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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
108/124

108.爆発っ! フラストレーション




 人化した身体に慣れさせるため、そして皆の"戦力"を把握するためにと。

 【音の精霊】たちと【クリスタル・キング】とで、厭きることなく模擬戦を繰り返し行っていたら。


 「ああもうっ、ホントいい加減にしとくれよっ!」


 ……とうとう、アーダが切れた。


 何処ぞのお貴族さまに雇われてるだろう暗殺者(アサシン)どもが、ウゾウゾと天井裏やら、窓やらにへばりついていやがるし。

 護衛役である俺たちが現場を離れる間だけでも、と。

 子爵家に割り当てられた部屋を結界ですっぽり覆っているため、アウグスト夫妻はセルフ半軟禁状態になっているという……

 護衛役の俺たちは身体を動かしてリフレッシュ(?)してるってのに、自分たちは軟禁状態で身動きが取れないとなれば、そりゃ色々不満とストレスが募るに決まってる。

 だからこの反応も頷ける、訳なのだが。


 「でも、わたしたちだって遊んでる訳じゃないんだけどなぁ」


 「あたしらも混ぜとくれって話さっ! じっとしてるのは、性に合わないんだよ」


 まぁ、確かに。

 訓練場自体を結界ですっぽり覆ってしまえば良い訳だから、アーダたちだって身体を動かすことも出来ない訳ではない。

 しかし……


 「正直、感心できませんな。護衛対象が場を動く。敵方に云わせれば、”好機”となりましょう」


 キングこと(ワン) 泰雄(タイシオン)の指摘は正しい。

 言い方悪いが、こうやって監禁しているからこそ、”リート子爵夫妻”の安全が保たれている訳、なのだし。

 わざわざその有利な状況を、此方から壊す意味が無いのだ。


 「ですが、アーダ様のお気持ちもワタシは理解できます。何もしない時間というのは、それだけでフラストレーションが溜まりますし……」


 「ほらっ。アンタたちばかり楽しいことしてンじゃないよっ!」


 いや、俺たちだって楽しんでる訳じゃないんだけどなぁ。


 でもまぁ、どうせ拠点に戻る為に嫌でも結界の外に出なきゃなんないから、結局何れは危険な場面も出て来るんだし、今更だと云えば確かに今更か。


 「移動の日程とかも辺境伯夫人(エレオノールさま)と相談しなきゃなんないし、今すぐ出発、って訳にもいかないから、仕方ないかぁ……」


 だったら、少しでも発散させてやんないと駄目かも知んない。

 【音の精霊(ウチの子)】たちなら、多少痛めつけられても受肉を解除しちゃえば元に戻るんだし。


 『『それでも、あたしたちだってやっぱり痛いんだよっ?!』』


 ドレミ、ファうるさい。

 ”痛い”と思えるのは、生物として正常な機能なんだから、そこは有り難いと思いなさい。


 ──ああ、そういえば。


 「……アーダとクリスは、どっちが強いんだろ?」


 思わずポロっと出てしまった言葉に心底後悔したのは、”ヴィクトーリア”になってから初めてかも知れない。


 「勿論あたしに決まってンだろ?」


 「ワタシの方でしょう、確実に」


 ほぼ同時に両者の間から返答が出、視線がぶつかりバチバチと火花が。


 ────やっべ。

 俺、久々にやらかしたかも。


 「あー。<継承者(サクセサー)>どの、()()()()()()()()な……」


 「ごめん」


 クリスことクリスティン=リーは、立てる相手の半歩下がり後ろを歩く。

 そんな蛮族な見た目と反して、中身は大和撫子(?)的な精神の持ち主、なのに。


 「こうなってしまった以上、然と白黒付けねば後々にまで悪い影響が出るでしょうな」


 「”冒険者”ってさ、ホント面倒臭い生き物なんだね……」


 「それは勿論。()()()ですので」


 周囲に舐められたら、そこで()()()()()()()()()とは良く云ったもので。

 そう零すキングの顔は、どことなく楽しそうだったり。

 てか、こいつも”冒険者”だったわ……反省。


 でさ。


 「何で奥さんが散々喚いてるってのに、貴方はずっと大人しいのさ、アウグスト?」


 「うーむ?……ほほほーぅ!」


 ────あかん。

 世に生まれ出でた時に”自重”という概念を置いてきちまった臭い<炎と鉄の神(ファライ=アズン)>のHENTAI作品の数々を、舐める様に検分してやがるわ。


 「……ま、ほっとこ」


 護衛対象が大人しくしてくれてンなら、それに越した事は無いんだし。



 ◇◆◇



 大人しくしてくれてるとはいえ、アウグストをひとりにしとく訳にもいかず。

 念の為にエル、アール、セントラルのスピーカー三兄妹を結界維持と護衛のために置いてきた。


 で。

 暗殺者どもも此方が動いたからと、色めき立っているのが気配からも丸わかり。

 この時点で、()()()()が充分伺い知れるという。


 『いっそのこと、見せしめも兼ねて何人か()っちまおうぜ?』


 ──シド、自重。

 ()()()()()()()()って時点で、それも罠に含まれてると考えるべきなのさ。

 相手が騎士身分を持っていやがったら、本当に面倒臭いんだぞ?

 そんなのと殿中での刃傷沙汰なんて、それこそ格好の口実を与えちまう。


 『だからだよ。刃傷沙汰じゃなきゃ良い、ンだろ?』


 ……ああ、そういうこと。

 だったら、存分におやりなさい。


 そう云うや否や。

 少しの時間差で、どさどさと人の倒れる音が。


 ──仕事が早いねぇ。


 『フラストレーション溜まってンのは、何もそこの大地の人(ドワーフ)だけじゃねぇからな』


 今寝かせた暗殺者を、後に()()()()らしいので、シドは此処に置いていく。

 もう少し、【呪歌】を改良してかなきゃな……微妙に使い勝手が悪いわ。


 闘技場に着くまでも、ふたりの間に火花がバチバチと飛んでいた訳だけど。

 今じゃまるで空間が歪んでる……様に見えるレベルで凄まじいことに。


 「頭部への攻撃、または故意による殺しは無し。当然相手を殺した場合は負け」


 シンプルな”冒険者”間の模擬戦……というか、決闘のルールだ。

 てか。

 一応、アーダは護衛対象なんだから、殺しちゃ駄目に決まってンだろって無粋なツッコミは、この際云わないとく。


 アーダの得意武器が大槌の時点で、得物の制限を加えても大して意味が無いと、それぞれ自前の武器でやってもらうことに。


 ──ああ、しまった。

 <女神の祈り>を、<魔法と自然法則の女神(マギカ=ゲゼッツィー)>に返さなきゃ良かった。

 アレが手元にあれば、例えどちらが死んでも生き返らせられたのに。


 「はじめっ!」


 開始の合図と共に、ふたりは距離を詰める。


 一対一(タイマン)だと、やはりリーチの差は、そのまま大きくのし掛かる。

 クリスの攻撃が届く距離は、アーダの間合いの遙か外側。

 遠心力を打撃に変える大槌を持ってしても、まだ距離が足りないのだ。


 「はっ! 見た目と違ってお上品な戦い方だねぇっ!!」


 クリスの模擬戦の相手は、常にキングだったと聞く。

 素早く動く相手を懐に入れない様に戦うのは、彼女は当然慣れている訳だから、アーダには不利だろう。


 「お互い手の内を知り尽くしているから仕方のない話、なのですが。千日手になることも、儘ありましたな……」


 「まぁ、そうだろうねぇ」


 さて。


 結局、対人戦なんてものは。


 ()()()()()()()()()()()()()()のが、勝つための基本だ。


 そうなると当然。


 「むっきーっ!!」


 やられる方は、一方的にフラストレーションが溜まる訳で。


 汚い、ズルい、卑怯……

 対戦相手を罵倒する言葉は、世の中に数あれど。


 所詮、それは負け犬の遠吠え。


 そういう意味では、アーダは駄目だな。

 我が強いせいもあって冷静さを完全に失っているのか、クリスに良い様に弄ばれ始めてる。


 間合いをはぐらかされ、簡単なフェイントに引っかかり、渾身の打撃をいなされる。


 「──潮時、でしょうな」


 「だねぇ」


 アーダが綺麗に地面に転がったところで試合を止める。

 結果は、云うまでもない。


 「……アーダ、気が済んだ?」


 「済む訳ねぇだろっ! あー、腹立つっ!!」


 ダヨネー。


 「こうなりゃ、ここに居る全員、あたしと()りなっ!」


 「うへぇ……」


 まぁ、俺も【音の精霊】たちも。

 大槌持ち相手と闘うなんて、早々経験無いからこの際丁度良いのかも知んないけど。


 「<継承者>どのには、良い訓練になるやも知れません。是非にお願いしたい」


 あー。

 キングの師匠魂に火が付いた。


 アーダのフラストレーション解消の機会ではなく、完全に俺の訓練に化けちまったな、こりゃ。


 お手柔らかに頼むよ、アーダ。

 【音の精霊】たちと違ってさ、俺がアンタの攻撃でもし仮に怪我したら、多分死ぬから。


 ほんのちょっと前まで、貧弱ボディの幼女だったんだぜ、”ヴィクトーリア”って。


 頼むよ?




誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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