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第121話 これこ〇亀のたい焼き回でやってたの

「なんですって?下の広場で路上ライブ?」


 神主さんの困り果てた顔に、我ら『FOOLS』のリーダー、万理華さんが般若みたいな顔をしたよ。


 こんにちは。天鬼りあです。

 今、私達は都内某所の神社の境内で…屋外ライブやってた。

 元旦の神社でなんでこんな事を…?


 その理由は神主さんが万理華さんの知り合いだから。

 路上ライブする場所探してる私達に、参拝客が居なくてスッカスカな神社の神主さんが「客寄せパンダになってくれ」って提案してきたんだよね。


 ……がっ!!


「そう。そっちに人が全部集まっちゃって…」


 弱り果てた顔で神主さんは言う。


 最初は人が集まってた。

 でも途中から全然人が来なくなった。

 バチでも当たったのかな?って思ってたら、どうやらお客さんを取られてたみたいだ。


「でもよかった…せいちゃんが居ないせいで人が来てくれないのかと思ってたけど」


 生えてる系アイドルのはーちゃんが白い息吐きながらそんな安堵の言葉を呟く。

 そう、我らがセンター錦野星羅…

 あの人、大晦日に借金取りに攫われたんだって。

 紗良ちゃん曰く「デビューライブの稼ぎが全然だったから借金返せなくてマグロ捕りに行かされた」んだって。


 ……多分一年くらい帰ってこれないね。


「何呑気な事言ってんのはーちゃん…どっちにしろこれじゃ、なんの為にこんなクソ寒い中歌ってんのか分かんないじゃん!!」


 琴音ちゃんの言う通りだった。

 お客さんを取られた事に憤るメンバー…ガラガラの境内を見回して削がれるやる気。


「そもそも下の広場ってライブとかしていいの?」


 紗良ちゃんの一言に万理華さんが返した。


「…恐らく勝手にやってるんでしょ。私達は毎回毎回許可取りして真面目にやってるのに…こういうルールを守らない輩のせいで迷惑を被る事になるなんて…」


 私達の初路上ライブも無許可だったよ、とは言わなかったよ…


「広場の人集りのせいで神社までの道も塞がれてこちとら商売あがったりだよ」


 商売とか言っちゃう神主さんがトホホって言いながら奥に引っ込んで行った。

 放置された私達は……


「……文句言いに行くわよ(怒)」




 殺気立った万理華さんに続く、暇になった私達が神社の境内から一歩外に出たら…

 そこにはちょっと予想外な光景が……


「なっ……!?なによこれ!?」


 神社に続く階段の下から広場…さらにはその向こう側の横断歩道の向こう側まで…

 人為的に敷き詰めたみたいに人がたっぷり詰まってた。

 ゴマ粒みたいな人の頭がギチギチになってる光景を階段から見下ろすのは…ちょっと…気持ち悪かった。


「ハロウィンの渋谷じゃん…」


 それくらい人居た。


「……一体何者?」

「こりゃ僕らの所に人来ないわけだよ」


 戦慄する万理華さんに代わりはーちゃんが先陣を切る。けど、その足も階段を降りきった所で詰まった。


 大量の人による壁で物理的に進めないんだ…


「これ以上進めないけど…爆竹でも放り込んでみる?」

「はーちゃんのその…時々危険な思考はなんなの?万理華さんもう今日は帰ろうよ」

「りあ…帰ろうにもこの人集り何とかしないと帰れないじゃない」


 確かに……


「広場で歌ってんのは誰なんだ?おい琴音。ちょいと背伸びして見てみろ…って。ごめんごめん、未就園児の身長じゃとても……」

「とうとう未就園児まで退化したんか私は(怒)この中じゃ紗良が一番背高いでしょ?」

「超モデル体型の私でも…目の前にボブ・サ〇プが居てちょっと……」

「素直にチビでごめんなさいって言えよ」

「チビにチビって言われた!?」

「琴音ちゃん……流石に紗良ちゃんにチビは……多分琴音ちゃんより70センチくらい大きいよ?」

「私!1メートルしかないんか!?」

「黙りなさい。紗良、琴音、りあ」


 その時万理華さんはどっかからか一斗缶を持ち出してた。


「こういう時の人の散らし方、教えてあげるわ」


 そう言って一斗缶を人集りの外に置く。


「これこ〇亀のたい焼き回でやってたの」


 ヅラを取って気合いを入れた万理華さんが深呼吸の後に勢いよく一斗缶を蹴り飛ばした。

 もう…缶が凹んで吹き飛ぶくらい…


「くらぁぁぁ!!」

「きゃあ!?」「うわぁ!?」「なんだ!?」


 万理華さんの怒号に悲鳴が上がった。普段は紛うことなき美少女なのに…すごい迫力だ。私達もこんな勢いで怒られた事ないよ…


「琴音ちゃん、「こら」じゃなくて「くらぁ」なのがポイントだからね?」

「え?うん…?どーした?はーちゃん」


「誰に断って所場《ショバ》出しとんじゃぁ!!」


 ……これが…アイドルの所場争い…


「これヅラ取った紗良の方が迫力あって良かったんじゃね?眼帯してるし」

「私、一斗缶と琴音の見分けつかないから琴音の事蹴り殺しちゃう」

「おうおうおう、やってみろや。残った目ん玉と生き別れになっても大事ないか?あ?」


 一斗缶作戦は効果覿面だった。

 一瞬にして目の前の人集りは蜘蛛の子を散らすみたいに掃けた。

 モーゼが海を割ったみたいに人集りの真ん中に道が開かれて、その先にこの人を集めた元凶が立ってる。空白の道が私達とその人達を真っ直ぐ繋いだ。


 ……あと、私達は万理華さんとは他人のフリしてた。


「…………え」


 万理華さんが固まった。蛇に睨まれた蛙。いや、バジリスクにやられたハーマ〇オニー。

 なぜなら……


「うぉぉぉっ!?りあちゃん!?」


 紗良ちゃんが叫んで、私もそっちを見る。

 その先には……



 あの武道館の興奮が蘇るようだった。

 そして人の多さに納得した。

 そして、なぜ?って頭に疑問が浮かぶ。


 そこに居たのはトップアイドル『TRY AGAIN』だったんだから…


 私と明石ミライちゃんの視線が交わった。

 交わった。

 気のせいじゃなくて確実に…


「…ど……どうしてこんな所に……」

「りあちゃんがフリーズしたぞ!琴音……ん?あれ?りあちゃん?琴音、りあちゃんが石になっちゃった」

「うんそうだね紗良。こいつぁ大変だ」


「ぎ……ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!???!!!」


 膠着する空間に絹を裂くような悲鳴が…

 まるで死体を見つけた蘭姉ちゃんみたいな…

 すごい悲鳴がした。

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