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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第四章 これから、わたしは
120/124

120.わたし不在の、他の者たちの物語2




Side:アウグスト=”(フラム)”=リート


 ────何故(なにゆえ)、我に”神託”を降ろされなかったのですかな? 我が神(マイン・ゴト)よ、


 『()の娘は、我の使徒ではない。簡単な(それだけの)話よ』


 そも、彼の娘の元へ行け────

 そう、神託を降ろされた(わがみちをしめした)のは、貴方様ではござらぬか?

 <炎と鉄の神(ファライ=アズン)>よ。


 それを、”我の使徒ではない”とは。些か不誠実では……


 『神とて全知全能の存在ではない。<創世神(全能神)(ジェネア=ハールド)>とて、全ての因果、法則を見通せる訳ではないのだ。()()()()()()()()に何ができると云うか』


 神の気紛れに翻弄されるは、神の”使徒”であれば覚悟の上。

 ですが、使徒ではない彼の娘は、誰に怒りの矛先を向ければ────


 『それよ。彼の娘は<運命の神(シックザリアン)>に矛先を向けたが故の、現状(いま)なのだ』


 ……つまりは?


 『今頃天に向け、必死に唾を吐いておること。だろうて』


 なんと不憫な。

 どうにも為らぬその時は、我ら”大地の人(ドワーフ)”であれば、気が済むまで酒を呑み管を巻けば良いだけ……の話でございましょうが。


 『酒も呑めぬ人間種(ヒューマン)童女(わらしめ)では、のぅ……』


 だからこそ彼の娘は、自らの()()()()方向へと。


 『我も、遂に覚悟を決める時やも知れぬ。そこな我が神像崩れし時、我の名を語り継ぐこと罷り成らぬ』


 なんと。

 消滅()されるお覚悟を?


 『それほどに、彼の娘の権能(ちから)と怒りは深い。つまりは、そういうことよ。我一柱の存在だけで済むならそれで良い。”大地の人”の繁栄の道が、それで残るのであれば、な』


 良くも悪くも、今までの我らは、彼の娘の力にあまりに依存し過ぎておりましたでな。

 我々は甘えていた……これは、その”罰”でありましょうか?


 『こんなものを”罰”と云うのであれば、そ()()()()()()()()()()であろ、アウグストよ?』


 ────これは手厳しい。

 確かに。

 率先して脳死しておっては、甘えの誹りを受けて致し方なし、ですな。


 ……然り。

 では。我が神よ、ご照覧あれ。


 我が”領地”。人間種と大地の人とが合力し、これからの戦乱の世を乗り切ってみせましょうぞ。



 ◇◆◇



 「大凡(どんぶり)で良い。敵国(ウォルテ)兵の数、判るか?」


 「……ざっと三千ってところだ、兄さんっ! こりゃ、ちぃとだけヤベぇぞ」


 拡大路線一直線でやってきたが故、一枚の城壁も築かずやって来た()()を支払う時が、今頃やってきたのだ。


 ────そう想えば、多少の諦めも付こうものだが。

 こればかりは、”先代”を責めることなぞ出来ぬわい。

 なんせ、酒の材料欲しさに無理に開拓を推し進めてきたのは、わしら”大地の人”どもなのだから。


 「どうやら彼方(あちら)さんの陣容は、敵国の兵だけでは無さそうですぞ。子爵殿?」


 「ほう? ”酒聖”さまはそう観なさったか」


 「遠目になりまするが。ほれ、あの一際目立つ騎士の胸の鷹の絵を。あれは我が国の()()()伯爵家の紋にございます。敵国と手を組み、他領に攻め込んできた。これは明確な”反逆罪”でしょう」


 野伏(レンジャー)の心得の無いわしには良く解らぬが、優れた弓兵の眼であれば。

 騎士の胸の紋まで、式別できるのだな。


 「とうとう偽装する手間すら掛けぬ様になりおった。開き直った者とは、ここまで恥を知らぬ存在(モノ)であるのか」


 「まぁ、クリスよ。そう云ってやるな。彼方さんは、我らを鏖殺(みなごろ)しするおつもりの様だから最初から為なかった……つまりは、そういうことさ」


 「けっ! ”死人に口無し”ってぇ奴かいっ?! なんとも巫山戯た連中だねぇっ!」


 「全くだぜ姐さん。逆に奴らを鏖殺しにしてやっても、良いんじゃねぇのかい?」


 数の上では、此方が圧倒的に不利。

 向こうの戦力の大半が騎馬に対し、此方は歩兵が主。


 だが。


 装備の面だけで云えば、此方は聖銀(ミスリル)を最低限とした、希少金属(レア・メタル)製の高品質の武具で固めているが、彼方は粗末な青銅武具が大半。

 装備の格差とは、一度の衝突での損耗率に、明確な差となって現れて来る。


 「────この戦。我らの勝ち、だな」


 「ええ、子爵殿の仰る通り。それは、ほぼ間違い無いかと」


 「それでは、我ら【クリスタル・キング】の手で、勝利を揺るぎないものにしてみせましょう」


 この時を想定していたのか、お嬢ちゃんが残してくれたふたりの”冒険者”は、はっきり言えば異常な”特級戦力”だ。

 認めてしまうのが少しだけ悔しいが、此奴らにこそ”一騎当千”の言葉が相応しい。


 「アンタたちだけに美味しいとこ持って行かれたかぁないねぇ。せめて”首”くらいはあたいに残しといておくれよ?」


 ウチのかみさん相手に()()奴が、この世に居やがる、たぁ。


 「それはどだい無理な相談、と云う奴ですな。”首手柄”を挙げてこその戦働(いくさばたら)き。にございますので」


 「早い者勝ちですよ、”子爵夫人”?」


 「ちっ、ホント体格に似合わず一々嫌味なこと云う奴だねぇ、アンタはっ!」


 <走竜(ラプトル)の焦燥>


 【呪歌】とは、本当に恐ろしい技術だ。

 体格のせいか、こと敏捷性に欠く我らの弱点を補ってあまりある。

 敵に対し、常に先手を取れるのであれば、装備の格差だけでなく様々な明確な”差”が、致命的に拡がっていく。


 ────まるで火に炙られた牛酪(バター)の如く。


 我らとぶつかり、みるみる溶けていく敵兵ども。

 頼みの数だけでは、我らの装備と技量を上回れなかった様だ。


 此方は、特に奇をてらった策も無く。

 ただ、正面からぶつかってやっただけなのに。


 「こんな乱戦で、後生大事に弓を抱えてンじゃないよっ! ほらっ、そんなだから腕を亡くすのさっ!」


 「酒が欲しくば、ちゃんと金を出しやがれっ! まっ、テメーらなんかにゃ売ってやらねぇけど、なっ!!」


 ウチのかみさんが大暴れするその横で、義弟(グスタフ)がその隙を埋める様に付き従い……


 「敵兵を殺すことを考える必要は無い。常に(あし)を狙え。落馬させれば、後は勝手に死ぬ」


 「正面から当たらずとも良い。元々、我らは”騎士”ではないのだから。精々()()()()()()()()()()()()()差し上げろっ!」


 ふたりの”特級戦力(ぼうけんしゃ)”が通った跡には、敵兵とその愛馬どもの屍だけが並ぶ。


 「雑魚には眼をくれるな。将を狙えっ!」


 軍の()()が拡がってくれば、雑兵どもは必ず浮き足立つ。

 弱くとも、騎兵は決して無視できぬが。

 戦意を失った、もしくは失いかけた下級兵(みんぺい)どもは、相手するのもバカらしい。放置するに限る。


 それに、”頭”を失えば。


 どんな生物も、そこで”死ぬ”のだ。

 ”群体”であろうと、その法則に変わりは無い。


 「……我が神よ。彼の娘の”帰る場所”。わしらは護りましたぞ」


 勝ち鬨を挙げる訳でもなく。

 祝杯を挙げる訳でもないが。


 此の地を護る”長”として。


 ひとり静かに。

 ……天へと、祈りを捧げた。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでに各種リアクションも一緒に戴けると、今後へのより一層の励みになります。

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