105.現実に勝るクソゲーは無い。
誤字報告いつもありがとうございます。
非常に助かっております。
「……早急に、我らは王都を発つべきでしょうな」
「だよね」
キングこと、王 泰雄の出した答えは極々当たり前の選択だった。
「ただ、道中の身の安全をどう計るかが、問題になりますね……」
「だねぇ」
我が領の大地の人どもが、寄って集って趣味と現状再現し得る”地球の技術”を突き詰めて作成した”特別仕様馬車”を疾走させたとして。
所詮、牽引車のカテゴリに属する物なのだから、素の騎馬相手に脚で勝てる訳も無い。
追手が掛けられた時点で、此方は何処かで迎撃せねばならない事態に陥るのだから、予め”戦力”を整えておく必要がある。
リート家お抱えの衛士の大半を失った今、”子爵家縁の人間を護る”その目的の人員には、かなりの不安が残る。
第二楽団員と、大地の人含む荷物搬送員だけでも60名は軽く超えるのだ。
【クリスタル・キング】のふたりの手だけでは全然足りない。
「かと言って、慌てて冒険者を雇っても……ねぇ?」
「自ら暗殺者を招き入れる愚を犯す結果、にも成りかねませんな」
「むしろ、その危険こそを憂慮すべきでしょう」
ああ、もう。
本当に。
面倒臭ぇなぁっ!
「こういう時こそ、辺境伯家を大いに利用すべきかと、俺は思いますが」
「……キング、言い方」
クリスこと、クリスティン=リーのツッコミに、力は全然無かった。
まぁ、ふたりの気持ちも解る。
周囲は敵だらけと云っても過言ではない王家の、この勢力圏内で、俺たちの味方は辺境伯家だけなのだ。
自身の身の安全を計るとなれば、この唯一の味方でもある辺境伯家の戦力を頼る他に術は無い。
「……でもさ、正直な話」
辺境伯夫人だけが王都入りしたけど、当主たるローランド卿が参内、もしくは夫婦同伴するのが本来であれば筋、のはず。
辺境伯家も何らかのキナ臭い事情を抱えている、やも知れないのだと変に勘ぐってしまう自分がいる、訳で……
「ここで素直におんぶに抱っこ……なんてしたら、何か逆に危険な目に遭いそうな気も少しだけ」
──疑い。
それを一度でも自覚してしまった時点で。
身の回りの全ての事象を疑いたくなってしまうのは、これ一体何なんだろうね?
「<継承者>どののお気持ちも解りますが、一々それを言い出したら、もう絶対収拾が付きませんよ?」
その自覚があるだけに、俺はなんにも言い返せないなぁ。
「ですが、下手に外部から素性も知れぬ人間を集めるよりかは、遙かにマシかと」
「まぁ、ねぇ……」
少なくとも俺なんかより、辺境伯や夫人の方が人を見る目があるはずだ。
なんせ、俺はずっと信じていた仲間たちに裏切られてきた、嫌な”実績”があるのだから。
クリキンのふたりとの出会いなんか、”奇蹟の産物”じゃないかと、ずっと思ってるくらいだし。
◇◆◇
「あ゛? わしらに護衛なんぞ要らんわ!」
「へぇへぇ。知らぬ間に”お貴族さま”にされちまった憐れなあたしらに、どんだけの嫌がらせを重ねようってんだい、嬢ちゃん?」
──うひぃ。
やさぐれ大地の人が、酒瓶片手に凄んで来るんですがっ!
「要らん言われてもさ……わたしなんかよりふたりの方が遙かに強いのは知ってるよ? でもね、これはわたしたちだけじゃなく、領民の問題でもあるんだ。だから、その我が儘は聞けないし、聞きたくない」
望む望まないに拘わらず、リート子爵を継承する形となったアウグスト夫妻は、今後生命を狙われる立場になったのは間違い無い。
王家が認め、辺境伯領から”割譲”された”リート子爵領”は。
リート子爵夫妻の生死如何によっては、その地に住まう民たちの命運が大きく変わってしまう。
少なくとも、子爵領の”利権”を狙う貴族派の連中どもは。
人の生命なんか、屁とも思わない奴らであることは、とうの昔に証明されている訳で。
それに。
「子爵領の人口分布、少しは考えて。今や大地の人と人間種の割合は、ほぼ半々なんだよ?」
「ぐっ……」
一応、国王陛下が公式の場で、
『人種の差別は無い。地位と安全を王の名において安堵する』
そう宣言した訳だけど。
その言葉すら、今はもう虚しいだけだ。
そもそもの王宮内での安全を保証するはずの宮中護衛士どもに、ウチの祖父母が殺された上で、そのことにはずっとだんまりを決め込まれているんだから。
奴は約束を守らない。
そう思って対処せねばならないとなれば。
子爵領に無事に戻り、独自に実力を付けていくしかないのだ。
「そりゃ、結果的に”騙し討ち”の形になっちゃったのは、わたしからも謝るからさ」
というか、結果的に”遺言状”となってしまった”じぃじ”の念書の内容については。
俺も何も知らされていなかった訳だから、半分とばっちりなんだけど。
実際問題。
護衛の数が足りない訳だけど。
<次元倉庫>要員として随行してきてもらった大地の人の16名は。
この国の正騎士に近いレベルの”戦力”を有しているのは、ほぼ間違い無い。
リート家お抱えの衛士の生き残りは5名。
全部を計算に入れたとして、何とかギリギリ……といったところ、だろうか?
「だから。わしらに護衛は要らんと、何度も言うとるじゃろがいっ!」
「そりゃ、確かにウチのクリキンのふたりを除いたら、アウグストたちが我が領の”最高戦力”なのは間違い無いけどさぁ」
何度も言うけど、あんたらはね、”護衛対象”なの。
一番やられちゃ困る奴。
言うなれば、あんたらふたりはチェスで云う”王”と”王女”なんだよ。
何となくチェスに例えちゃったけど、どちらかがやられた時点で即ゲームオーバーになるタイプの、似て非なるクソゲーって話。
……そういえば、何処かの誰かが言ってた気がする。
『現実に勝るクソゲーは、この世に存在しない』
なんて。
今なら、心底そう思えるよ。
────実は、俺もさぁ。
その”クソゲー”の8周目なんだわ、腹立つことに。
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