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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百五十話 蛇との決着

 長くて狭いトンネルを抜けた最初の光に、視界が白に染まり、思わず目を閉じてしまう。


 肌に当たる空気は暖かい。足元には何もない。前方に障害物もない。


 瞼を通した視界は赤く、それだけ洞窟の向こうは光に満ちているのが分かった。


 ふわりと浮く体をそのままに、《神狼の眼》を発動させる。僕の瞼越しに見た景色がそのまま見え、あまりにも異常な光景に僕は息を呑んだ。


「すご……」


 今が蛇に追い掛けられ、危険か安全かも分からない場所に生身で飛び込んだという状況も忘れて思わずポツリと言葉が零れた。


 洞窟を抜けた先に広がっていたのはまさに楽園とも呼べる場所だった。木々が生い茂り、美しく大きな湖が太陽に照らされてキラキラと輝いていた。広がる草原は大海原のように風に揺れ、その中を大小様々な動物が駆けていた。


 周囲を見渡すと、あの山の壁がぐるりと全方位を囲んでいた。天井はなく、円形の明るい空がこの楽園を照らしている。外の猛吹雪とは何だったのかと思えるくらいに晴天だ。


「何だ、此処は……」


 眼が光に慣れたダニエラも溜息交じりに呟く。その様子からは驚きが感じられる。僕達二人してありえない光景を目の当たりにしてるのだ。


 あの分厚く高い山の内側に森や平原が広がり、大きな湖がきらめいていて、その溢れかえった楽園のような自然の中を動物達が駆けずり回る。誰が予想出来ただろうか。


「まるで……そう、方舟だ」

「方舟?」


 僕の声にダニエラが視線を此方に戻す。


「僕の居た世界に伝わるおとぎ話だよ」


 僕は覚えている程度ではあったが、方舟の話をダニエラに聞かせる。最後まで大人しく聞いていたダニエラは、拙い僕の話を聞き終えると納得したような顔をする。


「確かに、此処は方舟の中のようだ。選ばれた動物、植物……人間の姿はまだ見えないが、そういった失われるかもしれなかったものが、此処にはあるのかもしれない」

「とはいえ、それが本当かどうかも分からない。とにかく、今は蛇の対処だ。そろそろ彼処から顔を出す頃だ」


 遥か後方になってしまった僕達が抜けてきた洞窟の出口。振り返ればちょうど同じタイミングで蛇が飛び出してきた。


 僕達同様に勢い余って飛び出した蛇はそのまま地面へと落下する。釣られて僕も初めて地面に目を向けたが、結構な高さだ。生身の人間が落ちたらまず助からないだろう。しかしあの蛇が大人しく叩きつけられて死ぬようには思えない。


「私のことはいい。まずはあの蛇を始末してくれ」

「分かった。離すぞ」


 コクリとダニエラが頷き、手を離すと翡翠色のボードを生成してその場に立った。


「あの湖の方で待機している。すぐに追いついてくるんだぞ」

「あぁ、すぐ済ませるよ」


 ダニエラと一緒もいいが、一人の方が動きやすい場面もある。今回みたいなひょろ長いくせに的が小さい敵は一人の方が対処しやすい。


 さて、改めて《気配感知》を下方に広げる。と木に絡まってはいるが蛇はピンピンしている。この覆い茂る木がクッションになったんだろう。じっと見据えながら虚ろの鞄から槍を取り出してゆっくりと降下する。


 比較的拓けた場所を選んで降り、暫く待つと木々を縫うように蛇が這ってきた。緑溢れる森に白い蛇。全く馴染まない色合いだ。


 槍を構え、紺碧の魔力を流し込んで氷槍化させる。半透明だった槍は白く染まり、表面に霜がつき、飾り布からは冷気が溢れ出て周囲の水分を凍らせる。空気をも凍らせる絶対零度の槍と氷雪地帯に適応した蛇の魔物。何方がより冷たいかの勝負となる。


「お前は此処で倒しておかないと駄目だ。恨むなよ」

「シュルルルル……」


 穂先を下に構え、飛び出す。相手も一瞬の溜め行動の後に、一気に飛び出す。眼前に迫った顔をくぐるように避け、がら空きの伸びた胴体へ槍を振り下ろす。


「ぐっ……硬い……!」


 柄の部分が丸太のような太い体に食い込み、ミシミシと痛い音が伝わってくる。が、大したダメージにはなっていない。分厚い体、その全部が筋肉のような生き物だ。筋肉ムキムキの男の二の腕を叩いているような感触に自然と眉間に皺が寄った。


 ダメージのない蛇はすぐに反転し、僕を追うように牙を剥く。それに対し僕はもう一度避けるタイミングを掴もうと後方へと下がる。


 が、これは悪手だった。


「ぐふっ……!?」


 肺の空気が強制的に吐き出される感覚に一瞬、頭の中が真っ白になる。涙に滲む視界で捉えた僕を殴ったものの正体、それは尾だった。


 吹き飛ばされ、地面を転がりながらもなんとか《神狼の脚》を発動させて無理矢理体を跳ね上げ、空を滑って体勢を整える。あの長い体が厄介だな……まさか頭と尾で別々に仕掛けてくるとは思わなかった。


 くるりと槍を回し、気合を入れる。見据える蛇はチロチロと舌を動かして、しっかりと僕を睨んでいる。


「ふっ……!」


 両足に力を込めて走り出す。1歩で風速を上げ、2歩でトップスピードへ、そして3歩目で鎌首の下へと潜り込む。そして顎下目掛けて槍を突き上げる。


「ギュアァァ!!」


 流石に僕の速さについてこられなかったのか、反応出来ずに蛇は槍の餌食となった。顎下から脳天まで槍が突き抜けたのだ。おまけに氷槍の力で傷口から凍り始めた。蛇の冷たさよりも、僕の冷たさの方が強かったようだ。


 槍を通して更に魔力を送り込み、凍結速度を上げる。このまま死んでくれれば何も問題ないのだが……と、油断した僕の足元へ、蛇の体が巻き付いた。


「くそ、此奴……!」


 まだ体が動くらしい其奴は一旦僕の足に絡まると、クルクルと胴体へ向かって巻き付いてくる。全身巻かれれば終わりだ。体中の骨を粉砕されて死ぬ。


「早く、早く……!」


 魔力を送るが、透明な目は僕を見据えて動かない。長い体だけが動き、僕へと絡み付いてく。


「くそっ!」


 悪態をついても意味がないとは分かっていても口から漏れる。どんなに体を揺すっても此奴は離れない。


 ならばと、消えかかっていた《神狼の脚》へ再び風を送り、空へと飛び出す。蛇に掛かる負荷でどんどん槍が深く深く突き刺さっていく。

 だが狙っていたのはこれじゃない。高高度からの一撃。


「食らっとけ……!!」


 地面に向かって、蛇が絡まった足を叩きつける。《神狼の脚》のスピードと落下速度が重なった一撃は地面に大きな穴を作る。確実に仕留めるため、とにかく全力で叩きつけた結果だ。そのお陰で、足に巻き付いていた力が完全に抜けた。


 ずるずると這いながら蛇の拘束から抜け、改めて蛇の姿を見やる。槍の刺さった口からは青白い血が流れ出ている。これは完全に死んだだろう。


「念の為、だ」


 虚ろの鞄から取り出した藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)で首を落としておいた。これでもう後顧の憂いはない。あとは素材だが……。


「んー……蛇なんて捌いたことないしな……」


 意外と簡単だとは聞いたことがあるが、此処で皮剥ぎをしろと言われても時間も体力もない。そもそもサイズが普通じゃないしな。


「仕方ない。この目だけもらっておこう」


 宝石のような美しい透明の目だけを綺麗に切り取り、革袋に入れて鞄に仕舞っておいた。あとは魔素となり、大地に還元されるだろう。山だけど大丈夫だよな……。


 さぁ、急いでダニエラの元へ行こう。目的地は、あの大きな湖だ。きっと此処にアーサーも居るはずだ。彼奴ならきっと水辺の傍に拠点を構えてるだろう。アーサーとの合流も、きっとすぐのはずだ。

明日は『異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする』3巻の発売日です。

書店で見掛けた際は是非そのままレジまで₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾

どうぞよろしくお願いします!

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