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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
105/124

105.現実に勝るクソゲーは無い。

誤字報告いつもありがとうございます。

非常に助かっております。




 「……早急に、我らは王都を発つべきでしょうな」


 「だよね」


 キングこと、(ワン) 泰雄(タイシオン)の出した答えは極々当たり前の選択だった。


 「ただ、道中の身の安全をどう計るかが、問題になりますね……」


 「だねぇ」


 我が領の大地の人(ドワーフ)どもが、寄って集って趣味と現状再現し得る”地球の技術”を突き詰めて作成した”特別仕様馬車”を疾走させたとして。

 所詮、牽引車のカテゴリに属する物なのだから、素の騎馬相手に脚で勝てる訳も無い。

 追手が掛けられた時点で、此方は何処かで迎撃せねばならない事態に陥るのだから、予め”戦力”を整えておく必要がある。


 リート家お抱えの衛士の大半を失った今、”子爵家縁の人間を護る”その目的の人員には、かなりの不安が残る。

 第二楽団員と、大地の人含む荷物搬送員だけでも60名は軽く超えるのだ。

 【クリスタル・キング】のふたりの手だけでは全然足りない。


 「かと言って、慌てて冒険者を雇っても……ねぇ?」


 「自ら暗殺者(アサシン)を招き入れる愚を犯す結果、にも成りかねませんな」


 「むしろ、その危険こそを憂慮すべきでしょう」


 ああ、もう。

 本当に。

 面倒臭ぇなぁっ!


 「こういう時こそ、辺境伯家を()()()()()()()()かと、俺は思いますが」


 「……キング、言い方」


 クリスこと、クリスティン=リーのツッコミに、力は全然無かった。


 まぁ、ふたりの気持ちも解る。

 周囲は敵だらけと云っても過言ではない王家の、この勢力圏内で、俺たちの味方は辺境伯家だけなのだ。

 自身の身の安全を計るとなれば、この唯一の味方でもある辺境伯家の戦力を頼る他に術は無い。


 「……でもさ、正直な話」


 辺境伯夫人(エレオノールさま)だけが王都入りしたけど、当主たるローランド卿が参内、もしくは夫婦同伴するのが本来であれば筋、のはず。


 辺境伯家も何らかのキナ臭い事情を抱えている、やも知れないのだと変に勘ぐってしまう自分がいる、訳で……


 「ここで素直におんぶに抱っこ……なんてしたら、何か逆に危険な目に遭いそうな気も少しだけ」


 ──疑い。

 それを一度でも自覚してしまった時点で。

 身の回りの全ての事象を疑いたくなってしまうのは、これ一体何なんだろうね?


 「<継承者(サクセサー)>どののお気持ちも解りますが、一々それを言い出したら、もう絶対収拾が付きませんよ?」


 その自覚があるだけに、俺はなんにも言い返せないなぁ。


 「ですが、下手に外部から素性も知れぬ人間を集めるよりかは、遙かに()()かと」


 「まぁ、ねぇ……」


 少なくとも俺なんかより、辺境伯や夫人の方が人を見る目があるはずだ。

 なんせ、俺はずっと信じていた仲間たちに裏切られてきた、嫌な”実績”があるのだから。

 クリキンのふたりとの出会いなんか、”奇蹟の産物”じゃないかと、ずっと思ってるくらいだし。



 ◇◆◇



 「あ゛? わしらに護衛なんぞ要らんわ!」


 「へぇへぇ。知らぬ間に”お貴族さま”にされちまった憐れな()()()らに、どんだけの嫌がらせを重ねようってんだい、嬢ちゃん?」


 ──うひぃ。

 やさぐれ大地の人が、酒瓶片手に凄んで来るんですがっ!


 「要らん言われてもさ……わたしなんかよりふたりの方が遙かに強いのは知ってるよ? でもね、これはわたしたちだけじゃなく、領民の問題でもあるんだ。だから、その我が儘は聞けないし、聞きたくない」


 望む望まないに拘わらず、リート子爵を継承する形となったアウグスト夫妻は、今後生命を狙われる立場になったのは間違い無い。

 王家が認め、辺境伯領から”割譲”された”リート子爵領”は。

 ()()()()()()()の生死如何によっては、その地に住まう民たちの命運が大きく変わってしまう。


 少なくとも、子爵領の”利権”を狙う貴族派の連中どもは。

 人の生命なんか、屁とも思わない奴らであることは、とうの昔に証明されている訳で。


 それに。


 「子爵領(ウチ)の人口分布、少しは考えて。今や大地の人と人間種(ヒューマン)の割合は、ほぼ半々なんだよ?」


 「ぐっ……」


 一応、国王陛下が公式の場で、


 『人種の差別は無い。地位と安全を王の名において安堵する』


 そう宣言した訳だけど。


 その言葉すら、今はもう虚しいだけだ。

 そもそもの王宮内での安全を保証するはずの宮中護衛士インペリアル・ガーダーどもに、ウチの祖父母が殺された上で、そのことにはずっとだんまりを決め込まれているんだから。


 ()()()()()()()()()


 そう思って対処せねばならないとなれば。

 子爵領に無事に戻り、独自に実力(ちから)を付けていくしかないのだ。


 「そりゃ、結果的に”騙し討ち”の形になっちゃったのは、わたしからも謝るからさ」


 というか、結果的に”遺言状”となってしまった”じぃじ”(ヘンドリク)の念書の内容については。

 俺も何も知らされていなかった訳だから、半分とばっちりなんだけど。


 実際問題。


 護衛の数が足りない訳だけど。

 <次元倉庫(ストレージ)>要員として随行してきてもらった大地の人の16名は。

 この国の正騎士に近いレベルの”戦力”を有しているのは、ほぼ間違い無い。


 リート家お抱えの衛士の生き残りは5名。


 全部を計算に入れたとして、何とかギリギリ……といったところ、だろうか?


 「だから。わしらに護衛は要らんと、何度も言うとるじゃろがいっ!」


 「そりゃ、確かにウチのクリキンのふたりを除いたら、アウグストたちが我が領の”最高戦力”なのは間違い無いけどさぁ」


 何度も言うけど、あんたらはね、”護衛対象”なの。

 一番やられちゃ困る奴。

 言うなれば、あんたらふたりはチェスで云う”(キング)”と”王女(クイーン)”なんだよ。

 何となくチェスに例えちゃったけど、どちらかがやられた時点で即ゲームオーバーになるタイプの、似て非なるクソゲーって話。


 ……そういえば、何処かの誰かが言ってた気がする。


 『現実に勝るクソゲーは、この世に存在しない』


 なんて。

 今なら、心底そう思えるよ。


 ────実は、俺もさぁ。

 その”クソゲー”の8周目なんだわ、腹立つことに。




誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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