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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
112/124

112.馬車、疾走。



 王宮を辞したが、今回ばかりは徒歩組を連れて行く気は毛頭無い。


 正直に言ってしまえば、馬車すら移動の足枷と考えているのだ。

 まだウチのは、軽くて跳ねない”特別仕様馬車”だから、何とか目を瞑れるくらい。


 それでも先を急ぎ過ぎて、重要な”戦力”を置いてきぼりにしては本末転倒だ。

 だから、馬車の移動はどうしても必要。

 そして、予備の馬を複数連れて行かねばならぬ不便が、本当にもどかしい。


 「今のペースだと、どのくらいで辺境伯夫人(エレオノールさま)に追い付けるかな?」


 「街道の状況次第ではございましょうが、これなら明後日中頃までには、恐らく」


 辺境伯夫人たちが変にショートカットを狙って街道を外れていたりしたら、追い付く以前の問題になってしまうけど、そこまで無駄に考えていても仕方がない以上、素直に街道を進むしか方法は無い。


 今、俺が一番恐れているのが、脚の速いフィリップ卿と騎士を先行させることによって引き起こされる『各個撃破』のパターン。

 王家直轄領は、ほぼ”敵地”と同然の状況であることは辺境伯夫人も心得ているはずだが、焦りは判断を惑わせる。決してあり得ない話ではないだろう。


 一応は、辺境伯夫人にもウチの"特別仕様馬車”と同等の品を贈ってはいるが、追っ手の騎馬を振り切るのにはどう考えても無理がある。

 せめて、護衛の騎士たちを常に側に置いてくれていることを祈るばかりだ。


 「……そんなこと言ってられる余裕が、此方にも無さそうだけどな」


 王都の門を潜って外に出た途端に、此方に近付いて来る馬蹄の音と共に、俺のアクティブ・ソナーに複数の感。

 ──此方の”戦力”と、数の上ではほぼ同じか。


 あんなの、相手する時間も惜しい。

 ドレミ、ファ、ソラ、シド。

 ()()()()()()、よろしく。


 『『『『あい、あい』』』』


 王都を出た途端に、()()だ。

 どうやら、王家と俺たちは奴らに完全に舐められてると良く理解できた以上、欠片の遠慮なんぞも無用。

 やってやるよ、徹底的にな。



 ◇◆◇



 『大半がチンピラ紛いの()()()()()()だったが、その中に幾人か”騎士”が混じってたわ』


 ──そうか、ありがとう、シド。

 大体予想通りだ。


 奴らの目的は、”リート子爵令嬢”の()()……辺りかな。


 『家紋なんか、あたしたちが見たって分かんないんだけど。でも、結構派手で位が高そうな意匠してたよー☆』


 安心しろ、ドレミ。

 俺もぱっと見程度じゃ全然解んねーから。


 まぁ、何処其処の貴族家が解った所で、此方からは何も手出しが出来ないんじゃ、ねぇ?

 此方に敵対する素振りを見せた時点で、相手の事なんか一切気にする必要無いさ。


 どうせ、皆殺すだけだからな。


 勝負は、王家直轄領を越えクレマンス公爵領に入るまでの道のりだ。

 逆を云えば、なるだけ早く辺境伯夫人と合流せねばならない、ということだが。


 ここで4日以上も差が付いたという事実が、重くのし掛かってくる。

 如何に此方が【呪歌】による数々の強化付与(バフ)を馬に施したにしても、やはり休憩無しに一昼夜走り続けることは不可能なのだ


 くそ、こんなことなら内燃機関の模型でも作って、自動車の開発をアウグストたちに指示していれば良かったわ。

 そうすれば、こんな風に脚で苦労するハメにならずに済んだのかも知れないのに。


 「ですが、この速度を少しの休憩を挟むだけで維持できているのは、充分に脅威でしょう。これなら、予想より早く辺境伯夫人と合流できるやも知れません」


 「少なくとも、街道が空いているのだけが救いかな」


 王都から伸びる街道を気儘に疾走できているのも、商隊(キャラバン)の列をほとんど見かけないからだ。

 多少乱暴な話にはなるが、街道を行き交う商隊の数が、そのまま国力の指標にもなる。

 ────つまりは、そういうこと。


 「この国は、すでに落ち目。そう云ったところでしょうか──」


 「クリスの云う通り、なのかもね」


 まぁ、少なくとも健全な国ではないよね。


 他国の侵攻が現在進行系で行われているのに、戦地に援軍を送る素振りすら見せないとか。

 そもそもその時点で、あり得ないのだ。

 王宮の警護を目的とした、近衛のはずの宮中護衛士インペリアル・ガーダーどもが、王家ではなく他の上位貴族の飼い犬だった事実一つ取っても、あり得ない話だった訳だし。


 むしろ、そんな状態で()()()()()()()のが不思議なくらいだ。


 まぁ、それも終わりが見えてきた訳だが。



 ◇◆◇



 【呪歌】による強化付与の強行軍の、二日目の夕方に。

 遂に、辺境伯夫人一行の影を、先行させた【音の精霊】たちのアクティブ・ソナーが捉えた。


 『駄目だ。間に合わなかったらしい』


 ────そうか。

 そうかぁ────


 よりによって、クレマンス公爵領の境にほど近いこんなところで。


 騎士の遺骸が、幾つも。


 辺境伯家の正式装備の色の基本は 枯草色(カーキ)だ。

 それ以外の色をした騎士の骸も多数あるから、領境付近で待ち伏せをされたのだろう。


 ……あ。

 この人の顔、見覚えがある。

 ”ヴィクトーリア”をこどもではなく、ひとりの淑女として、ちゃんと扱ってくれる立派な騎士(ひと)だった。

 

 そんな人でも、やっぱり”戦場”では死んでしまうのだ……


 『これは、血の乾き方から云っても、半日は経ってるのかな?』


 『今は()()()()より、生きてる奴だ。しっかり街道の先を見ろアール!』


 そうだ、その通りだ。

 亡くなってしまった人たちには悪いけど、今は生きてる人こそが最優先。


 ──まだ、大丈夫。


 あの馬車は、特別頑丈に作った。

 中級魔術の直撃であっても、数発は耐えれるくらいには。


 『馬車、見つけたよっ!』


 本当かっ、何処だ?


 『其処から3kmくらい先。でも、沢山の騎士に囲まれてるっ!』


 くっ、不味いっ!


 『大丈夫だ、お前は慌てなくていい。オレ達の【呪歌】で、充分全域をカバーできる筈だ』


 頼む。セントラル、エル、アール。

 下手に奴らに俺たちの接近がバレたら、あの人たちが何されるか解らないもんな。


 ……お願いだ。皆、どうか無事でいてくれ。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでにイイネも戴けると……

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