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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
103/124

103.俺不在の、わたしの物語。




 Side:正妃殿下(マハテルート=フィア=シネルヴォ=ダリュー)


 「……で?」


 「はぁ。そ、そのぉ……」


 如何に無能者であっても。

 きっと何処かに”使い道”はある。


 そう思い、辛抱強く使い続けてきたつもり、なのだけれど。


 やはり、無能は最後まで無能だと云うことね。


 「──もう良いわ、貴方。本日をこの時を持って参内の許を取り消します。もう二度とその愚鈍なるお顔を、わたくしの前に向けないで頂戴。不快だわ」


 「……はっ。有り難う、ございました……」


 抗弁をしないだけ、()()()()()()()……だったか。

 そこに、少しだけの後悔を覚えながら。


 それでも、警戒していた筈のこの結末に憤りが。


 折角、リート家のご令嬢が、全ての情報を提供してくださったと云うのに。


 結局、”敵”に良い様にしてやられ。

 その証拠と実行犯の身柄を直接抑えていると云うのに、其奴等の処罰が一切出来ぬとは。


 ────何の為の王権だ。


 これでは、彼奴の首の上に在る(モノ)は、王冠(かざり)を載せるための台座でしかないではないかっ!


 此度の顛末を記した書を読み上げる声を興味なさげに聞き流し、呆とした顔で玉座に座す国王陛下(ディーデリック)の横顔を睨みつける。


 (この視線にすら気付かぬか。これでは、この国はもう長くない、のであろな……)


 リート子爵家と個別面談した時は、それなりの()()()()()()ができたと喜んだのだけれど。

 先代が偉大過ぎたのであろうか。

 ”無難”もできず、ただ”無関心”とは。

 為政者として、また配偶者として。


 これほど情けなく思ったことは無い。


 「殿中にて、これほどの”事件”が起こったと云うに、何の処罰もできぬと申すかっ! 貴様らも我が(ろく)()んでおろうがっ?!」


 「はっ。も、申し訳ございま……」


 殿中での刃傷沙汰、その一切を防ぐ為の宮中護衛士インペリアル・ガーダーであると云うのに。

 まさか、彼らが率先して王家の客分たる貴族を斬り付け殺害する、などと。

 絶対に在っては成らぬ事件を起こし、(あまつさ)え…… 


 『亡くなったのは、たかだか新興の子爵家の者ではありませぬか。”その様な事実は、最初から無かった。”それで、よろしいのでは?』


 此度の事件を”主導した”であろう、侯爵家の当主のひとりが粘ついた笑顔でそう嘯く。


 ()()()()()()()()()()()()()()()

 だけれど、居なかったはずの子爵が我が国に示した”功績”と”利権”は、そっくりそのまま貴族間で分配させよと。


 ────度し難いとは、このことを云うのであろうな。


 王家に嫁ぐ前に、この国の宰相たる我が祖父がこう言っていたが、


 『貴族なんて奴はね、いくら綺麗な言葉を並べ立て、そして豪華な衣装で着飾っているとはいえ、()()()()()()()()()()卑しき”盗人”に過ぎないのさ。だからね、ルーティ。君はそれを弁え、絶対に心まで貧しくなっちゃ駄目だよ?』


 本当に、貴族なんて心卑しき人間(クズ)どもは。

 度し難い────


 「もうよいっ! 宮中護衛士は、本日この場を持って解散。奴らの()()()は、卿らに一任する。当然、卿らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 「……はっ、はひっ」


 『証拠は揃っているのだぞ?』


 と言外に込め、貴族派のクズどもを一睨み。


 今は、耐える時だ。

 惰弱王(ディーデリック)のせいで、弱体化をしているけれど。


 簡単に、終わるつもりは、絶対に無い。


 ”次代の王”は、すでに在るのだ。

 その子に玉座と王冠を受け渡すまでは、絶対に。


 ……何があっても、絶対に。




 ◇◆◇




 Side:エレオノール=ディア=レーンクヴィスト



 「……そう。リート子爵と夫人の両人の亡骸には、凍結処理を。最高の術士を即けて差し上げなさい」


 陞爵のために、遠路はるばる王都の地に来て戴いたと云うのに。

 まさか、この様な事態になるだなんて。


 彼らの無念を慮ると、胸が締め付けられてしまう。


 だけれど。

 リート子爵夫妻も、この様な”事態”が遠からず来ることを、きっと何処かで覚悟していたのだろう。


 「こんな書が、本当に必要となる日が来る……だなんて。ああ。わたくし、あの()に、何と頭を下げれば良いのか……」


 少し困った様なはにかみを浮かべる”我が家の嫁(ヴィクトーリア孃)”の顔を、脳裏に思い浮かべる。

 彼女の屈託の無い笑顔は、未だ向けて戴けていないのだけれど。


 それでも、近い将来は────


 なんて。

 そう、何処か暢気に構えていたのに。


 「家族への情が、とても深い娘だったから……」


 あの娘が欲しい。

 そんな必死になって、色々と提案をしてみたのだけれど。


 『家族と離れ離れになってしまうのは、嫌です』


 その一心で、貴族の地位を蹴る。

 そんな芯を持っていた彼女の気を惹きたくて。


 その結果が。


 「きっとあの子の祖父母が殺された原因を作ったのは、わたくしのエゴ。なのでしょうね……」


 フィリップがとても乗り気だったのもあったし。

 後になって知ったお話なのだけれど、次男のミカルだって、実は彼女に一目惚れしていたのだそう。


 そして、長女リースベットに至っては、


 『お母さま。わたくし、早くあのお方を”お義姉さま”とお呼びしたいわっ!』


 ……だなんて。

 他人にあまり感心を抱かない娘のあの変わり様ったら。


 だから。

 急ぎ過ぎたが為の、この現実。


 「貴女には酷なお話でしょうけれど、もう止まれないの。赦して頂戴、ヴィー……」


 王宮での”婚約発表”は、国の名を背景にした、絶対に覆せない”決定事項”だ。


 ヴィクトーリア孃には申し訳無いけれど。

 貴女は、”貴族の柵み”から抜け出すことは、もう絶対にできないの。


 ────レーンクヴィスト辺境伯家が、この世から無くならない限りは。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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