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第九話 進行


「取りあえず、連勝おめでとうと言うべきですかね?」


 一〇月一六日の午前九時。初月都督は大陸派遣総軍司令官:北上篤(きたがみ・あつし)陸将を呼び寄せていた。戦況を聞くためであった。微笑を浮かべてとりとめのない社交辞令を述べる初月都督に対し、北上総軍司令官はにこりともせずに淡々と返す。


「ありがとうございます。ですが、戦端を開いただけで戦争自体は終わっていません。戦争は始めるのは容易いですが終わらせることは困難なものです」


 相変わらずの面白みのない奴と内心で初月都督は呟く。


「それは分かっています。ここからが正念場です。些細な選択でも間違えれば泥沼になりかねません」

「はい。閣下の言う通りです。我ら大陸派遣総軍司令部は早期の決着を目的としております。朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争の泥沼はできる限り避けたい」


 その言葉には、今まで都督と並びウォルク地方の統治と一時期は崩壊寸前であった大陸派遣総軍の軍紀の維持に苦労してきた自衛隊の本音が窺えた。どこも誰も領主の失態によって生じたバカ騒ぎによってせっかくの苦労が水泡と化すのは嫌であるが、尻ぬぐいもウンザリなのだ。


「現地にいる部隊の様子はどうですが?」

「はい。現地住民と捕虜に馴れ馴れしくすること、毒舌を吐くこと、虐待すること、舐められることを厳禁する通達を守り課せられた任務を粛々と実行しております。第1現地人師団はミッドイーナの包囲、第2現地人師団と第446現地人機甲旅団と第17旅団は一揆勢の勢力圏の侵攻を行っています。これらの部隊は順調に作戦を進めています。それと……突撃団はいつでも出撃することが可能となっています」


 北上総軍司令官の報告に、初月都督は満足そうに頷く。

 大陸派遣総軍司令部直属の特殊部隊であり主にウォルク地方で様々な任務に就いていた特殊作戦突撃団はこの騒乱により久しぶりに大規模な特殊作戦を実行する予定だ。まあそれを行う上である前提をクリアする必要があるが。


「ふむ。内通者との連絡はどうなっていますか?」

「只今実行しています。工作員をミッドイーナ城内に潜入させています」

「大丈夫なのですか? 潜入先は孤立して半ば閉ざされている場所です。いくら同じウォルク人でも知らない顔がいると怪しまれて正体が露呈するのでは?」

「問題ありません。任務に就いている工作員は潜入任務のプロです。今まで数多くの潜入任務を成功させてきました」

「……ならば朗報は待つことにしましょう。西部最大の都市であるミッドイーナをなるべく無傷で手に入れたいですからね」


 そう言って初月都督は小高い鼻から息を大げさに吐いた。



 ミッドイーナから北西一二キロ離れたところに山がある。モノノ山と呼ばれるこの山は今、離散や撤退した一揆勢の大勢が逃げ込んでいた。

 その一人であるジョン・アルマは息を荒々しく吐きながら地面をベッドのように寝ころんだ。


「はあ、はあ、はあ……散々だ」


 故郷に戻る途中で彼は仲間と共に水を飲むために小川に立ち寄った。水筒にはもう水はなく喉の渇きに耐えかねたのだ。今思えば間違えだった。水辺にいると考えていたのか敵である二ホンの待ち伏せにあってしまった。結果は、抵抗したために反撃を受け彼以外は死んでしまった。

 あのときの敵は容赦がなかった。それを思い出すとジョンは歯の根が震えるのを止めることができなかった。これが二ホンのジエイタイなのかと思わずにはいられない。


「誰だ!?」


 近くの茂みから音が聞こえてきた。

 ジョンは警戒心をむき出しにして銃を構える。


「撃つな!!」


 茂みからそのような声が来ると一人の男性が飛び出した。


「銃を下げてくれ。同じ戦友だろ。なっ」


 間抜けな声を漏らすのだから警戒心が萎えてしまう。

 呆れかえった表情を浮かべてジョンは銃を下げる。


「聞き分けのいい奴で良かったぜ。前に合流しようとした連中には撃たれたからな」

「良く生きて、無傷でいたな」

「生まれてから悪運はとてもいい方だったからな。俺はロンだ。見ての通りコグト教信者さ。お前の名前は、イッシ教信者」

「……ジョンだ。水辺で敵の待ち伏せを受けて所属していた隊とはぐれてしまった」

「俺も似たようなもんだ。ドラゴンと鉄の鳥の攻撃で俺以外の仲間は殺されてしまった。無我夢中に逃げて気づいたらここにいた」


 似たような境遇であった。昨日までは飛ぶ鳥を落とす勢いであった一揆勢はほんの短期間でこのような有り様のなったのだから情けなさ過ぎて泣きたくなる。


「逃げたはいいが、どうするかな?」

「籠り続けるしかないだろう……今出たら捕捉されてやられるぞ」


 ジョンがそう言うと爆音が聞こえてきた。

 二人が空を見上げると、複数の鉄の鳥が飛翔していた。次々と高度を下げ始めると何かを投下。それが落下したところから火が生まれた。瞬く間に火が強くなり大規模な山火事となっていく。


「おー豪勢だね。山を俺らごと丸焼きにするなんてなぁ。全く容赦ねぇ」

「感心していないで逃げるぞ」

「分かってる。燻製や黒焦げにはなりたくねぇからな。とは言っても俺たちが逃げるってことは……」


 ロンの予感はしばらくして現実なものとなった。行き先にはジエイタイが待ち構えていたのだ。腹立つ位に堂々と。


「敵も分かっているから逃げた先で待ち伏せるだろうと考えていたが、ここまでハッキリとして見せつけられてしまうと笑うしかねぇや」

「笑っている場合じゃないだろ!! どうするんだよ、この様子じゃあ逃げられないぞ。無理に逃げたら」


 無理にでも突破しようとした一〇人以上の集団がジエイタイの歩兵や奔る鉄の塊から数百発の銃弾が撃ち込まれて体じゅうがまるで蜂の巣のような姿となった。


「ああなる」

「どうする。後ろから火が迫ってきているんだ。追いつかれるぞ」

「ひとまず様子を見るか」


 なんて呑気なという視線をジョンはロンに送る。


「連中がその気なら俺たちが気づく前に攻撃を仕掛けた筈だ。水辺で待ち伏せしたり火攻めを行ったり色々と容赦がない連中が何で発見してもすぐに攻撃せずこちらから攻撃を加えない限り攻撃をしないのか気になる」


 すると、ジエイタイがいる方角から声が聞こえてきた。遠くからでも聞こえている大きな声であった。


『一揆勢の諸君、武装を降伏せよ。そうすれば諸君の生命と身分を保証する。しからずんば容赦なく攻撃を加える』


 二人は互いに顔を見合わせる。


「だってよ。どうする?」

「どうするって、死にたくないのなら選択は一つしかないじゃないか。もう戦うのは疲れた。ゆっくりと休みたいし眠りたい……」


 ジョンは一揆に参加したのは極端な搾取による食料不足で腹を空かせており参加すれば飢え死は避けられると聞いたからだ。また村が一揆に参加するからお前も参加しろという同調圧力もあった。

 代官所を襲撃し倉庫にため込まれていた食料を奪還することで飢え死に避けられた。しかし一揆自体は失敗に終わりそうだ。自分たちはどうなるかは分からないが、銃弾の嵐が吹き荒れる戦場にもう赴く必要がなくなり故郷であるアルマ村に戻れるならばもうこれでもいいと考えるまでにジョンは疲れ果てていた。


「永眠させられるかもしれないぞ。けど前者は同意だ。俺も考えるのに疲れた、お前は降伏したいんだな?」


 ロンに脅されながらもジョンは力強く頷く。


「分かったぜ」


 そう言い終えるとロンは思いっきり前に飛び出しジエイタイの前で降伏するぞと叫ぶ。

 彼に続いてジョンも前に出た。

 ジエイタイの一人が銃を構えながら警告する。


「武器を捨てて手を挙げろ!! 少しでも変な動きを加えたら撃つぞ!!」

「そう構えるなよ。今さら俺たちは逃げも隠れもしないぜ」


 ロンはフッと笑って答えた。


 ミッドイーナ包囲に参加していた一揆勢三万のうち無事拠点に帰還し城に籠城したものは僅か二〇〇〇に過ぎなかった。大半は自衛隊に抵抗して掃討されるか投降して捕虜になる宿命を辿ることになる。自衛隊の記録によると、一揆勢の四〇〇〇を掃討し一万五〇〇〇を捕虜にしたようだ。また行方不明者は〇と書かれていた。一揆勢側の証言によると自衛隊の追撃はかなり徹底的に行われていたらしく。その数字は残党がゲリラや山賊になるのを防ぐために手段を問わなかった自衛隊の気迫が感じられる。

 それと同時に自衛隊は捕虜の保護と彼らの故郷への早期帰還を進めていた。捕虜の待遇は、イッシーナ教信者に対して行った戦争犯罪を行った者を除いた大半は決して悪くなかったようだ。

 捕虜となったジョンは後にこう語っている。


『ジエイタイいや二ホン人は敵に対して容赦はなかったが、必要以上に殺さないことを心がけていた。下った敵には虐待することはなく理由がなければ罰することはなく警戒心を持ちながらもある程度の自由を認めるなど寛容であり、私自身もやむをえず一揆に参加したことが証明されるとすぐに故郷に帰ることができた……』



 自衛隊によって再び包囲されたミッドイーナ内は二度目のお通夜のような雰囲気からこの世の終わりのような末期的な雰囲気を醸し出していた。

 一部の兵士たちは完全にやる気を無くし指揮官であるオーウェンが前を通っても会釈をするのはいい方でなかには無視するものもいた。そんな兵士たちに咎める気力は今の彼にはなかった。

兵士のなかで無気力なものが出ているのはまだマシな方で、一部の家臣が領主の首を手土産として二ホンに降伏しようと目論んでいるという不穏な噂が流れている。

疑心暗鬼がまるでガスのように充満し、ちょっとした種火でも大爆発をしかねない危うさが段々と増していた。

 一揆勢が崩壊し二ホンの国旗である日の丸を掲げた二ホンの軍勢が現れたときの歓声が嘘のようであった。


「……」


 あくびをしていた一人の兵士が慌てて敬礼するのを尻目にオーウェンは一人心地であった。


(案の定二ホンは参戦してきた。しかも我々の敵として立ちはだかった。そのお蔭と三度目の包囲で兵士の士気はガタ落ちだ。この状況はあと一週間続けば軍勢が崩壊してしまう。早く手を打たねば身の破滅だ……)


 そうなれば自分は戦の責任者の一人として法に則って馬鹿領主と共に処分を喰らうことになる。良くて無期懲役、悪くて打ち首獄門だ。残された身内は頼れるものがなく大罪人を生んだとして肩身の狭い思いをすることになる。

 自分の身と身内が可愛いオーウェンにはそんな未来は願い下げであった。


「そろそろ接触があってもおかしくないが……」


 自室に戻ったオーウェンは苛立ちが微かに含んだ口調で呟く。

 都督府宛ての密書を携えたフクロウを放ってからだいぶ時間が経った。あのフクロウを速さなら扶桑にいる親戚にもう届いている筈だ。そこから都督府に伝えられるのを期待して放ったのだが……。

 駄目だったか? もしかしたら破り捨てられたのかもしれないと焦燥に駆られていると――。


「失礼します」

「入れ!!」


 入室を求めてくる兵士に、オーウェンは大人げないごとに八つ当たりを含めた声を叩きつける。


「何のようだ!?」


 不機嫌なことを隠さない問いかけにその兵士は落ち着いた声で――。


「指揮官に、二ホンからの御届け物です」


 と言う。それと同時に大きな袋から鳥かごに入っているフクロウと密書と竜騎士であることを示す階級章を執務机に置いた。そのフクロウはオーウェンが自らの手で放ったフクロウであった。

 目の前に差し出されたものにオーウェンは驚愕した。


「!? 何が目的だ?」


 混乱のあまり自分を殺しにきたのかと疑心暗鬼に駆られ腰に下げた剣を持つ。

 その兵士は慌てて答える。


「身構えないで下さい。私は別にあなたを暗殺しにきたのではないのですから……ジョルジュ・オーウェンですね?」


 問いかけながら一枚の紙を差し出す。そこにはある印鑑が押してあった。

見たことがあった。都督府からの命令書、質問書、安堵書に押してあるもので都督府が出したものだと証明する印だ。簡単に模倣されないよう複雑な紋様が特徴で都督府はこの印鑑によってウォルク地方を動かしている。地元勢力を従わせ統制する手段の一つであった。

あまり出回っているものではなく簡単に手に入れられるものではない。それにこれを利用して好き勝手なことをすれば問答無用で重罪が課されることはウォルク人全員が知っていることだ。

その兵士が二ホンの使者であるのを確信すると、オーウェンの警戒心が薄らいた。


「そうだ。私がこれを送ったオーウェンだ。もう一度聞くが、何のようだ?」

「“前払い金”を徴収しにきました。ミッドイーナ関連の情報全てを提供してもらいます」

「……分かった」


 迷いなく答える。危ない橋を渡っている自覚はあった。だが、オーウェンは橋を渡ることにした。覚悟を決めて口を開いた。



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