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第八話 初衝突 その②


 ミッドイーナ辺境伯領と都督府直領の境目。そこには陸上自衛隊現地人部隊が集結していた。現地人部隊とは、高い報酬と厚い福利厚生に惹かれ自衛隊式の厳しい教育を受けたウォルク人と彼らを指揮する日本人で構成された混成部隊のことである。ウォルク地方全域を支配するのに膨大な地上戦力が求められていたが、様々な事情から日本本土を長期間がら空きにする余力がなかったため苦肉の策として現地人を戦力として利用したのがきっかけだ。

 イラクやシリアでやらかしたアメリカの二の舞いになるのではという懸念が一部では出たものの、統一戦に貢献しており、今現在では練度に関しては陸上自衛隊日本人部隊と引けを取らない、当初は兵だけしかいなかったウォルク人が努力を重ねて最大で尉官まで出世するまでに成長している。

部隊の構成は第1現地人師団“イビナ兵団”、第2現地人師団“イッシ兵団”、第466現地人機甲旅団“ウェルナ”で計四万だ。

 一〇月一六日の正午。第1現地人師団――別名の通りイビナ教信者のウォルク人将兵と日本人将官で構成されている機械化歩兵部隊。その司令部にある伝達が届けられた。


「師団長、総軍司令部からの伝達です」

「ほう……第17旅団の連中は一揆勢の背後を突くことに成功したようだな。よし!! 待機は終わりだ!! 次の段階だ。各部隊に伝達――ただちに辺境伯領に侵入せよ」

「了解」


 この日の一二時三二分。第1現地人師団隷下の各部隊が一斉に動き始め境目を越えてミッドイーナ辺境伯領内で作戦行動を開始した。

 対する一揆勢は境目に大した戦力を残しておらず、早馬で情報を伝え後退するしかなかった。ロシア製の歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車を完全装備している第1現地人師団の進軍はとても素早く一揆勢に対応する間を与えることはない。

 それに少し遅れて第2現地人師団、第446現地人機甲旅団も同様な行動を取り始める。目的は第17旅団と連携して一揆勢3万を包囲殲滅するために……。



 第17旅団に続いて一揆勢に衝突したのは、第2現地人師団所属の第62普通科連隊であった。この部隊は第2現地人師団に所属する他の普通科連隊とは違って空中機動を特化した連隊であった。

 転移後、莫大な予算が投入したことで一度に一個普通科連隊を輸送ヘリコプターで輸送するまでに空中機動力を強化させ異世界の地である大陸を席巻した歴戦の自衛隊部隊の一つである空中機動旅団――第12旅団をモデルとして編成されている。本隊の先陣として敵の勢力圏に殴り込む切り込み隊としての役割を担っており、編成されたときから今に至るまで数多くの戦績を挙げ、評価が高かった。

 第62普通科連隊が布陣したのは、ミッドイーナから北から約三.六キロ離れた場所にある高地――現地住民からはラルバ高地と呼ばれているところだ。中央部分が他のところよりも低いために全体を見ると凹んでいるかのように見える。


「凹み高地だな、ここは……」

「何変なことを言っているのだ。リーフ一尉」

「この高地についての感想ですよ」

「成程、確かにそうだな」


 数少ない尉官の一人でウォルク人自衛官のなかで最高位の一尉まで上り詰め、もしかすると今回の実戦で功績を挙げれば彼によって佐官の門が開くのではないかと噂されているリーフ・ランスフィート一等陸尉の言葉に、第62普通科連隊連隊長の酒匂一等陸佐は納得する。

 何ら抵抗もなく無血でこの場を占領した第62普通科連隊は右側に第1普通科中隊を左側に第2、第3普通科中隊を、高地上面から見て真ん中の部分に各普通科中隊を支援できるように重迫撃砲小隊を有する本部管理部隊が、高地の周りから見て見えにくい箇所に連隊本部が配備されている。


「では、私は中隊に戻ります」

「ああ……報告ご苦労。上手く守ってくれよ」

「はい。必ず守りきります」


 この高地のもう一つの特徴として、上から見ると左側の縦幅が広くそれによって他のところと比べて前に出ていると言うことだ。しかもそこは街道と接している。リーフ一尉が率いる第3普通科中隊は他の部隊のなかで一番前に配備されている。それは最も攻撃を受ける可能性が高く損害を受ける危険性をはらんでいることを意味していた。

 まあ、むしろ上等とリーフ一尉は思っている。彼が率いる普通科中隊は第62普通科連隊のなかで最も練度が高い精鋭なのだから。しかしそうは言っても最近この騒ぎが起きるまでは大規模な戦闘が起きていないのでその練度の高さは演習を数多くこなしたもので実戦経験の豊富さに直結していないのが懸念材料であったが、連隊長から指名された以上はやるしかない。

 

「陸曹、兵士たちの様子はどうだ? 初陣に緊張していないか?」

「動じている様子はありません。黙々と戦闘の準備を行っています」

「本当か? 状況次第では同じ信徒と戦うことになるかもしれないんだ、表向きは何ともないように見えて内心では葛藤が渦巻いているかもしれないぞ」

「……そんなこと関係ありませんよ。確かに一揆勢のなかには我々と同じ信者がいます。ですがそれだけです。我々は自衛官、奴らは敵です。敵ならばぶっ潰すだけです」

「そうか……」


 リーフ一尉の疑問に、問いかけられた彼の部下の小隊陸曹はきっぱりと断言する。実戦経験が豊富で仕事ぶりは優秀で熱心なイッシ教信者である彼の言葉に納得するだけの根拠があった。

 幸いなことに、最前線に赴いて敵を戦う陸曹、陸士たちの士気と戦意は高かった。同じ信者である一揆勢と戦うことに動揺と躊躇いを覚えているのではないかと不安であったが、準備を行っている彼らの顔を見るとこの懸念は杞憂であるのが分かる。

 小隊陸曹の言葉が本当ならば上からの命令は従うという自衛官の鉄則を見事に果たしていることになる。しかし臆病なリーフ一尉は疑問をぬぐい取るができなかった。割り切っているのだろうか? そんな疑問が脳裏に過ってしまう。

 リーフ一尉はため息をつく。いつの間に臆病になってしまったのだろうと自嘲する。

 すると――――。


「街道上に敵が現れました!!」

「おいでなすったな。迎え撃つぞ。総員、配置に着け」


 北部にいきなり現れた敵に仰天した一揆勢は総勢五〇〇〇の兵力をラルバ高地に差し向けた。三時間を掛けてたどり着いたその部隊はただちに攻撃を仕掛けた。攻撃が集中したのは予想通り第3普通科中隊だ。

 第3普通科中隊が作り上げた陣地の前に一揆勢が殺到する。彼らは信教の熱狂にかられ奇声を挙げて一人一殺の意志を秘めて突撃してくる。


「銃剣を付けて突っ込んでくるか……」


 一揆勢の姿に、リーフ一尉は攻撃の指示を下すのに少しばかり躊躇してしまう。自分たちが慌てて整えた備えの前には一揆勢は赤子の手をひねるような存在であり気の毒に思えたからだ。だが同情だけだ。敵である以上は容赦するつもりはない。

 リーフ一尉は手を振り下げて叫ぶ。


「撃て!!」


 AK-74J、クルス-14が火を噴き始め、日本本土の町工場製で帝国陸軍が使用していた八九式重擲弾筒に似た形状した軽迫撃砲(グレネードランチャー)が炸裂する。銃器の火箭、小隊の前面火力を強化するべく現地人師団を中心に進められている擲弾筒の前に、一揆勢は何もできずにバタバタと倒されていった。

 さながら、害虫駆除の如しであった。兵器、戦術、練度などで圧倒的な差のあるなかで行われる戦闘ではありふれたものだ。統一戦の大半もこんな光景が広がっていた。


(後味の悪い戦いだ……悪く思うなよ)


 一揆勢が倒されていく光景を、目を背けずに見つめているリーフ一尉は内心でそんなことを呟いた。



 連敗したことはすぐに一揆勢の本陣に伝えられた。その内容は一揆勢の指揮者たちをハムやベーコンされる寸前に狼狽している七面鳥にさせた。


「なに、ラソイ交差点に続いてラルバ高地でも負けただと!!」

「はい。兵力の半数を失い、生き残りの三分の二は投降するか逃亡したようです」

「何てことだ。こう負け続けでは動揺が広がってしまう……」

「残念ですが既に動揺が出ています。私がここに訪れる前に質問攻めに遭いました」

「不味いぞ……」

「大変です!! 敵の一部が尋常ではない速度でこちらに向かっています!! その噂が急速に広がり離散が始まりました。このままだと戦わずに崩壊してしまいます」

「いかがなさいます? 早く指示を下さなければ……」

「分かっている。こうなった以上はいっそのこと……」

「いっそのこと?」

「逃げる」

「えっ!?」

「統制の取れる集団だけでも撤退する。できれば包囲が完成する前に、できてしまえば突破して拠点に戻ることにしよう」


 ラソイ交差点、ラルバ高地での敗北。第1現地人師団の急進により一揆勢は半分が離散し残りは拠点である村々に撤退したことでミッドイーナの包囲はあっけなく崩壊することになった。



 第1現地偵察隊所属のBRDM-2偵察戦闘車一台のPKT機関銃が銃口からを噴く。前の世界では最年長の採用年数を誇る7.62x54mmR弾による火箭が逃走を図ろうとする一揆勢一人に絡みつき頭部を粉砕した。


「掃討完了……」


 外に顔を出した車長がBRDM-2の周囲にある数名の遺体を眺めながら感情を排した声で呟く。それらは一揆勢によるものだ。攻撃を仕掛けてきたが全く勝ち目がないのが目に見えて分かると逃走を図ると、即座に追撃を加えると簡単(……)に全滅に追い込めてしまった。

 嬲りものとしたと誰かから責められた気がして車長は気分が悪くなってしまった。


 三〇分後。このBRDM-2偵察戦闘車は現地偵察隊本隊と合流していた。降りた車長は任務中経験したことを偵察隊長に包み隠さず報告していた。


「報告は以上です」

「やはり一揆勢は崩壊し始めているようだな。分かった。下がっていいぞ」


 車長を下げると、偵察隊長に報告が届けられた。


「それ関しての報告がたった今入っています。OH-1がミッドイーナを包囲していた一揆勢が影も形もなくなってしまったのを確認したようです」

「撤退したのか、それとも離散したのか?」

「今のところは判断がつきません。それと師団司令部から新たな指示が届けられました」

「ふむ、一揆勢が崩壊したことを踏まえてか」


 指令書を眺めると、一分以上も見つめていた。しびれを切らした副隊長は問いかけた。


「どんな内容だったのですか?」

「ああ……領主勢を門から出すなとお達しだ」

「えぇ。どういう意味ですか?」

「よく分からないが、上層部は領主勢も一揆勢と並んで“敵”と認定しているようだ。と言う訳で、我々第1現地偵察隊はミッドイーナに一番乗りを果たして領主勢を通せんぼするぞ」


 指示を受けて第1現地偵察隊は進撃を再開した。

 それらから数時間後、一〇月一五日の夕刻。ミッドイーナは自衛隊による三度目の包囲を迎えることになった。


 ご意見・ご感想をお待ちしております。

 バイトが忙しいので、投降間隔が2~3日位になるかもしれません。ご了承下さい。

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