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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第四章 これから、わたしは
122/124

122.”亜人種”であること



 「……嬢ちゃんや。本当に、出て行くと云うのだな?」


 「うん。わたしが此処に居る理由が、もう無くなっちゃったから……ね」


 ”わたし”は、ただ。

 家族の皆と、ずっと一緒に暮らしていたかっただけ。


 その”家族”は、この世界の何処にも居ないのだ。


 ────で、あれば。

 もう此の地に固執する理由なんかも、わたしの中には当然存在しない。


 「……アウグストお爺ちゃんの云いたいことは、わたしも理解しているつもり。そうだよね、此処までやっておきながらさ。今更、全部放り投げようってンだもん。貴方達”大地の人(ドワーフ)”にとったら、わたしなんて、それこそ”無責任のクソ野郎”なんだろうし、ね?」


 ……その自覚があるからこそ、こうしてみんなに一言頭を下げるために、のこのこ子爵領まで舞い戻ってきた訳で。


 考えてみたら、ちょっとした”復讐”のためだけに、二年以上もの月日を掛けてきた、とか。

 我ながら、本当に執念深いことだ。


 その間、此の地にも色々と”災厄”が降り掛かったのだと後で聞かされ、改めて”復讐”を為ねばならぬ貴族家やら、商家やらが増えてしまった訳、なのだけれど。

 ……それについては、一旦脇に置いておこうかと思う。


 「逆だ。頭を下げねば為らぬのは、我らの方なのだよ。嬢ちゃんや」


 ”リート子爵”の仕事に追われ、今は金槌を握る暇すら無いのだろうお爺ちゃんのゴツゴツとした大きな掌は、堅く握りしめられている。

 あんな大きな拳で殴られたりしたら、わたしの頭なんかそれこそ熟れたスイカ(ヴァサーメローネ.)の如く簡単に粉々だろうなぁ……なんて。


 「そもそもの切っ掛けは、()()()()()()()()()()()()せいじゃろがい。此の地の”特異性”に眼を付ける豪族が出て来ても、何ら不思議ではない。判っておったはずなのに……」


 この地が子爵領となる前に。

 すでに数多の商人やら、それこそお隣()()()、ボロディン侯爵家みたいなお貴族さまに狙われる事態になっていたのは、わたしもパパの記憶から理解しているつもりだ。


 でも、それだって。

 結局は、()()()()()()()から始まったことであって、別にお爺ちゃんのせいではない……と、思う。


 「ンな訳あるかい。嬢ちゃんは、わしら”亜人種”の境遇を知らな過ぎる」


 此の国の大多数を占める”人間種(ヒューマン)”にとって。

 ”大地の人”や”森の人(エルフ)”に代表される”元”妖精族の亜人種達は。


 本来であれば、警戒すべき”別種族”なのだと云う。


 「それこそ、此のリート子爵領。わしら”大地の人”が、人口の凡そ6割をも占めちょるわ。今ではその評判を聞きつけ、世界の方々から”森の人”やら、それこそ獣人やらも移住してきよる」


 辺境の小さな”開拓村”から端を発したこの”領都”も。

 じぃじが”準男爵”になった時点で、パパの発案によって”戸籍"による管理を始めた訳、なのだけれど。


 この国には、人頭税なんてモノが在るのだから、戸籍管理は(そもそ)もやっいて然るべき制度、ではあるけれど……実際は、まぁ。


 台帳を作成するにあたって、300名にも満たない”村”なんかは、管理を始めるには丁度良かったとも云える訳で。

 村が発展し、街道を整備したり、生活向上のためにと、近くの村とも連携を始めたり。

 気が付けば、辺境の小さな”開拓村”は、大きな村となり、やがて”街”となり。


 辺境伯領の一部を割譲され、王家によって”子爵領”の赦しを得て。


 さらには、文字通り”消滅”した旧ボロディン侯爵領の北半分を、前リート子爵の一件に関する”慰謝料"兼”口止め料”として拝領し。

 知らぬ間に、辺境伯領にも匹敵する広大な土地を治めし、デルラント王国内において比類無き強大な子爵様たる”亜人貴族”が、ここに誕生していたのだ。


 「……そのせいか。王家ですら、此の地を危険視しちょるわいな」


 ────ああ、そういうこと。


 そんなの、自分達の()()()()()()()()()でしかない奴じゃないか。

 そんなつまらない疑心暗鬼によって、此の地の住人たちは危険に晒されていると云うのか。


 「……わしらは、<我が神(マイン・ゴト)>の言葉に、最初から従わなかった方が良かったのかも知れぬ」


 ────だってさ。<炎と鉄の神(ファライ=アズン)>?

 確かに、お酒欲しさ、その一念だけで自分の”使徒”の人生をここまで狂わせたのだから、責任は取らなきゃ不味いんじゃないかな?


 まぁ。”わたし”(ヴィクトーリア)も、ずっとその片棒を担いできた訳だから、無責任のままではいられない……か。


 「……だったらさ。まずはクレマンス公爵家と、レーンクヴィスト辺境伯家を頼ろ? どうにもお爺ちゃんさ、”()()()()()()()、色々と見失ってる気がするんだよなぁ、わたし」


 前当主ローランド卿は、確かに()()()()だったのは否定できないけれど。

 辺境伯夫人(エレオノールさま)は違ったし、公爵夫人(マフダレーナさま)も、アーダに対して偏見の眼を持って観てはいなかった。

 あのふたりであれば。

 ()()()()()()()()()()()をしてくれると思うし、そも彼女達は王家のやらかしの”被害者”だ。

 きっと、わたしたちの味方になってくれるだろう。


 「ほっ? わしが”大地の人”であるのは、当たり前の話じゃろがい。過ぎる、とはどういう意味じゃ??」


 「少しくらい、わたしたち()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ってこと、だよ」


 確かに、此処は亜人種のひとたちが多い街になったなぁ、と思ってはいたけれど。

 そんな街を治める領主がこんなでは、”人間種”の領主と何ら変わることはないんじゃないかなって、わたしは思っちゃう訳。


 ────どうせなら、さ?


 「素直に頭を下げてみるのも、良いんじゃないかなぁ」


 わたしの"復讐”による粛正のせいもあるのだけれど。

 今やクレマンス公爵家を頂点とした”派閥”を構成する貴族家は、デルラント王国の1/3近くの国力と国土をも占める一大派閥となっている。


 そんな公爵家の機嫌を損ねるだなんて選択肢を。

 あの惰弱王(ディーデリック)に取れる訳も無い。


 精々、影に怯えるが良いよ。

 自分の偏った”思想”による”疑心”相手に、さ。


 「そんな訳だから、お爺ちゃん。落ち着いたら、此処から出て行くからね?」


 「……あんた。”次のリート”は、どうするつもりなのさ?」


 今まで黙ってひとり酒樽を傾けていたアーダが、此処にきて漸く口を開いてくれた。

 ずっと黙っていたもんだから、怒ってるのかなってちょっとだけ。


 「アーダたち”大地の人”ってさ、この先100年、200年くらいは大丈夫なんでしょ? ()()()()()()()()()()()()()()、此処を見ていてよ」


 その時の”わたし”が”わたし”なのか、それとも、”パパ”の方なのか。

 そこは一度神様に聞いてみなきゃ、ちょっと判らないのだけれど。


 ────それでも。


 「ちゃんと戻ってくるつもり、だからさ。それまで、”リート”をお願い。ね?」


 ”わたしたちの事情”について、あの神さまから全部聞いているだろうから、一々説明しなくて良いし本当に楽。

 ”わたし”の人生は。


 『わたしの思う儘に、これからを全力で生きていく』


 これ。


 「っかぁーっ! ったく、対価は決して安かぁねぇよ? それで良いってンならやってやるよ。旦那が」


 「うぉいっ? わしに全部丸投げなのかよ、かあちゃんっ!」


 「あはははははっ!」


 自由に生き、そして最後は。

 野垂れ死ぬ……つもり。


 だから。

 それまでは。


 こんなつまらない”我が儘”を、どうかお赦しください。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでに各種リアクションも一緒に戴けると、今後へのより一層の励みになります。

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