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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百二十七話 銀翆の新装備

 店の中は様々な色、素材、サイズの布が広がっている。大きなテーブルの上にも、小さなテーブルの上にもだ。乱雑に置かれているようだが、職人というのはこれで結構収まっている方だ。お節介に片付けようとすると物凄い剣幕で怒られる。これが完成形だからだ。


 でも僕に言わせれば超汚いの一言に尽きる。


「装備、出来ました?」

「会心の出来さ!」


 アマリリスさんはこの服飾店を1人で切り盛りしているお姉さんだ。何でも昔は親と一緒に経営していたが、服飾性の違いで袂を分かったらしい。よく分からないが、まぁ分からないで良いと思う。


「ところでそちらの綺麗な方は誰かな?」

「ダニエラといいます。僕のパートナーです」

「ダニエラだ。よろしく」

「此方こそよろしく! ふむふむ……貴女も素敵な服を着ているね……!」


 今日のダニエラの服は『白百合服飾店』製のオシャレなやつだ。ダニエラが考えて色々な組み合わせをしているので見ていて飽きないね。


「お気に入りだ。アサギの新しい装備が出来るということで張り切ってみたんだ」

「いいね! 凄く可愛いよ。とても可愛くて美しい!」


 アマリリスさんは人を褒めるのが上手だ。僕は何故か褒められなかったけど。寧ろ胡散臭そうな顔されたけど。


「アマリリスさん、服」

「おぉそうだったそうだった! こっちに来てくれ!」


 アマリリスさんは完成形だと思っていた机を奥に押しやり、椅子に掛かっていた布を別のテーブルの上に放り投げて椅子もどかして道を作る。これでも完成形なのだから意味が分からない。


 そうして店の奥にやってきたが、流石に此方は綺麗だった。入り口兼、作業場なのだろう。こっちは倉庫かな。沢山の引き出しとケースが置かれていて、その真ん中。部屋の中央に僕の服がトルソーに着せられて飾られていた。天井から下げられた照明の魔道具が照らしている。となりには元の僕の装備も飾られていた。なので見比べることが出来る。


「ほぅ……」


 思わず溜息が出てしまう程の出来だ。翡翠の素材から作られた服はその色を失わず。しかし艶というか、しなやかではあるが強靭な作りが見ていて分かる。形は元々の僕のウィンドドラゴン装備とそう変わらない。だが、見た目以外の全てがそれを上回っていた。


「アサギ君の装備は素晴らしかったね。デザインは流用しつつブラッシュアップさせてもらったよ。特に腰マントの刺繍は素晴らしかったね。派手さは無くとも、きめ細かいデザインがとても美しかった」


 今回新たに用意された腰マントにも、いや、腰マントだけでは無くポンチョの縁、ズボンの裾にも細かな刺繍がされている。


「あの刺繍、一晩で出来上がったんですよ」


 『肉球服飾店』の店長兼職人のキューナさんの顔を思い出す。職人気質な感じはアマリリスさんと似ているかもしれない。


「えぇ……嘘でしょう? あれを? 一晩で?」

「はい。最初はポンチョとズボンだけだったんですけど、『なんだかバランスが悪い』ってことで僕に引き渡す前夜に作ったそうです」

「なにそれ……やばいでしょ……」


 まぁ、服飾関係ではあの人がランブルセンで一番凄い人だと思う。


「肉球服飾店というランブルセンのお店です。興味があったら是非」

「今度店閉めて行くわ! ……まぁそれは置いといて。君の装備の紹介をさせてくれよ」


 照れくさそうに笑ったアマリリスさんに僕達も自然と頬が緩む。


「さて! 君のポンチョ、腰マント、そして破れたズボン。それらの良いところを残しながら私は新しくデザインし直してこの装備を完成させた。ウィンドドラゴン、その成体の素材から作られた装備。この装備1つだけで既にAGI上昇の加護が発現している。そしてこれに加えて新しく作った物があるんだ」


 アマリリスさんはケースの一つを開けてインナーと取り出した。別の場所にあったから僕のものではないと思ってたけど……。


「ふふ、驚いたかい? これは君の物だ。ウィンドドラゴンの布を染織して作らせてもらった」


 確かにこのインナーは翡翠色……エメラルドグリーンでは無い。藍色……というには濃すぎるか。


「君のあの白い鎧に合うように染織してみた。こんな色だがこれでもウィンドドラゴン素材。AGI上昇は発現しているよ」

「結局どれくらい速度は上がるんですかね?」


 あれもAGI上昇。これもAGI上昇。じゃあ一体どうなっちゃうんだ?


「んー、ステータス上は恐らく全部合わせて200くらいじゃないか? 幼体3点装備で60くらい上がっていたはずだ」


 ふむ。なんだか数字を出されると思っていたより上がっていない気がするが……。


「100越えだけでも相当なのに……凄いな、アサギ」

「ん? おぉ……そうだな。ビックリだ」


 どうやら僕の認識がズレていたようだ。なるほど、100越えしたら一級品……200越えなら一流ということか。僕も偉くなったもんだな。


「素材が沢山合ったからね。君のそのだらしない服に変わって良い物を沢山作っておいたよ」

「大きなお世話です」

「何を言うアサギ。とても親切な人じゃないか。感謝しろよ?」


 ぐぬぬ……2対1は卑怯だぞ……。


「それもまた追々な。今日は遅くなるまで帰さないからそのつもりで」

「アマリリス、アサギをよろしく頼む」

「頼まれた!」


 がっちりと握手する2人を見て僕はがっかりと項垂れた。


「……それより、着ても良いですか?」

「あぁ、そうだ。着てもらわないといけないな。サイズ調整もしたい」


 今日の目的はそっちだったはずだ。まったく、僕の服装の話はいいんだよしなくて。


「じゃあ失礼して……」


 トルソーから外した服と鞄を抱えて僕は別室へ移動した。そこで今着ているを脱ぎ、新品のインナーへ袖を通す。うん……なんだか新しい年を迎えた気分だ。あけましておめでとう、僕。


 続いてズボン。元々スボンが破れてしまったのが原因だ。自分の力を制御出来なかった代償だが、お陰でウィンドドラゴン狩りとは高く付いたものだ。此方も心地良い肌触り。元はドラゴンだとは思えないね。


 そして腰マントを巻いて通されたベルトを閉める。このベルトの素材は何だろう。本気出しても千切れそうにない。靭やかで強靭。革なのか? これ。


 まぁ良いや。お次はポンチョ……の前にアイスドラゴンの鎧を身につける。これありきの装備なのでちゃんと全部身に付けてサイズを整えないといけない。この軽鎧とも長いな……よく見ると細かい傷が沢山ある。これもそのうち成体素材に変えるんだろうな……その時は是非素材との対面をしたい。僕の属性相性だと苦戦しそうだ。


 うん、鎧も身に付けた。足回りも問題ない。凄くフィットするな……誂えたかのような……まぁ誂えたんだけど……。

 ポンチョに手を伸ばし、頭から被って胸の前で2つの小さなベルト状の留め金を留めて調整する。身に付けたら肩を回してみたり、被ってみたりと色々その場で出来る動きをしてみるが、全く引っかかることもなく体が動かせた。サイズ調整とか言ってたけど、完璧だ。非の打ち所が無い。オススメされるだけあるなぁ……と、感嘆の吐息を漏らしながら2人が待つ部屋に戻った。


「おぉ……」

「ふむ……」


 僕を見て驚くアマリリスさんにジッと僕を見て査定するダニエラの図。


「どう、かな?」

「流石私……サイズ調整完璧……」

「格好良いな……私もそういう装備にしようかな……」

「……」


 着た僕を見て何か思うことはないのか……。


「着た感じは凄く良い。初めて着たとは思えない程にフィットしてる。腕を曲げても足を伸ばしても体を捻っても何処も違和感がないんだ」

「ふふ、そこは私のこれだからな!」


 パンパンと自分の腕を叩くアマリリスさん。自信の表れというのは大事だと思う。


 いや、何にしてもこの装備は素晴らしい。今まで身に付けていた幼体装備も凄く着心地は良かったし、防御力も抜群だった。でも今着ている成体装備は……何というのだろう。言葉にしてみれば酷く陳腐だが、『次元が違う』と、そういった表現方法しか僕の頭には浮かばなかった。


「大会前に準備出来て良かったな」

「あぁ……これなら誰にも負ける気がしないぜ」

ライ◯ングマイティ的なレベルの上がり方です。

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