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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百四十八話 蛇との遭遇

  暫く進んだ所でカツンと槍が岩にぶつかった。山肌から少し飛び出た棘のような岩に当たったらしい。

 何時ぶつかるかと気を張っていたのでふぅ、と一息。あとは斜面に沿って上昇していくだけだ。


 槍を仕舞って昇り始めるが、ダニエラはギュッと抱き着いたままだ。


「もういいだろう?」

「何だ、嫌なのか?」

「嫌じゃないから困るんだ」


 緊張感が抜けてしまう。気持ちもどうにかなってしまう。


「ふふふ」

「もう、ダニエラ……」


 吹雪の雪山で色白の女性……ひょっとしてダニエラは雪女か?


「真面目にやろうぜ。ほらダニエラ、《気配感知》だ」

「ったく、冗談の通じない奴め。安心しろ、《気配感知》はずっと広げている」


 流石ダニエラ。こんな状況でも気は抜かないか。


「もう2km程上に魔物が居るぞ」

「うへぁ!?」

「おぉっと!?」


 ビックリし過ぎてダニエラを落としそうになった。流石のダニエラもビビッてガチの捕まり方をしてくる。


「お、お前……いくら魔法でどうにかなるからって、落としてくれるなよ……」

「わ、悪い。焦ったわー……」

「焦ったのは私……ッ、アサギ! 気付かれた!」


 ダニエラが血相を変えて上を見上げる。2km先の魔物に居場所がバレたらしい。僕もすぐに槍を取り出そうとするが、その手をダニエラが止める。


「駄目だ、場所が悪すぎる。逃げた方がいい」

「でもこの視界じゃ……!」

「お前には《神狼の眼》があるだろう!」


 言われてハッとする。そうだ、確かにこの吹雪で視界は最悪だが、この吹雪の先を見通せれば、先へは進める。その場に至るまでは手探りだし、培ってきた勘が必要だが、やってやれないことはないはずだ。


 《気配感知》を上へと広げると、物凄い速度で魔物の反応が接近している。飛んでいるのか、滑っているのか、はたまた落ちているのか。しかし妙にでかい反応だ。相手は大物のようだ。


「一先ずこの場から離れよう。山肌から離れたら魔物も手出し出来ないだろう」

「警戒は怠るなよ」

「あぁ!」


 ギュン、と加速して近付いた山肌から離れる。折角近付いた山は一瞬で吹雪の中に消え、周囲は再び白い世界に包まれる。


「……よし、此処まで来れば……いや、駄目だ! どうなってるんだ!?」


 山肌から離れたはずなのに魔物の気配は真っ直ぐ此方へと向かっている。離れるように後退するが、どんどん距離を縮めてくる。


「もっとだアサギ、もっと下がれ!」

「わ、分かってる……!」


 慌てて速度を上げて離れようとするが、魔物の反応はすぐ其処だった。


「や、ばい……ッ!」

「チィッ……!」


 予想だにしない展開にもたついてしまう。ダニエラは僕にか魔物にか、舌打ち一つ、『風矢(ウィンドアロー)』を生成し、迎撃態勢を整えた。


 そして吹き荒ぶ雪を突き抜けて、大きく開いた口(・・・・・・・)が眼前で止まった。


「なんっ……え……?」

「これは……首の皮一枚繋がった、か」


 その口内は見た記憶がある。確か、蛇の口だ。縦に裂けた大きな口に、広がった下顎。上顎から伸びた大きな2本の牙と、口内には鋭く細かい歯。


 唖然として見ていたら、シュルルと吐息のような音を鳴らしながらゆっくりと口が閉じられた。その奥から現れたのは白い美しい蛇だ。ただし普通の蛇ではない。氷のような透明の目をした、魔物だ。


「ギリギリ長さが足りなかったのだろう……これ以上は近寄れないはずだ」

「そうだな……」

「わざわざ刺激する必要もない。このまま行こう」


 あまりの迫力に声を震わせながら答えるが、僕はその蛇から目が離せなかった。蛇もまた、透明の目で僕をジッと睨みながら、ゆっくりと吹雪の中へと消えていった。


「……っはぁ、死ぬかと思った……」

「まさに蛇に睨まれた蛙のようだったな、私達」

「あんなのに追い回されて睨まれりゃぁ、誰だって蛙コースまっしぐらだろうよ……」


 緊張が解け、ダニエラに軽口で返す。ふと、どうやってあの蛇が此処まで来たのか気になり、《神狼の眼》で僕達が居た場所を見る。


「……うっわマジか……」

「どうした?」

「いや……蛇って全身筋肉って聞いたことがあったけど、マジなんだなって」


 僕達が到着したあの場所にあった棘のような岩。其処に絡まった蛇の尾の先端。奴は尾以外の部分、つまり全身を真っ直ぐ、平行に、此処まで伸ばしたことになる。この長大な体を支える筋力って、一体どういう……。


「はぁ……行くか」

「まずは吹雪を出よう」

「此処から少し行った場所は吹雪が吹いていないみたいだ。少し山から離れて進むぞ」

「了解」


 またあの蛇に襲われても嫌だしな……。


 ダニエラが再びギュッと抱きついてきたのを確認してから、離れるようにしながら山を中心に円を描くように進む。


 僕達が吹雪から脱出したのは、それから約1時間後のことだった。



  □   □   □   □



 吹雪を抜けた先にさっきの蛇は居なかった。離れた山側を見るが、姿も気配もない。遠く離れた事で索敵範囲から逃れられたのかもしれない。


「蛇は温度を見るから気を付けないとな」

「そうなのか?」

「あぁ、そういう仕組なんだ」


 蛇博士でもないので詳しくは知らないが、温度感知で対象を発見する蛇は侮れない。2km先から見つけてくるような奴だ。今だって追いかけているかもしれないしな……早いとこ移動した方がいい。


「先に進もう」

「しかし上はどうなんだろう。もっと魔物が居るかもしれないな」

「うーん……ん? あれは……」


 ふと眼下に今まで無かったものを見つけた。此処からは見えにくいが、洞窟だ。何もない斜面にポッカリと空いた洞穴だ。


「洞窟か……魔物の巣の可能性が大きいな」

「しかしいつまでも此処に居る訳にもいかないしな。それに、流石に僕も疲れた」


 下から登り続け、さっきは必死こいて逃げ回った。ダニエラを抱えながらだ。ちょっと疲れた。


「よし、じゃあ彼処に行こう。入ったら入り口は私が塞ぐ」

「頼む」


 土魔法も使えるダニエラが居てくれて助かった。逃げ場は無くなるかもしれないが、あの蛇に入ってこられるよりは多分、マシだろう。


 もう一度《気配感知》で周囲を調べ、あの蛇の気配が無いことを確認した僕はスルリと洞窟へ滑り込んだ。

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