第三百七十七話 揃う鍵
店長達が泊まっている宿はギルドのすぐ傍にあった。
「君達がギルドに到着したらすぐに行けるようにとな。まぁ昔馴染みだったというのもあるが」
「そういえば店長はこの国に着いたんですよね」
「あぁ。色々あったけど、悪い国じゃない」
その色々は……まぁ、聞いてもしょうがない。
案内され、通された部屋は二人部屋より少し広い。こうして僕達を招くこと前提の部屋だとすぐに分かった。色々と先読みしてる辺り、流石店長と言わざるを得ない。
「茶でも飲みながら話そう。まずは私達が、君達と別れてから何をしていたかだ」
用意された暖かい茶を啜りながら続きを待った。
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「私達は、私達に出来る事を探そうと北を目指したんだ」
朝霧君とダニエラと別れた後、暫く帝都に滞在した私達は、レゼレントリブルで知った事実と、朝霧君に教えてもらったエスタロスタで得た情報を元にレモンと話し合い、私達は北のエレディアエレスを目指すことにした。
遺跡の位置は大まかな場所しか分からなかったが、私は一つ、心当たりがあった。
「此処から出て東の森の奥に一つ、遺跡があるんだ。其処は冒険者の間では色々噂があったが、何もない場所として有名だったんだ」
そういう場所にこそ、古代エルフの遺跡があるというのが朝霧君達との旅で得た知識だ。だから此処に遺跡があるであろうことは、私の中ではほぼ確信に近かった。
アレッサを抜け、ランブルセンを抜け、漸くエレディアエレスに到着してからはレモンには悪かったが一眠りしてからすぐに遺跡へ向かった。
道中、昔は居なかったスノーウルフの群れを退治しながら遺跡へ到着した私とレモンは遺跡調査を始めた。
遺跡は石造りの壊れた建物だ。石柱が何本か立っているが、屋根は半分程なくなっている。土地柄、殆ど毎日雪が降るので大体は雪に埋もれているが、屋根の下は地面が見えている。
そんな難儀な場所ではあるが、遺跡があると確信してた私達が入り口を見つけるのに時間は掛からなかった。屋根の下の石畳の更に下に入り口は隠されていた。後は其処を開けて入るだけだった。
だが困ったことになったのはその後だった。失念していた。古代エルフの遺跡に入って無事だったのはダニエラや朝霧君が居たお陰だったのだと、後から知ったよ。
危うく私とレモンは敵認定されるところだった。けれど以前、遺跡に入っていたお陰でカルマネットワーク内に私達のデータが登録されていたらしく、ギリギリのところでそれを回避した。
勿論、データが登録されている以上、事情も現状も把握しているようで、3つの鍵のうちの1つを譲渡された。
「それからはこの国でずっと君達を待っていたのさ。それほど待たなかったけどね」
「なるほど、概ね情報通りですね」
「私達がそう伝えてくれとお願いしたからね」
とまぁ、これが私達が君達と別れてからの動きだ。朝霧君達はどうしていたのかな?
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「……ってことがあって、色々と大変でした」
「そっちもそっちで苦労したんだね……」
店長と会うまでのことを伝え終え、カラカラになった口を温いお茶で湿らす。樹海へ行き、ドラゴンを倒し、山を登り、島へ行き……思えば実に大変な旅だった。
「で、これが遺跡で見つけたレア武器です。店長の属性に合う武器は多分、この世でこれだけです」
虚ろの腕輪から『常闇の三双剣』を取り出し、テーブルの上に置く。漆黒の三枚刃の短剣が二つ。扱いやすいだろうし、魔法を伝える触媒にもなるだろう。
「なるほど、私にピッタリだ」
「アサギ先輩、私にはないんですか?」
「レモンには……これをやろう」
もう一つ取り出したのは古代エルフの遺跡で見つけた鬼の剣、『片刃・斜陽』だ。松本君と店長に合う武器を手に入れたのに、レモンの武器がないことに焦った僕が帰り際ギリギリに見つけた武器だ。
『片刃・斜陽 片刃の片手剣。高純度の火鉱石と魔素を含んだ鋼を鬼の製法で鍛えられている』
ってなもんだからこれから戦う自動人形相手にはばっちり対応出来そうだ。溶断、なんてのは浪漫もいいところだ。僕の中の火属性が熱くなるぜ。
「片手剣ですか!」
「衛兵さんって皆、片手剣だろう? だからレモンも扱えると思って。でも……」
「片刃ですね。それにとても純度の高い火鉱石……難しい武器です」
それでもレモンならきっと上手く扱ってくれる。そんな自信があったので僕はこの剣を持ってきたのだ。
「戦争までにはものにして見せます!」
「あぁ、怪我しないようにな」
なんてお兄さん面していると本当にレモンが可愛い後輩に見えてくる。だが年上だ。
「私からはこれだ」
と、店長が鞄の中から綺麗な水晶を取り出す。白い両剣水晶だ。
「第一番施設『エレス』のカルマより預かった鍵だよ」
「ありがとうございます」
受け取り、ジッと見つめる。これで最後。3つの鍵が揃ったのだ。
腕輪に仕舞う前に、先に入手した鍵を取り出し、テーブルの上に並べる。
樹海深奥にて受け取った『ウルベサルトスの鍵』
孤島地下で受け取った『キモンの鍵』
そして法国で店長が預かった『エレスの鍵』
3つの鍵が揃い、これで漸くノヴァが設置された第零番施設『ミストマリア』へ入ることが出来る。
「あとは戦力だね」
「実はレイチェル経由で松本君にお願いしてるから、これから王都に行く予定なんですよ」
「なるほど、同じ異世界人として彼は優秀だし有り難いね」
同じ異世界人として僕は優秀ではないのだろうか。これが主人公補正か。
「孤島で鬼族と会ったら彼等もノヴァには恨みがあるみたいだったからお願いしたら戦ってくれることになった」
「凄いですね……絶滅したって聞いてたんですけど」
「なんか生きてた」
「なんか生きてるって凄いですね……」
ダニエラのワードセンスにレモンが驚いてる間に鍵を仕舞ってお暇の準備を始める。明日には出立だ。買える物は買っておかないとな。
「そうだ朝霧君、ちょっといいかな」
「何ですか? 店長」
あーしてこーしてと頭の中で日程を組んでると店長からお声が掛かったので一度白紙に戻して向き直る。
「実は此処最近、妙な噂があるんだ。もしかしたら君にも関係あるんじゃないかと思ってね」
「昨日来たばかりですけど……」
「あぁ、それでも無関係とは思えなくてね。ちょっと聞いて欲しい」
ずい、と身を乗り出す店長に、思わず姿勢を正した。
「白い巨狼の噂なんだ」




