110.憶測の軍師達
誤字報告いつもありがとうございます。
ホント、マジで助かっております。
レーンクヴィスト辺境伯領で今何が起きているのか?
すでに”身内”であるはずのヴィクトーリアに何も告げず、急いで王都を発つ必要がある事情とは──
「……やっぱり、ウォルテ王国か」
「彼の国は、四方に喧嘩を安売りし過ぎた”自業自得”を地で行く阿呆ですので。ただ、此度の”侵攻”に限って云えば、周到に練ってきた感がありますな」
”レーンクヴィスト辺境伯”たるローレンス卿は、内政はエレオノール辺境伯夫人に一切を委ねていなければあっという間に破綻する無能者ではあるが、事、戦に関してのみに言及するならば、彼以上の戦上手は周辺国の将軍クラスの人物を当たってっても、早々お目に掛かれない。
──なのに、辺境伯夫人が慌ててルーヌへと急行せねば成らなかったところを見ると。
「異常事態があったということ、でしょうね」
「周到に練ってきた。とは、そういう意味でございます」
なるほどね。
辺境伯領都ルーヌから、王都ダリューまでは、騎馬で凡そ十五日間の道のりだ。
帝国の様に、早馬の駅伝による情報伝達のシステムが街道の隅々までに構築されていれば、おそらくはこの半分以下の時間で、初報が届いたのだろうが……
「恐らくは馬を使い潰して、での無理を慣行したことでしょう。下手をすると本来届いているべき時間よりも掛かっておるやも知れませんな」
馬だって生物だ。
全力で走れば、直ぐに疲れるだろうし、長距離を想定して速度を抑えて走ったとて、それが連日ずっと続けられる訳も無い。
ましてや、元々馬は夜行性の動物ではないのだ。夜は当然休ませる必要がある。
馬を使い潰す勢いで無理に走らせ、道中で徴収してはその行程を走り継いできたのだと仮定して。
その間のタイムロスを考慮に入れると、恐らくキングこと、王 泰雄の指摘通り、余計に時間が掛かるだろう。
「……辺境伯夫人がルーヌに辿り着いた時には、全てが終わっておる可能性もあり得るか?」
「それが、どちらの決着であるのか……までは解りかねる……が、ね」
クリスこと、クリスティン=リーの投げかけた疑問に、キングの返答は極々短い。
如何に周囲の物事が良く見えるとはいえ、キングは”冒険者”であって、軍師ではないのだ。
まぁ、もし仮に彼が優秀な軍師であったとして。
まともな情報が一切入ってこないこの環境のみで、ここまでの推察ができるだけでも充分立派だとは思うが。
元々、北方のウォルテ王国は。
周囲に喧嘩を売りまくり、
『傍迷惑な隣人である』
と。何処の国の”史書”にも、そう記されている狂った国だ。
当然、”ヴィクトーリア”が世に生まれてからの9年の間にも、彼の国との小競り合いは、両手の指だけでは足りない程に起きている。
それが日常……だと云ってしまえば、その程度のこと。
の、はずが。
「まぁ、現状此の国にとって良くない状況にあることは、恐らく間違いない。でしょう」
「……レーンクヴィストの人たちもそうだけど、やっぱり領民の皆が心配だよ」
辺境伯領から割譲されたリート子爵領は、領都ルーヌから徒歩で二、三日ほどの距離に在るのだ。
侵攻の手に行き詰まれば、略奪の為に周囲の集落を襲う、なんてことは儘当たり前に起こり得る。
そうなれば、残された領民の皆は……?
「直接の侵攻は、北方に広がる”魔の森”が防いでくれましょうが。確かに、街道に沿って来られては、色々と不味い事態に陥るかと思います」
物流こそが、内に材料を購入し、外に商品を売って生計を立てていかねばならぬ我が領にとって生命線でもあったし、この整備はどうしても必要な”事業”となっていた。
だが、此処に来て、返ってそれが仇になる可能性が出て来るとは──
そして、残してきた”戦力”にも不安が残る。
元村の青年団から派生した領兵団は、正直体裁を整えるのがやっとで未だ数が揃っていない上に、その大半を今回の王都行に連れてきている……それもすでに、片手の指で足りる人数しか残っていないのだが。
更に云えば、我が領の”最高戦力”たるアウグストとアーダに、グスタフが此処に来てしまっている。どう考えても、向こうには戦力が足りていないのだ。
……そもそもそれ以前に、アウグスト夫妻は”リート子爵”になるのだ。もう戦場に絶対立たせる訳にはいかない。
王家……と言うか、正妃殿下に現状足止めを喰らっている俺たちは。
「この時点で、辺境伯夫人たちから、三日の差ができてしまっている……のか」
「ただ、あちらはご婦人を連れた馬車での行軍ですので。今なら充分間に合わせることもできるかと」
まぁ、俺たちの【呪歌】を組み合わせていけば、馬相手にでも多少の無理が利く。
恐らくは、夫人に追い付いた上で、残りの行程を半分以下に短縮できる──はずだ。
「問題は、少なくとも初報からすでに一ヶ月近くの時間が経過してしまっているということです。現状、焦って五日、六日と短縮したところで時すでに遅し。という可能性も視野に入れておかねば」
確かに、クリスの云う通りだ。
「だけれど、放置もできない。不敬は承知の上で、さっさと儀式を行って貰える様にしないと」
ここでアウグスト夫妻を置いていくという選択肢なんか、元より無い。
彼らを戦場のど真ん中に放置するのと何ら変わりないのだし。
それをするくらいなら、今すぐ正妃殿下の要請自体を無視して、王宮を飛び出てるっての。
……てか、どう考えても儀式云々、以前に。
正妃殿下は、俺たちを本当に足止めしているだけ、にしか思えないんだよなぁ。
『たぶん、それで正解』
やっぱりそうか。
────で。
どうなのさ、シド?
『ああ、どうやら辺境伯はハメられた臭い。たぶん、もう死んでるだろう』
……そうか。
だから、エレオノールさまはあんなに慌てて……
『で、ここで勘違いしては駄目なところだけどよ。王妃は、お前さんの身を心底心配しての足止めっぽいんだ。だから余計に面倒臭い話になっていやがる』
……はあぁ?
ありがた迷惑、って言葉がぴったりな状況だな、おい。
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