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7 魔法少女界の様式美

「大問題だ、バカ執事ーーーーーー!」



私が叫ぶと「ちっ」とまた舌打ちした執事が指を鳴らした。とたんに露出激しめレースクイーン風衣装が普通の魔法少女っぽい衣装に変わる。つまり、フリルとリボンがあしらわれたロリータ風ファッションだ。Aラインワンピースを超ミニ丈にし、ニーハイブーツ、腕には手袋とキラキラしたステッキ。

そうそう、これこれ。魔法少女といえばこういった衣装だろう。できるなら最初からこの衣装にすればいいのだ。

私が満足していると、


「ガサツなお嬢様と可愛らしい魔法少女の衣装………猿に鳥帽子。全く似合いませんね」


隣の執事が悪態づいた。今にも地面にツバを吐き捨てそうだ。この男が仮に執事でなければ、きっとそうしていただろう。


「・・・・・・・・・」


知っていたけど。前々から気づいていたけど。主人である私への敬意の欠片もない態度然り。変態な衣装を製作し、しかも着せてしまう図太さ然り。この執事は何から何まで問題だらけだ。

いくら見た目が最推し姿だろうと、私にも我慢の限界がある。そろそろどちらが上なのか、立場をシッカリと理解させる必要がある。



「レイン。アナタ、わたくしを一体何だと思ってるの?アナタのわたくしに対する横柄な態度。いくら何でも目に余るわ。今すぐ態度を改めないのならクビにするわよ」


「お言葉ですが、お嬢様。私が今までどれだけお嬢様の尻拭いをしてきたと思ってるんですか?お嬢様が考えも無しにバカな(主に萌え関連の)発言をする度に私がフォローしてきたからこそ周りからは完璧なレディーだと思われているんです」


「くっ………例えそうだとしても!主人の奇行を訂正フォローし、どこに出しても恥ずかしくない完璧なレディーにするのが専属執事であるアナタの役割でしょ。仕事の範囲よ」


「いいえ、お嬢様。お嬢様の奇行は仕事の範囲を逸脱しています。先程、私をクビにすると仰いましたが、私がクビになって本当に困るのはお嬢様の方ですよ?私以外にジャジャ馬お嬢様の面倒を見れる執事がいるとお思いで?」


「な、何よ!わ、わたくしが知らないと思ってるの!?アナタが………」



と、私とレインの口喧嘩が段々とヒートアップしてきたところで、




――――ギィィィィィィィィィィ!!!



ガラスを引っ掻いたような耳障りな不協和音が辺りに響き渡った。ばっと音の方を見ると、フィリアを乗せたまま暴れ狂っていた木に顔のような模様ができ、この世の物とは思えないおぞましい叫び声をあげている。

元はただの木だったがバグウィルスが侵入した結果、人面樹のバケモノに変化してしまったのだろう。

私は気色の悪い人面樹を見ながら思う。


(………これ、まだ放っていても大丈夫なヤツね)


よく考えてみなくても、今まで「1分以上は尺を取っている長い変身シーン」に加えて、「魔法少女の服装に関するくだらないやり取りの時間」までも待っていてくれたんだ。今まさに行われている私とレインの言い争いも大人しく待っていてくれるだろう。

魔法少女側のイベントが終わるまで敵役は黙って待機。それが魔法少女界における様式美というヤツだ。


チラッと見えたフィリアも頑張って木にしがみついていた。ヒロイン役の幸運スキルを舐めちゃいけない。何があってもギリギリで助かる存在、それがヒロインである。私の助けが少し遅れたところで問題ない。フィリアは私にとって萌えの源となる大切なヒロインではあるが、それはそれ。これはこれ。


今は萌えよりも何よりも私の目の前にいる表情筋が死滅した男についてである。顔色一つ変わらずまさに鉄仮面といった風だが、私が何年一緒にいたと思っているんだ。冷淡に見える瞳の奥に少しの苛立ちと、男には似つかわしくない好戦的な炎が混ざっていることを私は見逃さない。レインの心情は「絶対にお嬢様を言い負かしてやる」といったところだろう。だが、今回ばかりは勝つのは私だ。私には切札がある。今まで大切に隠していた切札。使うなら今だろう。


私はレインをビシッと指差した。今から行われるのはただの口喧嘩でも、白熱した熾烈を極める言い争いでもない。そんな対等なものでは決してなく、私が一方的に言葉の拳で殴りつけるだけのゲーム。今日こそは生意気な執事をフルボッコにしてやるんだ。

私は一度大きく深呼吸して、努めて冷静な声を出した。


「レイン、アナタの部屋のクローゼット。右側一番奥に置かれている青いボックス」


私の言葉にレインの眉が確かにピクリと動いた。


「ま、まさか、お嬢様………」

「そのまさかよ、レイン」

「そんな、あり得ません」

「この世にあり得ないことなどあり得ない。アナタが言った言葉よ」

「でもあそこには鍵を」

「ナンバー式の鍵はね、時間と忍耐さえ有れば解除できるのよ」


私の脳内に勝利確定の処刑用BGMが流れる。(注 処刑用BGMとは、アニメ界において敵を圧倒的な力でボコボコにする時に流れる曲。アニメによっては敵がほぼ確実に死亡する恐ろしい曲なのだ!)


さぁ、始めましょうか。

生意気な執事へのお仕置きを。



「箱の中身は2つ。1つは巨乳物のエロ本。ああ、いいの。別にエロ本が定期的に入れ替わっていることも、高確率でレースクイーン系のマニアなエロ本が混ざっていることも別にわたくしは気にしてないから。人の性癖をとやかくいう気はないわ」


そう、誰にだって性癖はある。ちょっと偏った趣味だなぁとは思うけど、それについて批判する気はない。むしろ定期的に入れ替わるエロ本には私もコッソリお世話になりました。レイン、ありがとう。


そう、それよりも私が気になったのはもう1つの物である。エロ本は定期的に入れ替わるのに(中には数ヶ月以上変わらないお気に入りエロ本もあったけど)、もう1つの物だけはずっと入れ替わる事なく何年も箱に入ったままだ。それだけレインにとって大事な物なのだろう。


「そしてもう1つ、古い本が入っていたのだけど。その本の中にはね………押し花が入ってたの」


私がそこまで言うと、明らかにレインの顔色が変わった。というか、頬に朱色が混ざった。見る見るうちに顔が真っ赤に染まり、首まで赤くなっている。その赤い顔を隠すように片腕を上げたレインだけど、全く隠せていない。信じられない。さっきのエロ本話ではここまで反応しなかったのに。


(やっぱり、そうよ。思った通りだわ)


私は勝利を確信し、自分で自分に酔いしれる。

そう、この男が大切にしていたのは、この押し花だ。では、なぜこのなんの変哲もないただの押し花が大切なのか。そしてただの押し花の存在を私に知られ、ここまで赤面しているのか。それはひとえに………、


「ふふふ。レイン、あなたに可愛い花を愛でる少女のような気持ちがあったなんて。でも恥ずかしがらなくていいのよ。美しい花を愛でるのは女性だけではなく男性も………」

「お嬢様はバカですかっ!?」


私の額にお馴染みのツッコミデコピンが入った。


「痛ぁぁぁぁああい!!」


赤くなった額を抑え座り込んだ私に、はぁぁぁあぁぁぁーーーっと長い長い息を吐いたレインが恨みがましい目を向ける。


「いえ、先程の質問には答えなくて結構。お嬢様はバカでいらっしゃいますものね。ええ、存じ上げております。お嬢様が鈍い上に記憶力もミミズ以下の大バカ者だってことはね」

「ちょっと意味わからないだけど。どういう意味よ?」

「お嬢様ですよ」

「へ?」

「その押し花………正確に言えば押し花の元になった花を私に渡したのは子供の頃のアナタですよ、お嬢様」


ますます意味がわからない。なぜ私が子供の頃に渡した花をレインが押し花にして大切にとっているの?だいたい私がレインに花を渡したことが………あ、そういえばまだレインと出会ったばかりの頃に泣いているレインを慰めようとして摘んだ花を渡したことがあったような………え?でも、そんなまさか、あり得ないわ。だってレインはいつも私のことを小馬鹿にしていて。で、でも、もし、私のこのあり得ない予想があり得たとしたら、それってレインも私のことを?


レインがいつになく真摯な瞳で私を見据える。そこにはいつもの人を食ったような雰囲気は一切なく。



「好きだと言っているんです、お嬢様」




――――ギィィィィィィィィィィ!!!


そこで再び耳をつんざくような叫び声が聞こえた。放置プレイされていた人面樹がついに痺れを切らしたようだ。太い木の根が地面から出て禍々しい蜘蛛の足のように蠢いており、しかも猛スピードでこちらに向かってやってきている。というか、もう目前まで迫っている。が………、




「「うるさいっ!!」」




私とレインが2人同時にパンチしたらドゴホォッーーーとスゴイ勢いで飛んでいった。

なるほど。これが魔法少女のワンパン力か。と感心している場合じゃない。人面樹が吹き飛んだ勢いでフィリアが子猫と一緒に空中に投げ出されてしまった。放物線を描くように宙に舞うフィリア。


「お嬢様!」

「わかってる!」


地面を蹴って高くジャンプし、空中で子猫を抱えたフィリアをキャッチ。フィリアをお姫様抱っこしたまま地面に両足でドンっ!と着地した。


(ふー、良かった。フィリアと子猫は無事だったわ)


ほっと胸を撫で下ろした私だけど、なぜかレインがこちらに向かって身振り手振りで何かを伝えようとしている。両手を懸命に動かし何かのジェスチャーをしているようだが、何が言いたいのか全くわからない。ジェスチャーでは伝わらないと気づいたレインが今度は口パクで何かを訴えている。


(うん?あの口の動きは………イ・ベ・ン・ト?)


はっ、そうだ。これは出会いのイベントだった。何度も前世のゲームで見たイベントなので覚えている。木から落ちたフィリアをキャッチした後にアレク殿下がこう言うのだ。

私は頭の中に浮かんだセリフを一語一句違えずに口に出した。



「君は………随分と変わった令嬢だね」



この言葉の後に、フィリアが照れながらお礼を言うのだ。



「あ、ありがとうございます」



そうそう、そんな感じ………って、ん?

あ、あれ?確かここってアレクとフィリアの出会いのシーンだったはずなのに………あれ?

敵とは異なる冷たい殺気を感じ顔をあげると表情筋の死んだ執事と目が合った。その目は「大事な出会いイベントを潰すなんて、お嬢様の頭はニワトリですか?」と物語っている。






こうして見事にアレクとフィリアの出会いイベントをぶち壊した私だけど。その後レインの提案で「私の友人としてフィリアをアレクに紹介する」というドキプリにはなかった新しいイベントを発生させ、どうにか2人を出会わせることに成功した。こんな出会いで大丈夫かと心配したが、さすがメインヒーローとヒロイン。相性バツグンだったようで順調に愛を育んでいるようだ。


で、私たちはというと………、




「お嬢様、戦いの時間でございます」

「ちょっとレイン!何でコスチュームが変わってんのよ!」

「そろそろ以前の衣装は飽きる頃かと思いまして。工夫を凝らしてみたところです」

「これレースクイーンのハイレグバージョンでしょうが!どこに魔法少女の要素があるのよ!」

「お嬢様、日本にはキューティーなハニーというセクシー系魔法少女が存在しまして………」

「絶対にアナタの趣味でしょうが、エロ執事ーーー!!」



ちょっぴりだけ毒舌が減り、本能丸出しになってきた変態執事となんだかんだ言い合いしながら魔法少女やってます。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました(*^^*)


書いている途中で「やっべ、これ恋愛要素が皆無だわ…そして恋愛要素が薄い作品は需要が無いわ…」と気づいたので、無理やり恋愛要素をねじ込み打ち切り漫画のように強制終了。

本当はラストは全校生徒に魔法の応援グッズ持たせて「頑張れー、ぷり◯ゅあー!!」みたいに言わせたかったのですが(笑)

でも、書きたいシーンはけっこう書けたので個人的に満足。楽しかったー(*^^*)

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