お母さん
「お主、無礼者」
「ここは通さんぞ」
ゼンサ城の中に全校生徒が入ると後方から兵士たちの声が聞こえてきた。
なんだなんだと後方に目を向けるとそこにはころ様とひとみ様が揉めているようだった。
「あなたの鎧が暑そうだったから、飲み物を渡そうとしただけなのに、そんな言い方しなくても」
「私のころにまた心の傷を受けさせたわね、1番初めはあのツンツンイソス、そして二人目はあなた。全くゼンサ界の人たちは失礼な人が多いのね」
その言葉を聞いてイソスはひとみ様の元へ歩き出した。
また始まった。
私はやれやれと遠くで見守ることしかできなかった。
「ちょっとあなた、それは言い過ぎなんじゃなくて?」
「あら、本当のことを言ったまでよ」
イソスとひとみ様のバチバチという熱い視線が交差する。
その隣ではころ様が落ち着いてと2人の喧嘩を落ち着かせようとしていた。
「わざわざこんな所まで全員で来る必要なかったんじゃないかしら? 代表で1人行かせておけばいいものの」
「なっ……! あなた方がこの世界に来たから私は動いたんですのよ。そうじゃなければこんな面倒なこと誰がするもんですか!」
おいおい、それは言い過ぎじゃない?
私達だって、好きでこの世界に来たわけじゃないのに。
2人とも喧嘩は止めて、仲良くしてくれたらなと考えていると奥から声が聞こえてきた。
「イソス、城内で騒いでるのは誰ですか、みっともないからそこまでにしなさい」
「お母様……! はい」
イソスのいうお母さんはとても冷たい悲しげな声に聞こえた。
姉のように母親も冷酷な人なのか。
私達は奥へと歩を進めるとそこには大きい広間が姿を見せた。
その奥中央に高級そうな椅子に座りこちらを見つめている人物がいる。
イソスのお母さんだ。
「お母様、ゼンサ界に現れた異国の者を全員連れてきました」
「よろしい。その者たちをこちらへ」
お母さんは自分の手を前に出し私達を近くまで来るよう誘導させた。
何故だろう、全校生徒がこの広間にいるのに妙も静かだ。
辺りはシーンと静まり返っている。
「イソス、あなたがこの人だと思う代表を挙げなさい」
「…はい」
イソスは全校生徒を見渡す。
そして、その時が来たと思った瞬間私の名前を呼んだ。
「愛花」
「え? 私?」
周囲の目線を気にしながら私はお母さんのすぐ目の前まで移動する。
その様子をイソスは見守りながら息を飲んだ。
「あ、あの」
知らない人でもありこれからどういうことをされるか不安である。
早くこの時間が過ぎてくれと思っていると、お母さんは口を開いた。
「やはり……あなたも。そして、後ろにいるあなた方もそうなのですね」
「え?」
「あなた方からは、強い愛情の気配を感じます」
「どういうことですか?」
意味が分からないまま次の展開を待つ。
「イソス」
「はい、何でしょう?」
「この方たちは同性同士の恋愛をしている、あなたも好きな人が出来るようにこの者たちから恋人を作りなさい」
「なっ……! 私は別に恋人なんていりませんわ」
頬を真っ赤にしてイソスは反論した。
「あなたと同じ同年代の娘たちがいるんですよ、いつまで母上に悲しい思いをさせ待たせるのですか」
「それは……」
考え込むイソス。
つまり、この世界にいてもいい?
私はこの世界から追い出されるのかと思っていたが、どうやら、目的が違うらしい。
イソスの恋人作りを推薦してるからあって、それはとても楽しい毎日になりそう。
そんな気がした。
「あなたはまだ子供、王族の私、つまり親から教えられるものはもうありません。この方たちから恋愛というものを学ぶべきだと思います」
「……はい」
「そこの君」
突然お母さんは私を指名した。
「はい」
「あなたはイソスと仲が良さげに見えます。これからはこの娘にあなたが愛というものを教えなさい」
「えー!?」
「何かダメな事情があるのですか?」
「いや、それは」
どうしよう。
私は可憐という恋人がいるのに。
どういう返事をしようか考えてるとイソスは割り込んできた。
「お母様、私は愛花に恋愛を教えてもらう必要はありません。気高く、一匹オオカミを演じて見せますわ」
イソスは胸を張り、自信満々に言い切った。
「一匹オオカミ……ですか」
「ええ、私は誰かに頼らなくても1人で生きていけますわ」
「言いましたね?」
きょとんとした顔でイソスはお母さんを見つめる。
「いつか恋人が出来ても私はあなたのこと祝福しませんよ?」
「そんな……」
「あなたが言った言葉です、一度自分が言ったことに責任を持ちなさい」
「はい…」
でも、そんなことはとても悲しいことだ。
学校でイソスに恋愛を教える?
これから何が起きるか分からない。
とりあえずこの言葉をかけよう。
それが唯一の救いだった。
「あの」
「何ですか?」
「私に恋愛を教えられるか分かりませんけど、友達なら教えられます。まず友情からでも許してくれませんでしょうか?」
お母さんは考え込んだ。
イソスもその事に賛成なのか、期待した目でお母さんを見つめる。
「……いいでしょう。恋愛もいきなり始まるわけでもないですし、友達から始めてその過程を楽しむと良いでしょう」
「お母様……!」
イソスの顔はパッと明るくなった。
「さぁ、早くここから出ていきなさい。私から話すことはもうありません」
「はい!」
イソスは嬉しそうに返事をすると、私の元へ駆け寄ってきた。
「愛花、早く行きましょう!」
「……一匹オオカミって言ってなかった?」
「そんなの知りませんわ」
こうして私は、イソスと一緒に聖ガハラ女学院へ戻ることになった。
まさかこの日から、私の学校生活が大きく変わることになるなんて、この時の私は知る由もなかった。




