303・飢渇絶刀(雪雨side)
攻めあぐねていた雪雨は、一度レイアから距離を取った。不審に思ったレイアの攻撃が止み、静寂が訪れる。
互いに沈黙したまま、睨み合う中――最初に口を開いたのはレイアだった。
「……どういうつもり? 降参って事?」
「はっ、馬鹿にするなよ。ようやく……あったまってきたところだ」
挑発するような笑みを浮かべ、小馬鹿にするような言葉を投げかけるレイアに対し、雪雨は口角を吊り上げ、好戦的に笑った。
それは今から困難に挑戦する事に対し、喜びを見出しているかのようでもあった。
「行くぜ……【人造命刀・飢渇絶刀】」
最初に切り札を切った雪雨の元に出現したのは、黒い片刃。峰の部分は赤色に染まり、柄は銀色の装飾が施されている大きな刀。金剛覇刀を背負い、飢渇絶刀を構える雪雨は、飛び出すための力を蓄えているようにも見えた。
「……斬り払った魔導を吸収する人造命具。確かにそれなら私の魔導を無力化できる。だけど……それ以上の魔導を叩きこめば――!」
雪雨の人造命具がどのような力を発揮するか知っていたレイアは、自らの天敵とも呼べるその武器を目の前にしても、余裕の表情を浮かべていた。
雪雨と戦う事になった時から、レイアに立ちはだかっていた課題。だからこそ、それに真剣に向き合い、対処法を考えた彼女は心に余裕を持っていたのだ。
「【人造命冠・パイウィソーク】」
攻撃を仕掛けられる前に人造命具を発動したレイアの頭上に透明な冠が輝き、複数の白い球体を出現する。
「【フレアーズシャイン】!」
炎の球が嵐のように吹き荒れ、雪雨を取り囲む。それに加え、レイアの周囲を浮遊していた白い球がそれを取り込み、より強力な炎を生み出す。逃げ場をなくすように取り囲まれた雪雨は、満面の笑みを浮かべていた。そこには焦りなど微塵もない。強者と戦えることによる純粋な喜びがあるのみだった。
襲い掛かる炎の嵐を被弾覚悟で薙ぎ払いながら突撃するように進んでいく。
「なっ……!」
レイアは驚きの声を上げ、慌てて更に魔導を発動させる。広範囲に広がる炎に紛れて、鋭い風の刃が飛んでくる。それが白い球体に触れ、更なるパワーアップを遂げ、生身で突進してくる雪雨の動きを止める――はずだった。
「甘いな!」
飢渇絶刀を振り回した雪雨は、物ともせずにレイアに肉薄し、刀を振り上げる――のではなく、レイアの腹部に手を当てた。
「【風雷・疾風迅掌】」
近距離から放たれる風と雷の複合魔導。掌底を打つかのように放たれたそれに、レイアは反応できずにまともに喰らってしまう。
勢いよく吹っ飛んだレイアに追撃を仕掛ける雪雨に対し、これ以上近づけさせまいと魔導による攻撃を繰り出す。吹き荒れる氷の嵐。飛び交う雷の槍。降り注ぐ巨大な土塊。それらの中、小雨でも降っているかのような感覚で突撃してくる雪雨に対し、レイアは軽く恐怖を覚える。
アルフのように人造命具を呼び出して、盾と剣。魔導を用いながら避け続けるのであれば、レイアもそれほど脅威に感じる事はなかっただろう。
だが、雪雨は金剛覇刀を背負い、飢渇絶刀で迫りくる魔導を薙ぎ払うだけだ。斬り漏らした魔導や、背中から迫りくる魔導には一切無関心。ただひたすら、目の前の障害物を斬り捨て、目標に迫るだけだ。そのような未知に恐怖を感じるのは仕方のない事だろう。
「くっ……な、なんで……」
思わず泣き言を口にしそうになったレイアは、それをぐっと飲みこんで冷静に現状の把握に努めようとする。しかし、焦り・戸惑いが強くなりつつある今、それは無理な話だった。
……レイアは、自身の手に入れた情報が雪雨の実力だと思っていたが、それは間違いだった。
彼女は知らない事だが、雪雨の飢渇絶刀の本来の能力は『魔力やそれに準ずる力を変換・吸収し、糧にする』というものだ。斬り捨てた魔導は魔力に分解され、雪雨に吸収される。それは必ず『魔力』として吸収する必要はない。
雪雨は斬り捨てた魔導から『魔力』を『生命力』に変換し、吸収していただけなのだ。
身体は魔導を斬る度に回復し、傷が癒えていく。致命傷を受けたり、飢渇絶刀を手放したりさえしなければ死ぬことはない。そして自らの魔導にも能力が適用される以上、魔導が攻撃の主体であるレイアは、回復力を上回る程の威力の魔導を放つか、致命傷を与え、結界の発動で決着をつけるかの二択しか存在しなかった。
魔導が斬られる度に雪雨の傷は癒える。強引な突破を可能とした彼の斬撃が襲い掛かる。
辛うじて回避に成功したレイアは、迷うことなく次の人造命具を発動させる。
「【人造命輪・ラッドリッド】!」
レイアの両人差し指に赤と黒の指輪が出現する。【化身解放】を使用して接近戦に持ち込めばまだ戦えるはずなのだが……現在のレイアに、そこまで考えるだけの余裕はなかった。
少女の姿のまま透明な冠と指輪を装着している彼女は、両手に魔力を込める。ラッドリッドで【融合魔法】の威力の底上げ。魔力の上昇を図り、一撃で雪雨を葬る魂胆だった。
「……お前だったら、そうすると思ったぜ」
一撃で仕留められる精密さがない以上、防ぎきれない程の強力な魔導によって制圧する。その行動はある意味では正しく――見透かされている以上、間違った選択だった。




