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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
114/124

114.赦せとは云わない。

予約更新忘れてました。

慌てての投下です。




 「ハンス。あなた、やっぱりハンス、よね?」


 ……やめてくれよ、ミーナ。

 こんな時に、俺を追い詰めないでくれ。


 「いきなりどうしたの、”マーマ”?」


 「下手な誤魔化しなんか要らないわ、ハンス。私は前から知ってたのよ、貴方がハンスだって……」


 それは俺も知ってた。

 ミーナが全然突っ込んでこなかったから、触れないでいただけだ。


 そりゃ、そうだよな、

 マルセルに”わたし”を監視させていたのは、そういった数々の気になった点があったから、なんだろうし。

 ……でも、だからって。


 「なら、何で今、このタイミングでなんだよ、ミーナ? そうさ。今この娘……”ヴィクトーリア”の中には、俺”ヨハネス”が居る」


 だが、彼女が”悪魔憑き”ではないことだけはしっかりと伝えておく。

 今後の母娘(おやこ)関係を続けていけるかどうか……まぁ、()()()()()()がある時点で難しいとは思うが。

 それでも、そこははっきりとしておかないと。


 「……簡単な話。()()()()”が今だと気付いたからよ。父さん、母さんが亡くなった原因は、元々私の裏切りがあったから……」


 まぁ、確かにカスペル卿(クズやろう)が増長したのは<女神の祈り>が奴の手に渡った事に端を発していた訳だが……

 だが、そもそもそれを言い出したら、俺が神器を全部回収しなかったことが根本にある訳で。


 ……なんだ。

 結局全部”俺”が悪いんじゃないか。


 「それは違うぞ、ミーナ。ヘンドリクおじさんも、ユリアナおばさんも、”俺”が殺した様なモンだ。俺が彼らを貴族なんかに仕立て上げなければ……」


 そうだ。

 全て、俺のやらかしが原因なのだ。


 ”じぃじ”も”ばぁば”も。

 ”ミーナ”(ヴィルヘルミナ)だって。

 そして、”ヴィクトーリア”の人生すらも。


 「だが、これだけは言わせてくれ。”ヴィクトーリア”は、心の底から、『”家族”と離れ離れになりたくない』……と、そう云ったんだ。だから”俺”は、辺境伯家から提案された”養子縁組”の話を断った」


 ……その結果が、()()なのだから。

 ホント、笑うしかねぇよな。


 いつもそうだ。

 ”俺”の選択は、常に最悪の更に斜め下の結果をもたらす。

 そのせいで、俺の人生を面白おかしく見物しているであろう<運命の神(あのバカ)>を何度も呪ったし、今も殴り殺してやりたいと思ってる。


 「……ホント、ふたりして笑っちゃうわね。どちらもが原因だって譲らない、だなんて」


 「そうだな、酷く滑稽だ」


 どちらも、涙でぐちゃぐちゃになりながらの酷い笑い顔。

 それでも、今の彼女の笑顔が……とても美しいと思ってしまった。


 結局、裏切られたってのに、俺はミーナのことを、今でも愛しているのだと思い知らされた。

 この心の奥底から沸き立つ感情は、ヴィクトーリアの持つ母親に対する情の影響では、決して無い。


 「ねぇ、お願いハンス。()()()()()()()()


 「……駄目だ。そんなことをしたら、”ヴィクトーリア”が、本当に孤独(ひとり)になっちまう」


 ミーナをふたりの老夫婦(じぃじとばぁば)の元に連れて行くのは、俺の【呪歌】があれば容易にできる。

 だが、それをしてしまったら、今度こそヴィクトーリアはこの世に”家族”が一人もいなくなっちまうのだ。首肯できる訳もない。


 まだ彼女は、数え9つの幼女でしかない。

 親離れの時期はまだまだ先だし、積極的に新しい恋を探すことだって充分にできる年齢。


 「……私が母親面できた時期なんて、ここ2、3年の、最近でしかないのよ。私はね。あの子を何度も殺したの。そんな()()()が、あの子のこれからの人生に必要だとは、到底思えないわ」


 自らの手で殺害した”ヨハネス()”の証を持って生まれた娘を見て、そのまま衝動的にヴィクトーリアの首を絞め殺してしまったのだという。

 我が子に初乳を与えることもなく、最初の行為が()()()()()のだから、自分は母親を名乗る資格が無い。

 そう云うのだ。


 赤子の鳴き声が聞こえなくなった後、自分の行いに恐怖し、全身で啼いたという。

 泣き疲れて翌朝目覚めた時、隣で健やかな寝息を立てていた赤子の寝顔を見て、あれは”悪い夢”だった。そう思い込もうとしたと。


 「……でも、駄目だった。確かにこの手であの子の首を折った、その感触が、ずっと残っていたもの」


 ────何時また衝動的に、我が娘を殺す時が来るかも知れない。


 その恐怖に怯え、ミーナは孤児院にヴィクトーリアを捨てた。

 なのに。


 「でも、あの子を抱いた時の温もりが、胸に沸き立つ暖かい感情が……どうしても忘れられなかった」


 その度に、半日も経たずに迎えに戻ったのだと。


 「……私はね、ハンパな人間なの。非情に徹することも出来なければ、母親にもなりきれない……だから」


 せめて、愛する娘に対し、胸を張れる何かが欲しかった。

 治療院を開き、<回復術士(ヒーラー)>として全力を注いだのだと。


 「……なんて。きっとこれも”逃げ”の一種よね。本当に、私ってばハンパ者、だよなぁ」


 「そうかもな。”あの娘”(ヴィクトーリア)には、お前の後ろ姿しか記憶に無かったんだ。ちゃんとお前の顔を認識したのは、”ばぁば”とふたりして治療院に転がり込んでから、だったな」


 その前に、本人はお前から全否定を喰らって、引き篭もっちまってたんだけどな。

 言わぬが花、って奴かな。


 「そっかー。本当に、駄目な母親だったんだねぇ」


 「それを言ったら、俺なんかどうなる?」


 娘が生まれる前にはもうこの世にいなかった上に、その娘の中に知らぬ間に居座ってた”父親”って、一体何だよってな。


 ────おい、ヴィクトーリア。

 この話、聞いてたんだろ? 出て来いよ。


 「”マーマ”……」


 「ヴィ-? 貴女、ハンスでなくてヴィーよね」


 ”マーマ”(ヴィルヘルミナ)の呼び掛けに無言で頷く我が娘。


 此処で戻ってきてくれて、本当に良かった。

 ”最後の別れ”に、彼女は間に合ったのだから。


 「マーマは駄目なマーマじゃないよっ! マーマは、わたしにとって、ずっと最高のマーマだよっ!」


 辺境伯夫人(エレオノールさま)は、自分こそ”お(かあ)さま”だと呼んで欲しい。

 なんて云っていたが、やはり間の意味に”義理の母”と入るのは、どうしても仕方のない話。


 ……だって。

 ”俺”も”ヴィクトーリア”も、家族に飢えてたんだ。


 「ありがとうね、ヴィー。私にとって、貴女は最高の娘よ……」


 漸く待ち望んでいた”母の温もり”に触れられて。

 彼女の心の壁が、静かに崩れ去って行くのを感じた。


 ……ああ。

 漸く、これで”俺”も。


 ヴィクトーリア。

 俺も、”彼女”と一緒に行くとするよ。


 「……パパ?」


 お前を置いて逝く俺たち(両親)を怨んでくれても良いさ。

 でも、今のお前には【音の精霊】たちがいる。【クリスタル・キング】のふたりがいる。


 彼らの云うことを良く聞いて、お前の思う儘に、これからを全力で生きなさい。


 「……うん、今までありがとね、パパ」


 「さて。じゃあ、逝こうか。ミーナ」


 「ごめんね、ヴィー。マーマ、疲れちゃったの。先に逝くマーマを赦してね」


 【音の精霊】たちよ、今までありがとう。

 これからは、ヴィクトーリアひとりを主とし、彼女を支えてやってくれ。


 <死神達の葬送曲>


 最後に唄うのが、まさか自らを(おく)る曲、だとはな。

 ────だが、それも悪くない。


 彼女とふたり天へと昇る曲は、その名とは似付かわしくない暖かな音色を湛えているかの様だった。





 

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