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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百七十六話 エレディアエレス法国へ

法国篇、始まります。

「寒い寒い寒い寒い寒い寒い」

「くっ……」


 慌てて虚ろの腕輪から懐かしの防寒具を取り出して羽織るがすぐには温まらない。ブルブルと震える体を手のひらで擦りながら周囲を確認する。


 周りは寒さ通り、雪原だ。丘陵地帯かは分からない。白いから遠近感がないからだ。しかし、少し離れた場所に森があるのが見えた。それ以外は若干風があるからか、雪が舞って白く霞がかっていて見渡すには《神狼の眼》が必要だった。


「ダニエラ、あっちに町があるみたいだ」

「そうか……早く行こう。凍えて動けなくなってしまう……」


 レイチェルの乱暴な転移の所為でこの様だ。まったく、僕は少しの間で良いから船旅がしたかったのにこれだ。樹海川下りも楽しかったが、島と大陸を移動する大型船にも乗りたかった

な……。

 確かに時短を考えればこれは大正解なのだが、気持ち的には引っ掛かるものがある。駄目だな、広い視野で見なければ。船旅なんてのは平和になってからでも出来る。今はノヴァだ。そしてそれよりも先に町を目指さねば。



  □   □   □   □



 《神狼の眼》で確認した町に到着出来たのは日が沈む寸前。ギリギリ滑り込んだ町は、門番さんに聞けば、此処こそが目的地である『エレディアエレス法国』だった。

 見た感じは今まで通ってきた町より大きく見えたが、帝都よりは少し小さい……そんな印象だ。


 しかしこんなに小さくても国として成り立つのか。建国とか、まったく詳しくない僕には難しい世界だ。国と名乗れば、国なのだろうか。アーサーは国だと言っていたが。


 此処は見て分かる通り、雪国だ。なので旅人も少なく、宿をとること自体は問題なかった。


 漸く暖かい屋内に入れた僕達は先を争うように浴室へと駆け込み、結局二人とも譲らないままに熱い湯を浴びた。それくらい寒かったのだから仕方ない。


 その日は風呂を出た時点で日も完全に落ちて真っ暗だったので店長探しは明日にしようと思っていたのだが、窓から見た町並みがあまりにも幻想的だったので、急遽ダニエラと夜のデートをすることになった。


「いやぁ、綺麗だな……」

「白い町並みと地面の雪に光が反射して幻想的だな」


 等間隔で設置された街灯型の照明の魔道具の暖色の明かりが白い地面をオレンジに染める。周囲の家の窓から漏れた明かりもカーテンを透かした様々な色がまるでイルミネーションだ。


 そんな通りを二人で歩く。久しぶりにゆったりした時間だ。忙しい日々を見事に乗り切ったご褒美だと思いたい。


 そしてどんな国や町でも町を歩けば良い匂いがしてくる。雪の湿っぽさの中に似つかわしくないように思うが、ある意味ぴったりな、ピリリとしたスパイスの匂いが漂ってくる。それをダニエラが逃すはずもなく。


「良い匂いがする」

「温まりそうな匂いだな」


 匂いの元はすぐ側のお店だ。寒いから扉は締め切っているが、換気の為に少し開かれた窓から美味しそうな匂いが漂ってくる。嗅いでいるだけで体がポカポカしてくるような、そんな香辛料の香り。


 気付けば僕とダニエラは店内のテーブル席へ着席していた。


「いらっしゃいませ。何にしますか?」


 優しそうなお兄さんがカウンターから出てくる。店主さんかな? 彼が注文を取ってくれるようだ。


「この旨そうな匂いの料理が食べたいのだが」

「僕も同じ物を」

「畏まりました。すぐお持ちしますね」


 そう言ってカウンターに戻り、大きな鍋からお玉で何かを掬い、皿に注ぐ。その動作から、料理がスープだと分かった。

 二皿分用意した店主さんは、それをトレーに乗せて戻ってくる。一緒に大きなパンも乗せて。もう旨い。


「おまたせしました。どうぞ」

「いただきます」

「いただきます」


 目の前に出されたのは赤いスープだった。刻んだ野菜や肉がちょうどよいサイズで煮込まれている。早速匙を手に取り、掬って口へと運ぶ。


「んっ……これは旨いな……!」


 見た目通りのスパイシー加減に舌が喜ぶ。これは寒い国ならではのスープだな。すぐにポカポカと体が温まってくる。

 一緒に用意されたパンをバリッと裂いて、まずはそのまま囓る。香ばしくて旨いな……焼き立てではないけれど、素材が良いからか、時間が経っても旨い。


 今度はそれをスープに浸してから零さないように気を付けて食べる。


「んんっ……!」


 同じように食べたダニエラが唸る。辛さが若干マイルドになってパンの柔らかい食感が食べていて楽しい。


「良い店だな、此処」

「あぁ、辛い物は旨い」


 滅多にという程ではないが、あまり食べないジャンルだから偶にはこういうのも良いな。


 腹いっぱい食べた僕とダニエラは店を後にして散歩を再開した。相変わらず幻想的だが、夜も更けてきたからか、人通りが先程よりも少なくなっていた。今はもうパトロールをする衛兵さんしか居ない。


「帰るか……」

「だな。温まってる間に帰りたい」


 今日は大変だったし、ゆっくり温かい場所で眠りたい。まったく、気付いたら雪原だなんて酷すぎるぜ……。



  □   □   □   □



 宿へ戻った僕達はそのままベッドイン。朝までぐっすり眠らせてもらった。


 翌朝、宿が提供してくれた朝食を頂いてから町へ出た。今日は店長を探すのが目的だ。


「さて、探すとしたらやっぱりギルドかな?」

「其処が一番だな。むしろギルド以外だったら何処を探したらいいのか分からない」


 確かにな。やっぱり冒険者たるもの、ギルドを拠点にしないと根無し草だ。


「しかしこんな北国に冒険者ギルドってあるのかね?」

「あるよ」

「うぉお!?」


 いきなり誰かが会話に入り込んできた。慌てて距離を取ると、其処に居たのは店長だった。


「店長……居るなら居るって言ってくださいよ……」

「君もまだまだ修行が足りんな。ダニエラ、久しぶり」

「久しぶり。元気そうだな」


 探す手間が省けて良かった……のかな。ちょっとびっくりしたのは解せないけど。と、小さく溜息を吐いたところで背中を突かれた。


「お久し振りです、アサギ先輩」

「久し振り。レモンも元気そうだな」


 勿論それは店長と一緒に旅をしてるレモンフロスト=グラシルフだ。ダニエラとは違う灰色の髪を持つ灰エルフの彼女は以前会った時とは違う装備で、見違えるようだ。


「良い装備だね。僕より強そうだなぁ」

「それは言い過ぎですよ! でも冒険者ランクも翡翠まで上がったので、先輩に追いつくのももう少しですよー」

「もうそんなに上がったのか! 凄いなぁ。流石はレモンだ」


 なんて先輩面出来るのももう少しだろう。今のうちにレモンさんと呼ぶ練習をしておかないといけないな。


 さて、こうして合流出来たのだから話を進めないといけない。


「店長」

「あぁ、分かってる。私達の宿で話そう」


 頷いた店長が踵を返す。それにレモンが追従し、僕とダニエラが後をついていく。


 さて、この北国から始めるとしよう。打倒ノヴァ。不幸な人を無くすための戦いが此処から始まる。

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