自身の【融合魔法】には絶対的な自信を持っていた。だからこそ――
――至近距離までやってきた雪雨に気づかなかった。
「い、いつの間に……っ!?」
「これっでぇぇぇぇっっ!」
振り上げた飢渇絶刀が怪しく煌めく。雪雨の気合の入った斬撃が、レイアの身体を確かに捉える。
「……ぐ、っぅぅぅぅ!! 【化身――】」
「おっせぇんだよ!!」
体を無理に捻って避けたお陰で辛うじて軽傷で済んだレイア。このままではやられると判断したレイアはすぐさま【化身解放】によって竜化しようとしたのだが…… 雪雨の返す刀で放った二撃目をまともにくらってしまった。
鋭い断末魔が上がり、レイアは地面に倒れ伏した。それと同時に結界の効力が発動する――のだが。
「ちっ、やっぱりあれは消えないのか」
忌々しげに空を睨んだ雪雨の視線は、現在火の鳥と土の龍が氷の隕石と大決戦を繰り広げている最中だった。
激しくぶつかり合う二つの力だが、【メテオーズ・アブソリュート】の方が明らかに優位だった。
レイアに致命傷を与えた時点で決闘は終了……なのだが、レイアの魔法と雪雨の魔導が消えない以上、終わらせて先に進む事なんて出来はしない。
まず最初に動いたのはオルキアだった。
「くふふ、まさかこんな事になるとは、思いませんでしたよ。【フレアストンプ】!」
大きな炎の足が氷の隕石の上に出現し、足蹴にするように踏みつける。
更にガルドラも加わり、決闘官二人と鬼神族の雪雨の魔導が氷の隕石を押し戻す。
「……ちっ、ここまで強力なやつを使われるとはな。厄介なものを作り出しやがって」
雪雨が思わず舌打ちをしながら愚痴るのも仕方がないだろう。魔法の制御が出来る本人は、雪雨の一撃で気絶してしまった。
後は打ち消すまでその場に留まるのみだ。三人ともそれがわかっているから、立て続けに魔導を叩き込み、なんとか相殺しようと試みていた。
雪雨のあの戦法も、結界が無ければレイアの魔法に耐え切れずに死んでしまうかもしれない。だからこそ、三人の魔導で一気に押し切る作戦を選んだのだった。
絶えず放たれる魔導の嵐が氷の隕石を堰き止め――やがて粉々に砕け散った。
周囲に広がる小さな氷の結晶が、キラキラと輝くように舞い散っていく。
それは、まるで雪雨の勝利を祝っている細氷の雨のようだった。
『……ひとまず、これで問題あるまい』
「結構大掛かりになりましたね。しばらくは修復に時間がかかる事になるでしょう」
『よし、それでは……改めて、勝者・雪雨 出雲!!』
ガルドラの発言と共に、静かになっていた会場が、少しずつ熱気に当てられた観客たちの声が響き渡る。
――こうして、レイアと雪雨の死闘は幕を下ろした。雪雨への歓声に次第に大きくなっていく。
その中、ようやく勝利の実感が湧いてきたのか、拳を握って突き上げる。その場が再び湧いて――しばらくの間、観客達と一緒に喜びを分かち合うのだった。




