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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
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104.身の安全。




 リート子爵夫妻、王宮にて何者かに殺害さる!


 この訃報は、瞬く間にデルラント王国中の貴族社会に流れ、その反応は大きく3つに別れた。


 リート子爵家の行く末を案じ、残されし令嬢たちの心情を慮り心痛めた者。

 リート子爵家の”利権”を欲し、残されし令嬢たちの”保護”を名乗り出ようと考えた者。

 新興の子爵家の存在を疎んじ、その訃報に少なからずの喜色を持って歓迎した者。


 ……さて。

 その中で、我らリート子爵家に最初にコンタクトを取ってくる奴は、一体どんなお貴族さまなんだろうねぇ?


 何せ、自ら招聘した客分たるリート家の人間を、平然と見殺しにした王家だ。

 王宮内に棲む人間は、全部敵だと思って臨むべきだろう。


 ああも()()()()()にやらかしやがった宮中護衛士インペリアル・ガーダーどもの、誰ひとり罰せられていないのだから、そもそも何を信用すれば良いのかって話。


 幾ら正妃殿下(マハテルートさま)が、王家はこちらの味方なのだと仰られても。

 国王陛下(自分の旦那さん)を全然コントロールできていない時点で、何を云わんやってな。


 ……たぶん、リート子爵家を本当に護ってくれるこの国の貴族の家は。


 寄親たるレーンクヴィスト辺境伯家と、派閥の長たるクレマンス公爵家だけなんだと思う。


 でも。

 それだって、辺境伯夫人(エレオノールさま)のご意向があってのこと。

 彼女にそっぽを向かれた時点で、”ヴィクトーリア”と”ミーナ”(ヴィルヘルミナ)は、この国の何処にも身の置き場を失ってしまうだろう。


 いくら、この国で多大なる”功績”を積み重ねたとは云え。


 所詮、子爵令嬢(ヴィクトーリア)なんて者は。

 その程度の、軽い存在でしかなかったってことだな。


 ────なんだ。

 平民の時と、大差無いじゃないか。


 吹けば簡単に消し飛ぶ。

 少し強い風が吹けば、翻弄される。

 その程度。


 「だったら、もう貴族じゃなくても良いかなぁ……」


 なんて。

 簡単に辞められる地位(モノ)でも無いのだが。


 『──え? もし、そうなったら、フィリップさまは?』


 こころの扉の向こう側から、遠慮がちに小さな声が。


 子爵位を放り投げた時点で、彼との”婚約”も当然ご破算に決まってら。

 それが嫌だってンなら、お前さんは社交界(この世界)を、必死に生きていくしかねぇんだよ。


 てーか、まず()()()()さっさと出てきなさい。

 そうやってお前さんがヒキコモるモンだから、”俺”(ヨハネス)が今すんげー苦労してるんだってのに。


 ……とは云え。

 こいつの母親のミーナも同様に塞ぎ込んでいるんだから、やっぱり母娘って何処かしら似るんだなって。

 ただ単に、俺が何処かズレてるだけなのかも知らんが。


 だが、今後のことも考えて。

 最低限ミーナだけでも立ち直って貰わねば、対外的にも色々と不味い。


 そして、リート子爵家の持つ数々の”功績”と”利権”は、死守せねばならない。

 ふたりの老夫婦(ヘンドリクとユリアナ)は、そのせいで殺されたのだから。


 カスペル卿(クソやろう)主導の犯行だったとはいえ、その実行犯たる宮中護衛士を()()()()()のは、主に”貴族派”を形成する面々だ。

 発覚した際のリスクを度外視してでも欲しただろう、これら”利権”を易々と譲るつもりなんか、此方には無い。


 で、あるならば。

 戦うしか無いのだ、徹底的に。


 奴らに対し強く言えない弱腰の王家は、もう全然お話にもならない。

 しかし、辺境伯家ばかりに負担と迷惑を掛け続ける訳にもいかない。


 ならば、後は何処を頼るべきか?


 ────当然、教会だろう。


 教会勢力を敵に回して平然としていられる勢力は、この世界には何処にもいない。

 あの強大な帝国を統べる皇帝陛下ですら、創世神正教の枢機卿の言葉を無碍にはできないのだ。


 最悪、

 『リート子爵領の全ては()()()()()()()()()()

 そう宣言してしまおうかとも考えている。


 リート家の全てを手中に収める為には。

 子爵令嬢”ヴィクトーリア”と、辺境伯嫡子フィリップ卿との婚姻関係が完全に成立してからでは遅い。

 その時点で、フィリップ卿が”リート子爵位”を継承してしまうからだ。

 奴らは、確実にその前に動いてくるはずだ。


 具体的に云ってしまえば、ヴィクトーリア、もしくはフィリップ……どちらかの”排除”。


 「──そう考えたら、早く王都から逃げ出さないとなぁ」


 今回のリート子爵、夫人両名の殺害が行われた時点で。

 ここまであからさまな事を、奴らは平然とやってくるのだと証明されてしまった以上、頭痛と胃痛の種は尽きない。


 ここは一度、辺境伯夫人と相談すべき、かなぁ?



 ◇◆◇



 「……え、それはまことでしょうか?」


 「ええ。貴女のお祖父様、ヘンドリク卿が事前に認めていた念書に、そう記してあったの」


 『リート子爵家に連なる血族の身に異変在りし場合、リート家の家督及び領地管理の一切を大地の人(ドワーフ)族の長たるアウグストへ譲る』


 そういえば……王都に入る前に、


 『決して在っては成らぬことでございまするが。もし、もし万が一に、ミーナとヴィーが、”賊”どもの手に墜ちたのだと仮定いたしましょう。その際、我らが取るべき”対策”。それを、今やっておきたく存じまする』


 なんて。

 ヘンドリクおじさん、辺境伯夫人に進言してたっけ。


 まさか、自身の身の危険をも想定しての”策”だったとは、思ってもみなかったけど。


 「これと全く同じ文書を、王家にも彼は提出しているの。確実に”遺言状”として認められるわ」


 「つまりは……?」


 「貴女たち()()()()()()()()()は、これで担保されるはずね。少なくとも、”奴ら”の手からは」


 その代わり、アウグストとアーダの大地の人夫妻が、今後執拗に付け狙われることになる訳だけど。


 今回のリート子爵の”遺言”は。

 形式上、リート子爵位を領内に在る大地の人の族長、アウグストに委譲する訳だが。

 あくまでも、()()()()()()()()()だけで、リート子爵令嬢たる”ヴィクトーリア”の身分は変わらない。


 つまりは、ヴィクトーリア子爵令嬢と、フィリップ辺境伯子の婚約も変わらない。

 何とも都合の良い話だな。

 と、思わなくもない。


 ヘンドリクおじさん、ちゃんとふたりに相談して()()をやったのか、そこがちょっとだけ疑問だな。

 アウグストは渋々頷いてくれるだろうけど、アーダは絶対キレるに決まってる。

 あの人、お貴族さまが大嫌いだし……まさか、自身がまさに嫌ってる人種になり果てるだとか、想像できねぇだろ。


 ……後で、スペシャルなお酒(やつ)を持って行って、彼女のご機嫌をしっかり取っておかなきゃ、色々不味いんじゃないかと思う。

 絶対、ヴィクトーリアが酷い目に遭う奴だし、これ。


 それと、やっぱり【クリスタル・キング】のふたりにも相談しなきゃ。

 今俺が頼れるのは、あのふたりの”戦力”だけなのだから。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 こういう政を上手く回す話好き。  だけどあの祖父さん祖母さんだけの手管じゃなさそうな。  発案はふたりだろうけど「策」として道筋を整えたのはやはり辺境伯夫人?
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