第二百三十八話 Dグループ予選
100万アクセス達成、及びブックマーク1000件を突破しました。どうもありがとうございます。
書き始めた当初はこれ程伸びるとは思って……あれこれ前に言ったような気が……(˘ω˘)?
兎に角、感謝感謝です。本当にありがとうございます。これからも末永くよろしくお願いします。
では本編をどうぞ。
ダニエラに謝り倒すのに少々の時間を弄してしまい、少しばかり出遅れた僕達は始発組に混じって闘技場へ向かう。今日何度目かの水を飲みながら少しずつ増える人の列に混じる。どんどん狭くなっていく歩幅が今日という日の人気具合を教えてくれる。
「流石にAランク選手の対戦ともなると人気がやばいな」
「これでは遅れてしまうな……」
ダニエラの心配は尤もだ。このままじゃあレモンにまた頼ってしまう事になる……いや、レモンも多分この列に飲まれているだろう。勤勉な後輩である彼女のことだから僕達よりも前で人の波に飲まれているに違いない。
「此処は一つ、アサギのスキルに頼ろうかな」
「え、此処で?」
《神狼の脚》のことを言ってるとすぐに理解出来たが、こんな人混みで発動させたら大迷惑だし注目の的になってしまうのでは?
「そこの路地に入ってからやれば問題ないのでは?」
「ん……まぁそうだけど」
ここまで頑張ったのに列を出るのはちょっと勿体なくも感じる。でもまぁ、こうしていても時間の無駄かもしれない。《神狼の脚》なら確実に最速で目的地に到着出来る。
「しゃーない。行くか」
「ふふ、頼もしいぞ」
くすりと笑うダニエラに苦笑して僕達はすみませんすみませんと謝りながらも強引に列から抜け出した。傍の路地に入り、一呼吸置き、若干口の中がヒリヒリしだしたので水を飲む。
「私にも水をくれないか」
「いいよ」
土魔法で魔素から土製のコップを作るダニエラ。そのコップを水で満たしてやるとグイッと一気に飲み干した。僕はズボラだから氷のコップも作らず直接水を口の中に流し込んでいる。お陰で曲芸染みた光景になってしまい、早起きしたキッズからは拍手を貰ったりしていたが……ダニエラの手の中で再び魔素へと還元されていくコップを見て『僕もしっかりしないとなぁ』なんて思ってしまう。
「さ、行こうか」
「りょーかい」
ダニエラの準備が出来たので抱き上げ、両足を銀翆の風で纏う。何筋かの純白の風が混じり、白銀翆の風となっているのが《神狼の脚》の特徴だ。銀と翠の中に混じる純白はまるでダニエラのようだ。
両足の風で自分を持ち上げ、一気に屋根の上へと飛び出した。漸く全体を晒した朝日に照らされ、腕の中のダニエラの髪がキラキラと輝き、とても綺麗だ。
「凄い人だな……」
「闘技場の中に入りきるのかな?」
眼下に広がる人混みを見て前方の闘技場の心配をする。昨日の時点で立ち見客が居たが……今日はどうなることやら。
「ま、私達は最前列でレモンと一緒に観戦出来るんだな」
「ちょっと狡いけど、ま、今日くらいはな」
明後日からは観戦するのではなく、参加する側になるのだから今日くらいは息抜きさせて貰おう。
ということで僕達は一気に闘技場へと向かい、陰からコッソリ本戦出場特別入場口へ潜り込むのだった。
□ □ □ □
「あら、アサギ様にダニエラ様。お早いですね」
「おはようございます。今日はAランクですからね。気合い入れて最前列で見ようかと」
「ふふ、今なら席も空いているでしょうから焦らず中へとどうぞ」
「どうもです」
話しながらステカの確認を出来るくらいには慣れた感じの担当さんとの朝の挨拶。明日は1日の休みを挟んで本戦だから……担当さんとは今日が最後になるのか。
「ではいってらっしゃいませ」
「この4日間、ありがとうございました」
「世話になったな」
「いえいえ、私もお二人とお話出来て楽しかったです。これからも帝都を楽しんでくださいね」
ダニエラと一緒に担当さんとお辞儀合戦をして、僕達は闘技場の中に入る。扉をくぐり、通路を抜けて観客席に入ると、まだ疎らではあるがそれなりに人が入っているのが見えた。最前列は……うん、空いてる空いてる。灰髪の後ろ姿も何処にもない。レモンへの恩返しは出来たかな。
「あれ? 先輩方、早いんですね!」
「ん?」
「あ」
うんうん、と喜んでたら後ろから声を掛けられた。振り向けば其処には灰髪の少女然としたレモンフロスト=グラシルフが不思議そうな顔をして見上げていた。
「あ、レモン」
「はい。おはようございますっ」
「早いなお前……」
「はい?」
折角最前列の席を用意して喜ばせようと思ったのに……という話をすると、レモンも今日の為に意気込んでいたと聞かされた。それからは誰からともなく吹き出し、朝から大きな声で笑いながら僕達は最前列へと向かった。
□ □ □ □
早朝出勤ということで結構待たされたが、いよいよDグループ予選開始となった。舞台上には既にAランク冒険者達が並んでいる。昨日は80人という大人数だったが、此方はそれに対して少人数だ。並んだ頭を数えると20人程だ。
「これでも帝都中から集まったそうです」
「Aランクって貴重なんだな」
そういえばAランクの別称はなんだっけ?
「紅玉だな」
「そうだったそうだった。そういえばついでなんだけど、Aランクより上って存在するのか?
「あるぞ」
ダニエラが言うには本当に世界に数人レベルの存在だそうだ。Aの上はA+。A+の上はS。そこからS+、SS、SS+、SSSとなっていくそうだ。
「だいぶ上があるんだな……」
「長命種が居るからな。上を目指すだけなら誰でも出来るが、私達のような種族は限界までが長い。だからその分だけ壁を越えられるという訳だ」
そうして過去の事例からSSSランクまで存在するそうだ。僕が生きている間は無理そうだな。是非ともダニエラには僕の遺志を継いでSSSランクまで上がって欲しいものだ。
「あ、始まりますよ」
レモンの声に妄想から帰ってくると選手達が武器を手に舞台に広がっていく。今更ではあるが、選手達は公平性を保つ為に武器、防具は武闘会が用意したものを身に付けている。武器は刃を落とした物。防具は軽鎧、重鎧、ローブの3種だ。装備の付与でブーストしている選手には不利かもしれないが、それは実力とは言えないので反論は受け付けないそうだ。
そうなると僕が用意された装備で試合に出るとどうなってしまうんだろう。AGIは人より高いが、長命種の選手が出てきたら敵わないかもしれない。
ま、本戦は自分の装備で出場出来るそうだから安心して戦えるだろう。身代わりの魔道具もあるし。
「試合開始!!」
聞こえた声にピントを合わせる。どの選手も一気に駆け出し、手にした武器を狙った相手に振り下ろした。Bランク同士の対決ならこれで片方が落ちるか、何回か打ち合い、片方が落ちる。
しかしこれはAランク選手の対決。叩いた相手が土塊となって崩れたり、逆に水流となり飲み込んだりと魔法と武器を合わせた戦いが狭い舞台上で繰り広げられる。
「どこに注目したら良いか分からん!」
「アサギ先輩! あそこ!」
身を乗り出して指差すレモンの見ている先を見る。其処には何本もの剣状の雷を浮かせ、そこから1本を取り振り下ろす選手が居た。雷と同じような金髪の男だ。対する相手は土の壁を何重にも重ねて防御しつつ、どんどんと相手を場外へと追い出すように押し出していく。雷の選手は不利と悟ったのか、すぐに離れ、標的を変える。まるで天から地上へと落ちる稲妻のようにジグザグと走りながら風の魔法を放っていた選手の背後から剣を振り下ろす。
しかしその雷剣が魔法使いに触れる前に真下から飛び出した氷の氷柱に弾き飛ばされた。雷の選手は不意打ちで吹き飛ばされる。空中で姿勢を制御しようと藻掻くが、敢え無く場外となった。
「め、目まぐるしい!」
「あっ!」
「今度は何!?」
ダニエラの声に身を乗り出して場面を変える。其処には武闘会が用意した武器を放り投げ、魔法で生み出した石の剣と氷の剣で斬り合う2人が居た。石は土魔法で生み出す鉱石で熟練の技だったはずだ。あの選手はそれだけの腕があるらしい。
氷剣で戦う方も中々の手練だ。同じ魔法を使う僕だから分かるものがある。あの細く靭やかな氷剣、相当な魔力が込められている。撓る氷なんて見たことがない。早速《器用貧乏》でシミュレートしてみるが、相当な技術が必要だと分かった。常に形を変えつつ、維持する魔法。とんでもないな……しかしこれが出来るようになれば氷の鞭なんかも出来るんじゃないか? 夢は広がるばかりだ。
氷剣、いや、氷細剣の選手は石の剣を的確に往なしながら踏み込み、突き出し、順調に手傷を増やしていく。石の選手は苦しい顔で剣を振るうが、焦れば焦る程に大振りとなっていく。そこを氷の選手は逃さず、一気に踏み込んできつい蹴りを入れ、相手を吹き飛ばし、転がす。そして喉元へ剣先を突きつける。石の選手は両手を上げて降参の意を示すと氷の選手は頷き、次の対戦相手を探して駆け出していった。
「素晴らしい技術だな……」
同じ細剣を扱うダニエラがほう、と感嘆の吐息を漏らしながら乗り出していた体を席に戻す。ダニエラの細剣術を見ているからこそ、僕もあの技術の高さが分かる。ような気がする。あの的確に急所を狙う正確さと大胆な踏み込みは中々出来ることじゃないはずだ。
それからも目まぐるしい展開は続く。自棄になった火魔法使いが一気に舞台を火の海にしようとすると結託した水魔法使い達が魔法ごと選手を押し流せば被害にあった数人が流されたり、その水を媒介に感電させたり、或いは凍らせたり。しかしそんな魔法を刃のない剣で切り裂きながら突き進む選手が居たり。ビックリ人間ばかりでパニクりそう。
だが、そうして続いた戦いにも終わりがある。魔法の打ち合いだった序盤から剣と魔法が入り乱れる中盤、そして結局は剣が物を言うと言わんばかりの終盤。
最後に立っていたのはあの氷細剣の選手と、人差し指、中指、薬指、小指の間に短剣を挟んで持って計6本を巧みに操るフードを被った細身の選手の2人だった。
ていうかあんな選手居たっけ?




