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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
101/124

101.因果、応報。

誤字報告いつもありがとうございます。

非常に助かっております。



 「全然足りぬぞっ! 今すぐ代わりを持ってこぬかっ!!」


 あンにゃろ(カスペル卿)め。

 自分の思う通りに物事が進まなかったからと、周囲に当たり散らしていやがる。


 やれ、給士の顔が気に食わぬと絡み、最期は屋敷から出て行けと、空のワインボトルを投げ付けて。

 やれ、肴が不味かっただのと宣い、料理を床にぶちまけ家政婦(メイド)に犬食いしろと命令したり。


 奴に呼ばれた色街の高級娼婦どもも一緒になって、家来達を散々に足蹴にし、罵り、そして嘲笑する。


 一目見て、これほど不快感を覚える光景も、きっと早々無いだろう。


 ……ああ、良かった。

 ”わたし”が精神の奥底に引き篭もってくれて、ある意味本当に助かった。

 こんなの見せちまったら、”ヴィクトーリア”の情操教育に悪いったら。


 ……でも記憶は共有するから、結局その場凌ぎの話でしか無いのか。

 やっぱ、奴は死刑確定だ。


 『『『『<無音空間サイレンス・フィールド>展開完了』』』』


 これでどれだけ騒いでも周囲に音は漏れないし、部屋を結界で覆ってしまえば、もう奴は袋の鼠だ。

 絶対に、逃がしはしない。


 「酒の代わりはまだかと問うておるっ?! 糞っ、使えない塵どもがっ!」


 「そうそう。アタシ早く葡萄酒呑みたぁーい」


 ────ほお?

 なら、たっぷり呑ませてやろうじゃねぇか。


 「お、おおおおおお。お待たせいいいたしたしたしましたたたた……」


 ”俺魔法”<マリオネット>で、ひとりの給士さんの身体を強引に操る。

 やっぱり、意識を保ったままの人間の支配権を乗っ取るのは、かなり無理があった様だ。

 俺たちから伸びる魔力の糸を引き千切らんと、抵抗が凄まじい。


 ──ええい、面倒だっ。

 脳への血流を一時的に遮断し、給士の意識を刈り取る。

 最初からそうしとけ。

 なんて無粋なツッコミは、この際完全に無視するものとする。


 そこに取り出したるは、約140年前の西風王国(ゼピュロシア)産最高級ワイン(14年モノ)。

 今の貨幣価値に換算にすると、大体帝国金貨(ライヒスゴルト)350枚相当になるかな?

 これを常飲するには、例え王家であってもまず無理だろう。


 ああ、そうそう。

 このボトル一本で足りなければ、サービスで幾らでも出してやるよ、冥土の土産にな。


 「「「「ごばっ!!」」」」


 ……お前の子分であるタマーラお気に入りの、劇毒入りの奴をたっぷりとな。

 てーか、そのレシピの考案者(がんそ)は俺だ。


 「ごふっ、けふっ、けふっ……ごほっ」


 おっと、吐血。


 その反応だと、想定よりちょっとだけ量が多かったくさいな。

 頼むぜ、カスペル卿。

 お前さんは、毒薬なんかで簡単にくたばってもらっちゃ困るんだよ。

 それはお前さんの策略で被害を被りそうになった、正妃殿下(マハテルートさま)辺境伯夫人(エレオノールさま)の分でしかねぇんだからな。


 「解毒魔法(アンティ・ポイズン)


 解毒はしてやるが、毒による身体のダメージまでは知らん。

 お前には、お前が過去にやってきた数々の因果と。

 ヘンドリクおじさんと、ユリアナおばさんと同じ苦しみをしっかりと味わって貰わないとな。


 「お久しぶりでございます、カスペル卿。約10年ぶり、といったところでございましょうか?」


 「ごほっ、けふっ……っは。誰だっ?! 貴様の様なメス餓鬼なぞ、我は知らぬわっ!」


 おおっと、そうだった、そうだった。

 今の俺は”前世の俺(ヨハネス)”ではなく、”今世のわたし(ヴィクトーリア)”だったんだ。


 ……いかんなぁ。

 目の前に()()()()()()()と思っただけで、こうも神経が昂ぶるものなのか。

 復讐心なんぞ、すっかり忘れたつもりでいたんだが。


 今回のこの行いだって、あくまでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の意味合いの方が、遥かに強いはずだと思い込んでいたのに。


 どうやら俺の精神は、自身が思っていたよりもまだまだ青く、そして若かったらしい。


 「これは失礼。でしたら、わたくしめはヴィルヘルミナの娘……とでも言えば、御身の愚鈍なる()()()であっても、充分にご理解戴けましょうや?」


 「()()回復術士(ヒーラー)>のおんながどうしたと云うのだ! 我には関係ないわっ!!」


 「────へぇ。我が祖父と祖母に。そして我がリート家の家来どもを手に掛けておきながら、その様な戯れ言を信用しろと仰りますか? なるほど、なるほど……」


 そこで開き直るなら、まだ可愛げがあった。

 だが、それじゃ一発アウトだよ、カスペル卿よ。


 「やはり貴様は、度し難きクズよなっ!」


 ドレミ、ファ、ソラ、シドの音階四姉弟に。

 エル、アール、セントラルのスピーカー三兄妹。

 そして、サックス、マイクの仲間はずれ2人組。


 『『……解せぬ』』


 俺は【音の精霊】たちを展開する。


 「我が祖父と、祖母が死するその時まで味わった、痛み、苦しみ、そして恐怖。貴様にも同じ目に遭わせぬと、我が臓腑に燃え滾る憎しみの炎、決して消せぬわっ!!」


 <マリオネット>


 そこな高級娼婦どもに命令する。

 目の前の醜き肉の塊を、存分に斬り刻めっ!!


 「俺を殺した罪も合わせて、ここで精算なさるがよろしかろうよ。カスペル卿」


 「なっ?! この声は、()()()()()()()かっ? そんなはずはないっ! 奴は、我の配下の手で、(しか)とっ……」


 <歌手(シンガー)>の技能を極めていくと、好きな角度、方向から声を届けることが可能になる。

 正面から話し掛けたのに、後ろから声が聞こえてくる……とか、そんな芸当は朝飯前だ。


 更には”前世の俺”の声まで再現してやったのだ。

 きっと今奴が味わっている恐怖は、計り知れないものだろう。


 「我が祖父と、我が祖母……そして我が(前世)の仇。今こそ晴らさんっ!」


 そして貴様は、過去に”ミーナ”(ヴィルヘルミナ)の人生を狂わせ、そして今も泣かせやがった。

 万死に値する。


 「ぎっ?! 痛いっ! 何をする、たわけがっ! くっ、貴様らの雇い主は誰だっ!? 痛いっ、痛いっ!」


 あえてカスペル卿には行動の自由を与えてやっているというのに、俺たちの操る娼婦どもに、いい様に斬り刻まれていやがる。

 所詮、まともに身体を動かしたことのない贅肉の塊では、この程度のモンだよな。

 娼婦どもに手渡した得物は、前世の俺の主武装(メインウエポン)とも云うべき投擲用細短剣(スローイン・ダガー)だ。

 刃渡りも、殺傷力も高が知れている。

 当然、奴のぶ厚き脂肪の層なんぞ抜ける訳も無い。


 だが、それで良い。


 「ひいぃぃぃっ! 血ぃぃぃぃっ?! 我の尊き血ががががががが」


 けっ! 高血糖、高脂血症確定の不摂生の証なんぞの何処が尊いってんだ?


 すかさず【呪歌】<生命の賛歌>で、奴の傷を塞ぐ。

 傷を塞ぎながら、斬り刻む。


 血を流し、血を再生し。

 肉を削り、肉を盛る。


 奴の生命力が続く限り、延々と。


 「……ふひっ。ふひひひひひっ? 痛いっ! 痛くないっ? キモチイイ??」

 

 ……そろそろ、【呪歌】で回復でき得る体力の下限が近いか?


 仕方ない。


 「よろこべ、デブ。腹がはち切れるまで胃の中に食いモンを直接ブチ込んでやるよ」


 <マリオネット>で奴の胃を直接動かし、無理矢理に消化させる。

 吸収された栄養素は、即座に体力に変換。

 そのまま傷の治癒に消費され、消化吸収作業に費やされた生命力だけが枯渇していく。


 生命力で治癒力が補えなくなっていけば、血が足りなくなってくる。

 ヘンドリクおじさん、ユリアナおばさんの死因は長時間の失血による、多臓器不全だ。


 俺が下手に効率の悪い”俺魔法”で、無理矢理に血を補おうとしたが為、ふたりを長く苦しめてしまった皮肉。


 ────ふたりの老夫婦(じぃじとばぁば)を殺したのは、結局俺なのだ。


 その落とし前を付けねばならぬ以上、せめて此奴(カスペル卿)には、彼らの倍は苦しんで貰わねば俺の気が済まない。


 「そうそう。<女神の祈り>を返して貰うついでに、お前にこれの真の力を見せてやる」


 【アイテムボックス】から俺の刀を取りだし、奴の首を刎ねる。


 「ごっ?! ……あれ? 我、生きて……??」


 「面白いだろう? <女神の祈り(こいつ)>を使えば、死んでも即座に生き返るんだ」


 正確には、魂が完全に肉体から分離する前ならば、いくらでも蘇生ができるだけで、真の意味での”死者蘇生”ではないのだが。

 それでも。


 「ふんっ!」


 「うぎゃああああああああああっ!」


 縦半分に真っ二つにしようが。


 「はっ! ふっ! たぁっ!!」


 「や、やっ、やっっ、やめてえぇぇぇぇっ」


 17分割に斬り刻もうが。


 「……ああ。なんか、ちょっとだけ飽きてきたな」


 「ひっ、酷い……」


 いくらでも元に戻る。

 使用者の生命力(プラーナ)さえ、保つならば。


 (あの時、俺かミーナのどちらかの生命力が足りていれば……)


 見積もりが甘かったのだと言ってしまえば、きっとそれまでの話。

 だが、そんなつまらない結論で終わらせても、誰も救われないのだ。


 「んじゃ、カスペル卿。そろそろ引導を渡すわ。きっと地獄で<大空魔竜>が待ってるぜ」


 「赦してくれ。もう勘弁してくれ! 謝るから、助けてっ! 助けて、くださいっ! ヨハネスっ!!」


 回復目的で唄っていた<生命の賛歌>は、何時しか殺し目的の<暴食の哀歌>へと変化していた。


 ──生命の灯火が消え失せるその瞬間(とき)まで、てめぇは俺に泣いて赦しを請うだけの醜き豚のままでいろ。

 それが、てめぇにはお似合いの死に様だ──


 次の朝、王都に在るギルバート伯爵家の屋敷において。

 嫡子カスペル卿が、まるで木乃伊(ミイラ)の如く痩せ細った無残な姿で発見された。

 その遺骸の周りには、夥しい血の跡が残されていたというのに、彼の身体の何処にも外傷は無かったのだと云う……



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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