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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百八十五話 邸宅警護開始

 一応ではあるが、規則なので貴族門の前で門番さんに顔を見せる事にした。


「おや、アサギ様。どうしたのですか? そんな装備で」


 物々しい姿に流石の門番さんも少し警戒している。


「昼間にステータスカードを見せた時に載ってたと思うんですけど、邸宅警護の依頼を受けてるんですよ」

「確かに記載されていましたが……なるほど。最近噂になってるカルテラーザ家周辺の不審者ですね」


 軍内部でも話が持ち上がるのはカルテラーザ家が8大貴族の一角だからだろう。ただの不審者であれば、それこそ大きな事件になるまで気にも留めないだろう。


「軍からも一部派遣してパトロールのシフトを増やしているのですが、これが中々……」

「難しいですか」

「えぇ。やはり手練の兵は他の任務に派遣されますので。余裕ある人員だとやはりどうにも。カルテラーザ家は痺れを切らしてしまったのかもしれませんね」


 言葉の外に新人訓練という単語が聞こえた気がした。やはり不審者程度だと捜査も多少は甘くなる、か。


「ま、そういうことです」

「アサギ様が出てきたとなれば、噂も今夜限りでしょう」


 なんて笑う門番さんに釣られて笑うが、苦笑交じりになってしまう。上手くいくかは分からない。勿論、今夜限りにしてカーミラさん、自動人形を安心させたい気持ちはある。それに、冒険者を道具と言うのであれば、それなりに使える事を証明してやりたいしな。


「では、お気を付けて」

「はい。門番さんも」


 門番さんの敬礼に会釈で返事をして門を抜ける。10m程離れた所で闇に紛れるように《気配遮断》を発動させ、同時に《神狼の脚》で真っ直ぐカルテラーザ家へと向かった。



  □   □   □   □



「一応挨拶しておくべきか……」


 これから警護をしますということで挨拶しておくべきと思った。通りの影から邸宅を見やるも、カルテラーザの門番さんしか見当たらなかったからだ。他の冒険者達が集合している様子もない。邸宅の中に居るのかもと《気配感知》を伸ばしてみるが、昼間行った時と同じように人の気配は多いが、それが冒険者かどうかは分からなかった。ついでに周囲も感知してみるが、気配は門番さんしか無かった。


「こんばんは。邸宅警護に来ました」

「うおぉお!?」


 超驚かれた。あ、《気配遮断》オフにするの忘れてた。門番さんにしてみればいきなり目の前に人が出て来て声を掛けられた形になる。それビビるわな……。


「すみません、驚かせて」

「はぁ……はぁ……ん、げほっ……」


 咽る程驚かれてた。装備効果半端ねぇな!


「んぐ、……はぁ。アサギ様ですね……一旦中へどうぞ……」

「ありがとうございます。あの、ほんとごめんなさい」

「大丈夫です……」


 大丈夫そうには見えなかった。毎夜現れる不審者に警戒して心労の溜まる日々。そこに僕だ。流石に可哀想過ぎた。しかし僕には回復魔法等は使えないので頭を下げて門を潜った。扉までは《神狼の脚》でひとっ飛びだ。ぼやぼや考えながら歩く暇はない。


 扉の前には昼間と同じ執事さんが立っていた。一礼して扉を開けるので中へ入らせてもらう。昼間同様に応接室に案内されて入室すると、今回はカーミラさんが既に座っていた。


「来ましたか。あら、貴方らしくない装備ね」

「今日用に見繕ってきました。どうですか?」

「どうでもいいわね。さて、今夜は貴方1人に警護してもらいます」


 ちっとも褒めてくれない。ダニエラは褒めてくれたのに。


「他の召使いや冒険者は居ないんですか?」

「貴方しか依頼を受けてくれなかったのよ。まぁ、普通は依頼主にカルテラーザの名前があったら誰も受けようとしないわね」


 無知って恐ろしいね。この帝都に来て8大貴族の名前を知らない奴が居るってことだぜ。ちなみに僕はクインゲリア家とカルテラーザ家しか知らない。クインゲリアは帝剣武闘会の貴族女、アレンビア=エフ=クインゲリアの実家だ。


「じゃあ邸宅の周囲には僕以外の味方は居ないと」

「そうなるわね。別に貴方に対して意地悪をしている訳でも、逆に信頼している訳でもないわ。客観的に見て貴方の周囲に人が居ても足手まといになると判断したからよ」

「僕は其処までの人間ではありませんが」

「Aランク冒険者、二つ名持ち、帝剣武闘会準優勝者。これだけのステータスを持ちながらその発言は嫌味にしか聞こえないわよ」


 全部偶々、そうなったに過ぎない。立ち寄った町で首を突っ込んだ結果、レベルだけが上がってAランクに設定された。あの忌まわしき赤髪、ボルドーの所為で二つ名を付けられた。優勝候補者アドラスとは相性で勝てたが、結局ダニエラには勝てなかった。その程度の人間だ。上を見ればキリがない。


「なので貴方1人にお願いするわ。貴方の足なら塀の反対側でも問題ないでしょう?」

「まぁ」

「ではお願いするわ」


 それだけ言うとカーミラさんは応接室から出ていった。扉を開けてくれた執事さんに従って再びエントランスまで戻り、じゃあ行こうかなと玄関に向かうところで執事さんに声を掛けられた。


「今夜はよろしくお願いいたします」


 それだけだ。でも何だか道具道具と言われるよりは心が温かくなり、やる気が出てくる。


「えぇ、任せてください」


 サムズアップで応えて外へと出る。氷雪期特有の冷たく洗練された空気を鼻から吸い込むとビリビリと脳が痺れ、スーッと頭が冴えてくる。


「……よし」


 その場で《神狼の脚》を使ってターンと大ジャンプして邸宅の屋根へと登り、腰を掛ける。そして《気配遮断》を発動。《気配感知》を広範囲に設定し、更に《神狼の眼》で邸宅周辺を見張る。


 《夜目》スキルがあるからって、誰も使うとは一言も言ってないのだ。ダニエラの言葉には『まぁな』と答えただけなのだ。はーっはっはっは!


 見た目は黒尽くめで座ってるだけ。でもこう見えてかなり集中力を使っている。1時間毎に休憩を挟まないと疲れちゃいそうだ。

 こうして僕の邸宅警護任務が始まった。時間は夜20時を過ぎてもうすぐ21時になる頃。こらから僕は朝まで此処で警護をするのだ。

 しかし今夜は冷えるなぁ……氷竜装備もないし、普段より寒く感じる。けれど、紺碧の魔力を流せばある程度は耐えられる。冷気には冷気、だ。夜空も雲がなくて晴れていて、月がよく見える。月明かりに照らされた庭は、それはもう素晴らしいものだった。しかし庭ばかり見ていられない。此処には、警護に来たのだから。


「気合い入れてやるか……」


 少し寒気が引いてきたところで、何処を見るでもなく《神狼の眼》で周囲を見渡すことにした。



  □   □   □   □



 そうして座って警護すること5時間。時刻は深夜3時を少し過ぎた頃、邸宅内の気配は9割がベッドインして動いていない。時々歩いているのはメイドさんか執事さんか。門番さんも引き上げて邸宅周辺に人は皆無となっていた。

 そんな中、1人の気配が邸宅周辺へと広げた僕の感知エリア内に侵入してきた。まぁ、これくらいならば何度かあった。《神狼の眼》で見れば酔った兵や貴族の従者等だ。フラフラと歩きながらカルテラーザ家を迂回して消えていく。それだけの人間だ。


 しかし今回引っ掛かった気配は今までの人間とは違っていた。まずフラフラしていない。真っ直ぐカルテラーザ家へと向かってくる。ジッと中の様子を伺っている。それから一旦離れる。次にやって来た時は複数の気配を引き連れていた。


「はぁ……まさか夜襲なんて仕掛けないよな……」


 屋根の上でポツリと呟く。白銀に染まった僕の眼は相談する彼等を見ることが出来るが、残念ながら声は聞こえない。様子を見る事が出来るだけだ。その様子が、もう普通じゃなかった。

 これから忍び込んで目的のブツを盗み出しますよと、顔に書いてあった。

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