第二百三十九話 オークション登録
「いやぁ、白熱した戦いだった」
「あっち見たりこっち見たりで忙しかったな……」
「でもそれも醍醐味ですから!」
会場を後にしながらもまだまだあの戦いの熱は引かない。やれあの選手は凄い、やれあの戦い方は素晴らしいと盛り上がる。それは周りも同じで、会場に来ていた観客達はそれぞれがお気に入りの選手を見つけて褒めそやしていた。
「おや、ダニエラ。今日も綺麗だな」
「そうだ、これから飯食いに行こうか」
「まだまだ語り足りませんからね! 行きましょう!」
「そうだな……肉が良い」
「ダニエラ、お前の体は野菜を求めているはずだ」
まだまだ語り足りないというレモンに頷きなが『おい』ら僕達は今日も商業街へと繰り出すことにした。何処か、落ち着いた場所で話さないとこの興奮は消化出来ないだろう。
早速僕達は進路を帝都中央に向けて歩きだし『おい貴様、無視とはいい度胸だな』た。
のだが、誰かが僕の肩を掴んで離さない。
「今すっげー良い気分なんだけど。水差すのやめてくんない?」
「あまり舐めた口を利かない方が良いぞ、下男」
「ぁあ?」
「私のダニエラに近寄るのはやめてもらおうか」
「いつから……はぁ、相手するのも面倒だ。行こうぜ」
こういう勘違い野郎とまともに話しても意味なんてない。疲れるだけだ。居るよな、こういう話の通じないタイプの馬鹿野郎。
「無視はよくないな、家畜」
「うるっせーな呼び方固定しろやボケ」
「君を表す言葉は沢山あってな。長生きしていると知識ばかり増えていけないな」
「ただ年齢積み重ねただけの年寄り風情が偉そうに人の恋人に手ェ出してんじゃねーよ」
あぁ、でもどうにも此奴だけはイライラしてしまうな。何だろう、ダニエラと同じで馬が合わないんだろうか。落とし所が見つからない。大体此奴何処から湧いてきたんだ?
見下したように僕を見るアドラスではあるが、興味を無くしたかのようにふい、と視線を逸らす。勿論、視線はダニエラへと向き、爪先もダニエラへと向く。
「ダニエラ、これから食事でもどうだ?」
「良いな。でもお前以外と食べたい気分だ」
「つれないな。肉が好きなら良い店を知っているぞ」
「興味ない。話し掛けないでくれ」
ダニエラもダニエラで寄ってくるアドラスを一蹴する。こうして見ているとアドラスも地道な活動で大変だろうな。白エルフだから白エルフしか愛せないのかは知らんが、こうして1人1人見つけて声を掛けているのだとしたら……地道ではなく事案だな。
アドラスが離れたことで周囲の光景が見える程度には落ち着いたが、帝都市民も『またやってるよ』みたいな顔をしている。お馴染みの光景なんだろうか。だとしたら此奴は……どうなんだろうな。振られ続けているのか、それとも白ハーレムを作っているのか。ハーレムってのは無さそうだな……ああいうのは自然と築き上がるものだろう。この地道な活動でハーレムを作っているのだとしたら情けないにも程がある。
それか……何かヤバい手を使っているか。
ジッと睨む先のアドラスを上から下まで観察する。体型を隠すような白いローブ姿は魔法使い然としている。だからと言って魔法で戦うスタイルかは分からない。『流転』の二つ名を持つようだが剣も使うかもしれない。白く眩しい装備が戦闘用なのか、それともただの私服なのか……。
「お前に見つめられても嬉しくないのだがな」
「馬鹿を客観的に観察出来る良い機会なんだ。悪いな」
「ふん……まぁ良い。今日のダニエラは機嫌が悪いようだ。日を改めるとしよう」
「二度と来んなカス」
アドラスに対して機嫌が悪いのでいつ来ても意味はないだろう。しかしどうも一度嫌いだと思った相手には口が悪くなる所があるな、僕は。
アドラスは気障な動作でダニエラにお辞儀をしてその場を離れていった。まったく最後まで鬱陶しい奴だ。
「私も嫌な奴に目を付けられたものだな……」
「本戦出場者みたいだし、僕がぶっ飛ばしてやるよ」
「原型が無くなるまでボコボコにしてやれ」
「それは捕まりそうだから……」
ちょっと不機嫌なダニエラだ。
「でもあのアドラスは結構な人気だそうですよ」
「あれでぇ? 理解出来ないね……」
「女性人気は凄いらしいです。何でも『金髪王子』と呼ばれてるとか」
金髪王子ってそのままやん。でも他に特徴ないしな。
「戦い方とかの情報はあるのかな」
「それなら有名ですね!」
まぁ、優勝者らしいし人の目に晒されてはいるだろう。情報通のレモンが言うには、アドラスはやはり魔法だけで戦う訳ではなく、一緒に長剣も使ってくるタイプらしい。自由自在な水魔法で相手の動きを絡め取り、長剣で仕留めるそうだ。流転という割には実戦向きなようにも聞こえるな。
しかし長剣か……僕の片手剣ではリーチの差がある。長い短いの差は大きい。かと言って藍色の大剣では相性が悪いだろう。氷属性を活かした戦いをしたい。何か良い方法は無いものか……。
「そんなことより飯に行こう」
「そうだな……嫌な気分は食って消化するに限るか」
「賛成です!」
消化するものが変わってしまったが、腹は減った。僕とダニエラとレモンは目的の変わった目的地へと向けて再度、歩き始めたのだった。
□ □ □ □
その夜、僕は窓から《神狼の眼》で町を眺めていた。眺めてはいるが、流し見だ。考えているのは今日の昼の食事中の事だ。
結局、3回目の『肉肉肉肉』で完璧に顔を覚えられて出されたメニューもいつも通り。何だか居た堪れない気持ちにはなったが、話題は先程のアドラスとの戦い方になる。
「結局、リーチの差はあっても手持ちの武器で戦うしかないんじゃないか?」
「今から新しい武器を探すというのも現実的ではないですしね……」
「それもそうなんだよな。奴の武器と同じ長さの武器を手に入れたところで間合いも掴めないまま戦っても怪我じゃ済まない」
「そういうことだ。必要なら武闘会の後で探せばいいんじゃないか?」
「それでしたらオークションがオススメですよ。ちゃんとした性能で尚且つレアな物が流れてきますから」
「あ、オークションで思い出した! 僕達も出品したいんだよな」
「へぇ、アサギ先輩も何か良い物持ってるんですか?」
「あぁ、ビックリするような物を発掘したんだ」
「発掘、ですか?」
そう、僕が考えていたのはオークションの事だ。帝剣武闘会というビッグイベントのお陰ですっかり忘れていたが、帝都には自動人形を出品しに来たはずだ。……あれ、違うな。ダニエラが帝都に行きたいって言ってたんだっけ?
まぁいいや。それで僕達は食事の後はオークション会場で出品登録をしてきた。会場は南東にあった。宿泊客も通いやすい位置にあるのが嫌らしいなと思ったが、まぁそれも帝都を潤す手段だろうと考えた。
オークション会場は僕が思ってたようなアンダーグラウンドな雰囲気はまったく無く、非常にオープンなスタイルの場所だった。よくよく考えてみれば、僕が考えていたのは裏ルートで手に入れた曰く付きの物だとか、奴隷オークションのイメージだった。出す物が出す物だけにそんな闇オークションな雰囲気にビクビクしていたが、支配人さんも良い人だった。
「開催は帝剣武闘会の後になります。開催時は会場に足を運んでもらいますがよろしいでしょうか?」
「見学はどこでするんですか?」
「ステージ上で行われます。出品者の顔が見えるオークションがうちのやり方ですので」
農協みたいなスタイルだな……と思いながらも話は進む。
「では出品物ですが、どういったものでしょう?」
「こういった物です」
と、虚ろの鞄に手を突っ込んで自動人形の腕を掴んで引っ張り出す。
「ひぃっ」
「自動人形です」
「あ、あぁ、はい……死体かと思いました」
「そんなスプラッタ趣味はありません……」
まぁビックリするだろうなとは思う。多少の悪戯心がなかったと言えば嘘になる。
「自動人形ですか! これは滅多にお目にかかれませんね……!」
「炉心も幾つか予備があります」
「素晴らしい! 今回の目玉商品になるでしょう。大々的に宣伝しても?」
「構いません。寧ろ誰の目にも耳にも届くような宣伝をお願いします」
「分かりました。アサギ様、今回はありがとうございます。よろしくお願いします」
「此方こそ」
がっちり握手して出品登録が済んだところで会場を出ると日暮れだったのでその場で解散となった。それから屋台飯を食べ歩きながら帰ってきて今になる。という訳だ。自動人形は貴重ということで今は虚ろの鞄の中だ。盗まれるわけにはいかないと支配人が悩んでいたので、当日に引き渡すことになった。
まぁ、これで自動人形ちゃんとはお別れになるのだが……何だか寂しくなる。HENTAIで有名な古代エルフ製ということもあって外見は素晴らしかった。手放すのは勿体無い気もするが、もう出品は確約した後だ。今更断ることも出来ない。
「次拾ったら絶対に手放さないんだ……」
「次もオークション行きだ」
「無慈悲過ぎる……男の夢だぞ……」
「私以外の女は必要ない。そうだろう?」
「自動人形に嫉妬とか引くわ」
「何だと? なら自動人形が必要ないということを体に教えてやろう」
「それは良い。しっかり教え込ませてくれ」
夜は更けていくが、まだまだ眠るには早い。僕はダニエラがナニをどう教えてくれるのか興味津々でベッドへと向かった。




