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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
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111.正念場の茶会。




 正妃殿下(マハテルートさま)には、多少の不敬も覚悟しての直談判も兼ねたお茶会にご招待。


 此方としては、次期"リート子爵夫人たるアーダを同席させたくないのが偽らざる本音だが、正妃殿下をご招待するにあたって、どうしても格式と礼儀は必要不可欠だ。

 この辺、所詮"令嬢"という公式の場に出てこれぬ弱い立場では如何ともし難い。


 「……だから、悪いんだけどさ。なるだけ黙っててくれると助かる」


 「はっ! 安心おし。頼まれたって()()()()と会話なんかするかっての」


 ……こっちから頼んどきながらどうかと思うけど、どこまで”お貴族さま”が嫌いなんだよ、アーダ。

 

 とはいえ。

 困ったことに、正妃殿下がお見えになった後に主催者たる”リート子爵夫人”が退席する訳にもいかないから、どうしても()()()がぎりぎりの妥協点って奴なのだ。


 そして、今回のお茶会では、当然特別なモンは出さない。

 そもそも出すメリットが皆無だしな。


 そりゃ美味しいお菓子で、一本釣りするって方法も一瞬考えたけどさ。

 これがグルメ漫画とかの"そっち系"のお話なら、そういう展開もアリだろうが。

 アニメじゃない、アニメじゃない、現実なのさ。ってなぁ……


 まぁ、俺の心の平安のためだけに俺の好物を出すつもりだけど。

 折角王宮のシェフの生命を助け、我が領の特産品でもある上白糖を渡し味方に引き込んだんだし。

 これくらいの役得は、ねぇ?


 俺の【浄化(ギフト)】と、ウチの領の上白糖を活かすお菓子のレシピと云えば、やっぱりプリンだ。

 この世界の卵は、わりと高めの確率でサルモネラ菌……てか、ほぼ同じの近縁種に汚染されてるみたいだから、生食は勿論、充分に加熱処理していないとわりと死ねる。

 これが恐ろしいことに現代日本だと0.001とか3%とかって超低確率に化けるんだぜ? どう考えても生食にかける情熱が異常過ぎるよ、日本人。

 でもTKGってうめぇしなぁ……もうかれこれ累計何百年と口にしてないけど。


 で。

 こいつでプリンを作る場合。

 ()が入るくらいの加熱がどうしても必要になるので、鑑定できない人間は【浄化】が必須になるって訳。

 でも、どちらも持ってる俺には関係の無い話。チート万歳。


 「なんだい、酒は出さないのかい?」


 「……お茶会だ。って、わたし言ったよね?」


 ホント、何処までもブレねぇな。アーダ。



 ◇◆◇



 正妃殿下をお招きした”リート子爵夫人”主催のお茶会の席で。

 最後までアーダを大人しくさせるために。

 ……と云う名目で、彼女のカップには()()()()()()()()()をなみなみと注いでやったよ。


 (おっほぅ♡ やっぱりお嬢はサイコーだよっ!)


 (……ホント頼むから、大人しくしててよ、アーダ)


 ──さて、ここが正念場だ。


 ”ヴィクトーリア”を、恐らくは戦によって荒れているだろうレーンクヴィスト辺境伯領に行かせないための足止めを、正妃殿下が主導している……のだとしたら、どうやって説得すれば良いのか?

 そもそも、足止めの目的が”悪意”によるものではなく、わたしの身を案じての”善意”によるものなだけに、かなりの困難が予想される訳で。


 しかし、領民のことを考えたら、この”善意”に満ちた行為自体が、はっきり言って迷惑だ。


 そのことを、正直にぶつけるしかないだろうね。


 「その様なこと、まだ幼き貴女さまが案じる必要はございませんわ。万事、()()()の辺境伯に任せておけばよろしいのです。急ぎお義姉(エレオノール)さまが、ルーヌに向かわれたのですから」


 「……ボロディン侯爵。それとエングレン侯爵に、ヨンケル伯爵。あと、カンプス子爵……ですか」


 レーンクヴィストをハメるため、だけに裏でウォルテ王国と()()()()()貴族派の家の名を指折り数えて挙げてみる。

 ボロディン侯爵家が、今回の暗躍には特に()()()()()()()()


 ──そりゃそうだよね。

 自分の直ぐお隣に、リート子爵領なんて美味しい土地が転がってるんだもん。

 寄親たるレーンクヴィスト辺境伯さえ居なくなれば、


 『すぐお隣の領地の危機を、我が兵力で安堵する』


 なんて、大義名分を振りかざして。

 全部を美味しく掻っ攫えるのだ。ついついやりたくなるのも、そりゃ頷けるさ。


 「そんな大きな家の方々が裏で熱心にお義父さま(ローレンス卿)のおみ足を引っ張って下さっているのですもの。いくら戦上手と名高い()()()()()であっても……わたくし、本当に心配で心配で」


 ────”わたし”は全部知ってるよ。


 そのメッセージを込めて、俺は真っ直ぐ正妃殿下の眼を見つめる。

 本来、この行為は不敬の最たるもの。

 それこそ、その場で護衛の騎士に首を刎ねられても文句が言えないレベルで。


 だが、そんなの知ったことか。

 こちらは何千の生命を背負ってこの場に立ってるんだ。


 いくら弱体化したとはいえ、ちゃんと情報を掴んでおきながら。

 そのことを何も追求できない弱腰の王家の庇護なんか、”わたし”は要らない。


 「……っ。そう、ですか」


 言外に込めた”俺”の意思をちゃんと読み取れたのか、正妃殿下の端正な顔は苦悩に歪む。

 いくらなんでも貴族派の連中は、()()()()()

 国内に敵の兵を招き入れ、迎撃の軍の足を引っ張り……(あまつさ)え、裏で自国の将の首を刈ろう、などと。

 何せここから片道15日は掛かる距離だ、ローレンス卿の生死については未だ判らないが、辺境伯夫人(エレオノールさま)の慌てぶりから察するに、恐らくは、もう……


 だから、俺は()()()()()()()()()()()()()動くつもりでいる。

 猶予は無いのだ。


 「わたくしは、大切なひとを守りたいのです。お義母(エレオノール)さまも、フィリップさまも……そして、リートの民も、全て」


 まだ()()()だから。

 なんて。

 そんなつまんない言葉で、俺は止まるつもり無いよ。


 確かにレーンクヴィストの兵力は、デルラント王国随一を誇っているのは事実だ。

 だが、それもこれも戦上手で鳴らすローレンス卿の用兵の手腕があってこその話。


 彼の後を継がねばならぬ立場のフィリップ卿が、実際何処までやれるのか解らないし、またどれだけの兵力が残っているのかも解らない。

 解らないことだらけで未来の見通しが全くできない以上、それこそ()()()の手だってあるに越した事はない────はずだ。


 「ですので。王都を発つ許可と、大義を。わたくしと、新たなる()()()()()に戴きとうございます」


 これで正妃殿下が首を縦に振らないなら、もう知らん。

 ”リート家”は無くなるだろうが、せめて領民だけでも残れる様に動くさ。


 「”プリン”でしたか。貴女さまの席で出るお菓子は、本当にいつも特別で……」


 ひとくち、ひとくちを味わい尽くすかの様に、正妃殿下は木匙を口に運び。


 「明日の午前に」


 ────陞爵の儀を行います。

 待ち望んでいた言葉が、正妃殿下の口から零れた。


 「戦を終わらせて。また、この様な特別な席に、妾をお招きくださいましね? リート子爵令嬢」


 「はい、ぜひに。マハテルートさま」


 その時は、とびっきり豪華で、美味しいお菓子を出してあげる。

 多分、アイスクリームだってイケると思うしね。

 辺境伯夫人も一緒にさ、美味しいお菓子を食べながら。

 茶飲み話に花を咲かせて。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでにイイネも戴けると……

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