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最終話 顛末


 一一月〇一日。騒動が一応の収束を見せてから一週間以上経った。

 ミッドイーナにある広場には大勢の人々でごった返していた。ここまで人が集まったのは騒動が起こる前以来だ。自衛隊の活動により難民として領外にいたイッシーナ教信者たちの一部が領内に帰還した。

 しかし、帰還した彼らはミッドイーナの住民が殆どであり農村部に居住していたイッシーナ教信者たちはいなかった。

 庇護者である自衛隊の目が行き届きやすく城壁が守ってくれる都市部とは違って自分たちに恨みを抱いているイッシ教やコグト教信者の報復から身を守る手段がないことや、戦災により荒れ果てているので生活できないことが理由であった。

 まあ、戻ってきた都市民もこれから敵意を持つイッシ教信者とコグト教信者という隣人といさかいなく生活できるかどうか不安であった。その不安が重苦しい雰囲気としてこの場に現れていた。

 広場の中心には大樹が一本存在している。それの周囲には円形の柵が設置されていた。この場は定期市や領主からの布告などが行う役割を持っているが、他にもう一つ役割が存在している。日本人から見れば悪趣味と確実の断言されるかもしれない行為だ。さらなる犯罪の抑止と領主の権威を見せるために民衆の間近で不定期に行われている処刑場としてであった。

 柵の周りには複数の自衛官が立って警備に当たっていた。暴動などのいざという時の備えだ。

 陸上自衛隊の73式大型トラックが柵のなかに入った。複数の人間がこのトラックから現れた。自衛官ではない。一揆を起こした当事者たちが罪人としてこの広場に現れたのだ。

 その瞬間、民衆が騒ぎ出した。人殺し、暴君など罵声を放ち、なかにはこの罪人に向けて石を投げつけるものもいた。殺意が湧きあがり声は急速に強くなっていく扇動者が、一人でも現れれば間違いなく暴動になりかねなかった。

 気まずい雰囲気のなか、警備に当たっていた自衛官たちが民衆に向けて小銃を構えた。AK-74下部に到着されている銃剣が太陽光を受けて金属特有の鈍い輝きを放つ。これと銃口が民衆を威嚇し頭を冷やさせる。

 民衆の声が徐々に小さくなっていく。

 落ち着いたと判断されると、一人の罪人が処刑場に誘導される。

 スピーカーを片手で持った自衛官の一人が民衆に向かって宣言する。最初に絞首刑を受けるのは元ミッドイーナ領主オリオンであると。

 領主の座を失い、ミッドイーナ辺境伯領家はお取り潰しとなって彼以外の身内は中央部に追放されるなどこの騒ぎによって持っていたものをことごとく失い、悪政による責任を全て背負わされたオリオンの顔は布に隠されていたので表情は窺えなかったが足取りはフラフラで自衛官二人に支えられてやっと前に歩いていた。抵抗する素振りはなかった。もはやこの世に未練がないと言わんばかりに。

 ゆっくりと確実に大樹の太い枝に付けられた縄に近づいていく。

 そして、オリオンの首に縄が通された。


 ――正午、元ミッドイーナ辺境伯領主現死刑囚オリオンに対し絞首刑が執行された。この後、この騒乱の当事者たちの大半に対しても同じ刑が執行されており、大樹には吊るされた複数の遺体は時折吹き付けてきた風によって微かに揺れていた。

 この処刑にはある特徴があった。それは貴族も百姓も平等に凶悪犯に対して執行される絞首刑の判決を受けたのだ。

 特権階級の一つである貴族階級は処刑にも関しても他の階級と比べて優遇されている。苦痛を与えないように、執行される死刑が死を賜るという隠語として語られることが多い毒殺刑一つであり、これ以外は絶対に執行してはならないと法で定められていた。例え凶悪犯でも貴族であれば毒殺刑で済まされたていた。

 ウォルク地方が統一されて都督府が法治改革の一環としてこの法の効力が停止され新法の制定により廃棄された後も、暗黙の了解として残されていた決まり事を破って、貴族階級に対して毒殺刑以外の死刑が民衆の前で執行されるのはこれが初めてであった。当たり前のことだがこんなことは今までになかったことだ。付け加えてこれ以外に実行された事例は存在しない。刑を執行した都督府がオリオンとその取り巻きが犯した罪の大きさを重大視していたことを示していた。



「都督、ミッドイーナにて刑が執行されたようです」

「そうか……」


 冬月補佐官の報告に、初月都督は素っ気なく答えた。刑のことなどもはや興味などないと言わんばかりであった。


「……取りあえずこの馬鹿騒ぎは終わったが、色んな点でもやもやとしたものが晴れない結果になりました……これからどうなるか誰も分かりません」

「確かにそうですね。結局は北から来た連中の人種は分かりましたがそれ以外のことは全く分かりませんでしたから。それと本国政府が気がかりです。刑の執行によってどんな反応を示すは未知数です」


 それを聞いて初月都督は頭痛を覚える。

 この騒ぎの一件で本国政府と一番もめたのは、ウォルク地方西部を短期間のうちに荒廃させた元凶である一揆勢、領主勢の指導者と戦争犯罪に奔った疑惑が確定のものとなった百姓と戦士階級たちの処遇についてであった。都督府はあくまで都督府内部の問題としてウォルク地方を範囲として施行されている法律――所謂都督法に則って刑罰を決めたかったものの、本国政府はこの騒ぎは日本を舞台とした内戦と捉えているらしく国際戦犯法廷を設置し第三国の視点で戦時国際法を則って裁きを加えよと提案した。この提案は都督府にとって受け入れないものであった。最近の事例から見る限り、判決を下すのは時間が掛かるものであり例え下されたとしても禁固が最大で到底被害を受けた者たちにとって納得がいく内容ではないからだ。

 なので、都督府はツテを駆使し時には強引に時にはしたたかに自らの思惑が通るように工作を行ったことで都督法による形の執行となった。その反面、本国にいる自衛隊の派遣など介入を推し進めることで大陸における本国の影響力を高めようと目論む一派から激しく恨まれることになったが……。

 その他にも、本国政府とのウォルク地方を含めた大陸の統治をめぐる対立、未だ正体が分からない北から来た連中の暗躍、貴族階級や戦士階級などの旧特権階級との権益の奪い合いなど難題は山積みだ。


「いつになったら転移する前の平穏に戻るのですかね。転移してからだいぶ経ちますが難題は片付かずにむしろ増えていくばかりです。あのときを生きて今を知らずに死んだ人が羨ましいです……」

「……」


 初月都督は遠い目をして窓から見える景色を眺めた。冬月補佐官は黙って彼を見つめていた。


 ある農村。コグト教信者が住む地だ。主戦場にはならなかったために焦土とならずに済んだものの全ての男が戦に赴いたために農作業の担い手が一気にいなくなってしまったために、農民にとっては収入源であり生きる源もある畑は荒廃してしまった。

 しかし、村に逃げ戻ったり捕虜となったものの無罪放免となって帰還したりするなど運良く戦から生き延びた男たちが徐々に帰ってきたことで復興が始まった。

 あの騒ぎが終わってから三年後――村は息を吹き返しつつあった。


「ほんと、きれいさっぱりとなっちまったな……一揆を指揮していた連中と俺たちを苦しめた領主と豚貴族はことごとく戦死するか処罰されて村はボロボロに、あの騒ぎのせいで西部はめちゃくちゃっていう話さ。本当に酷いものさ。誰もいいものを得なかった」

「そうだな。唯一の救いは、俺たちの命懸けの訴えが認められてミッドイーナ辺境伯領家は改易されて別の領主様がこの地に転封されたってことさ」

「だな、新しい領主様がまともな人で良かったぜ」

「あっ!! ここにいた。こんなところで油を売っているなよ、畑に戻ってこいよ。お前のカミさんたちカンカンだぞ」

「いけねぇ。戻ろう」

「だね、今の俺たちには村を元通りにする役目があるからな。頑張って元の暮らしいや昔以上の暮らしにしようや」


 この村を含め、悪政と戦によって荒れ果てたウォルク地方西部が完全に復興するまでには悪政が行われた期間の三倍は掛かったと言われている。

 以上がミッドイーナの乱とよばれた騒動の顛末である。



 取りあえずここで完結です。

 見切り発車で勢いだけで書いてきましたが、自分の未熟さを色々と痛感するばかりでした。

 得た教訓を新作に生かしたいです。そのためには、小説を読むなりして勉強しなければ……。

 最後に、ブックマークしてくれた皆さま、感想を書いてくれた方、誤字の指摘をしてくれた方、本当にありがとうございました。この作品が完結できたのは皆さまのお蔭です。

 では、新作でお会いしましょう。 


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