第二百四十話 トーナメント表発表
本日、日間異世界転生/転移ランキング ファンタジー部門にて1位にランクインしました。そして200万アクセス達成です。
ランキングなんて僕には遠い世界のように思っていたので全く目に通していませんでしたが、最近のアクセス数の伸びがこのランキングだと判明しました。
これも日頃から読んでくださる皆様のお陰です。読者の皆様が居てくれるお陰で続けることが出来ました。本当にありがとうございます。
今後共よろしくお願いします。まだまだアサギの旅は続きます。
では、本編をどうぞ。
気怠い朝がやってきた。熱が入ったのか、ダニエラにダニエラの良さを空が白んでくる頃まで教えられ、そこから寝たので実際、3時間程しか寝ていない。空も朝日が昇り、この部屋とは真逆の爽やかさに満ち満ちている。
汚れると拙いと思い、敷いた布をそっと捲ってベッドは大丈夫そうだと確認する。隣には真っ白な肌を惜しげもなく晒したダニエラがすよすよと気持ちよさそうに眠っている。食欲も性欲も睡眠欲も、此奴くらい奔放に生きた方が健康に良さそうだ。
ふぅ、と意味のない溜息を吐いてベッドから出て、そのまま風呂場へと直行する。脱ぐ必要もないので楽ちんだ。
色々と汚れた体を洗い流しながら、ふと備え付けの鏡に映った自分の姿を見つめる。鏡の向こうから見つめる僕は、夜勤をやっていた時の僕とは顔つきが違う。ような気がする。傷も増えた。
「あの頃は……結構、きつかったもんな」
態と考えないようにしていた将来の事とか、過去の事。それらは1人で居る時間には否応なく伸し掛かってくる。生きる為の努力をしてこなかった学生時代。その附けが回ってきた夜勤時代。後悔と共に思う未来の自分の姿。
「朝になったらやって来る店長が、結構心の拠り所だったんだよなぁ」
伸びた髪を触りながら思う。店長は『髪を切れ』と言わない代わりにそっと後ろから触ってくる。ゾクッとするが、それもまた彼女なりのコミュニケーションだったのではないかと気付いた時、自分の心がスッと軽くなったような気がした。普通なら怒鳴りつけて切らせるだろう。緩い職場だと思った頃もあるが、いっぱいいっぱいだった僕への配慮だったんだとも思う。
「そのうち切らないとな」
首筋に触れる髪を触ってクスリと笑う。
これじゃあまた、店長に触られてしまうな。
□ □ □ □
起きたダニエラが寝惚けて風呂場に入ってきたので洗い合った。それから朝食を食べる為に北区へと繰り出した。偶には北区で食おうと僕が提案したからだ。折角諜報部の人から優先券だ。有効利用しないと怒られる。そのうちテムズさん本人にあってお礼も言いたいな。
食堂は宿泊施設を出て少しばかり歩いた場所にある。夜勤明けの軍人や、起きてきた軍人で朝から賑わう其処へ、僕達もお邪魔する。
「すみません、朝食のセットを2つください」
腕輪を見せながら厨房のおじさんへ注文する。
「了解です。席に座ってお待ち下さい」
その軍人然とした対応に思わず苦笑しながらも礼を言って空いている席に座る。ダニエラと昨日の予選を話をしながら時間を潰していると、ふと視線を感じた。首筋に刺さるような視線。チリチリとした感覚に首元を撫でながら振り向くが、誰とも目は合わない。
「どうかしたか?」
「ん? いや……何でもないよ」
気の所為だと思い、ダニエラに向き直って会話の続きを始める。暫くすると如何にも新人です! と言った風な青年が朝食セットを2つ持って僕達の元へとやってきた。
「お、お待たせしましたであります! 朝食セットであります!」
「ど、どうも」
カッチカチやなぁ……。ビシっと形だけは一人前な敬礼をして奥へ引っ込む彼を見送ってから朝食をと視線を落とす。
ふむ、まさに朝食って感じのメニューだ。焼いたパン、豆を煮たやつ。果物が2つ、それと飲み物。この白いのは何だろう。ミリタリー映画で朝食を受け取りに来た主人公にコックが不機嫌そうな顔をして乱暴に入れる奴に似ている。そして主人公は同じくらい不機嫌そうな顔でそれを口に運ぶのだ。
「いただきます」
「いただきます」
早速その謎の食べ物を口に運ぶ。んっ……舌触りは……最悪。味は……不味い。
「アサギ、眉間」
「これ食ってみろよ。こういう顔になるから」
彼等が不機嫌そうな顔で食べてた理由が分かるってもんだ。これは美味しくない。美味しくないので豆と一緒に食べるが、うむ……あんまり美味しくないにランクアップだ。
「んむ……」
「な?」
「これは……体に、良さそうだ」
不味いと言えないグルメレポーターみたいな感想を捻り出すダニエラだが、多分、そんなに体に影響はないと思う。
結局僕達は眉間に皺を寄せながら朝食を胃に詰め込んだ。何とか食べきって水で口の中と食道を洗い流した所で周りを見ると、皆が僕達をニヤニヤと笑いながら見ていた。何だ此奴等と思ったが、別に嫌な意味の笑みでは無いことに気付いた。よく見れば皆、その顔に『不味いだろ?』と書いてあったのだ。思わず苦笑しながら果物を取る。
「此奴が一番好きだから我慢出来たよ」
食堂内は笑いの渦に包まれた。
□ □ □ □
朝食を食べてからは何となく闘技場の方へと足が向いた。ダラダラと靴底を擦りながら歩いていたが、やけにすれ違う人が多い気がする。
「本戦って明日だよな?」
「そのはずだな」
その割には賑わってる気がする。2人で首を傾げながら歩いてると、闘技場が見えてきた。そこが一番賑わっているので見に行くと、この人混みの理由が判明した。
「なるほど、トーナメント表か」
「1日休みを入れたのはこれがあるからか」
てっきり、対戦相手は当日分かるものだと思っていた。しかしここに掲げられたトーナメント表を見て、周りを見て、今日張り出された本当の理由を知る。
「賭け金は此方でーす! 並んで並んでー!」
そう、賭けだ。この帝剣武闘会、賭けも平行して開催されるらしい。見れば賭けの管理をしているのは軍人だ。国営カジノ、のようなものだろうか。国が間に入ることで不正をなくすということかもしれない。この帝剣武闘会の後は氷雪期だ。雪が降れば出来ることは少なくなる。その間の経済を、此処で回そうという考えなのかもしれない。観光客も増えるし、賭けでも盛り上がるし、稼ぎ時なのだろう。
「所で対戦相手はどうなっている?」
「んーっと……」
人混みの最後尾から背伸びして見る。爪先を犠牲に確認したトーナメント表はこうだった。出場選手は12人。Aランクが2人、Bランクが2人、Cランクが1人、Dランクが1人、Eランクが1人、Fランクが1人。推薦枠として僕とダニエラ、3人目の誰か。前回優勝者のアドラス。
そして気になる対戦相手は……。
Eランク『マカデニア=ニッケ』―Bランク『バンディ=リー』
Aランク『レヴィ=バディ』―Cランク『アレンビア=エフ=クインゲリア』
Fランク『バズ=ロックウェル』―Dランク『ニュート=エランギュート』
Bランク『ネイティ=ミニアド』―Aランク『ダニエラ=ヴィルシルフ』
Aランク『カプリコーン=シュタイナー』―Aランク『アサギ=カミヤシロ』
Aランク『アドラス=ブラシルフ』―Aランク『ハインリッヒ=アズシルフ』
うーん、情報が追いつかない。とりあえず自分の相手だけを考える。カプリコーン=シュタイナーねぇ……何だろう。耳に残る名前だ。それが僕の対戦相手だ。Aランクということは先日見た予選を勝ち抜いた1人だ。氷細剣の女か、短剣の……男か女か分からない彼奴か。その辺は人に聞けば分かることだ。
「なぁちょっと。昨日の氷の剣で戦ってた女って誰だっけ?」
「ん? あぁ、彼女か。彼女はレヴィ=バディ。『白露』の二つ名を持つベテラン冒険者だよ」
「そうか、ありがとう。ところでアンタは誰に賭けるんだい?」
「そりゃ勿論レヴィさ。彼女は強いぞ」
「そうなのか?」
「あぁ、アンタも見たろう? あの正確無比な突き! あの突きは葉から落ちる露すらも突くって噂だぜ」
「それで『白露』?」
「そういうことさ。……お、連れが呼んでる。じゃあな。アンタもレヴィに賭ければ間違いはないぜ!」
「ありがとう、考えておくよ!」
手を振る兄ちゃんに手を振り返す。なるほど、『白露』のレヴィね……ま、賭けるならダニエラだけどな。ついでに例の推薦枠の人の話を聞きたかったのだが……まぁ仕方ない。名前からしてエルフとは思うが。
それにしてもこのトーナメント表を見ると僕とカプリコーン、アドラスとハインリッヒの4人は決勝までの試合回数が3回だ。対して予選を勝ち抜いた選手達は6人で争うので決勝までの試合回数は4回。
「こうして見るとアドラスに有利な感じが引っかかるな……」
それともAランク同士をぶつけることで消耗させる考えか……。
ま、何にせよ、僕の相手は例の短剣使いとなった。しかし此奴は拙いな……あの選手、全然視界に入らなくて戦い方が全く分からない。今までしっかり予選を見てきたつもりだが……うーん、どうしたものか。
本戦キャラ一覧です。
Fランク バズ=ロックウェル バンダナの男
Eランク マカデニア=ニッケ 二刀流の男
Dランク ニュート=エランギュート 火魔法の男
Cランク アレンビア=エフ=クインゲリア 氷魔法の貴族女
Bランク バンディ=リー 槍使いの女
Bランク ネイティ=ミニアド ラッキーボーイ
Aランク レヴィ=バディ 『白露』氷細剣の女
Aランク カプリコーン=シュタイナー 謎の短剣使い
Aランク アドラス=ブラシルフ 『流転』金髪王子
Aランク ハインリッヒ=アズシルフ 推薦枠のエルフ




