第二百二十八話 レイチェル先生
タイトルが被ってたので変更しました。
さて、上社朝霧こと僕は装いを新たに町へ繰り出した。勿論、代金は支払い済みだ。素材持ち込みだったので金貨530枚で済んだ。竜種素材は扱いが難しいらしい。よくは分からん。でもアマリリスさん曰く、『完成品を買うのなら金貨800枚はするね』とのこと。大金ですよ……アサギ選手も偉くなったもんだ。ラッセルさんに貰った布の服と中古の革鎧でゴブリンを追いかけ回していたのが懐かしい。
町を歩くと言ってもまだ職人街だ。だが、もう注目の的となってしまっている。見るものが見れば分かるウィンドドラゴン素材。それに身を包んだ僕は視線を独り占めだ。
「いや……ちょっとこれは……」
しがないコンビニ店員にはきついぜ。こう、矢面に立つのは苦手なんだ。だから客の少ない夜勤をしてたんだが……。
「大会に出れば一緒だ。今のうちに慣れておけ」
「それもそうか」
腹を括るのは慣れている。修羅場とか戦場とか、コンビニ店員らしからぬ場所を駆け抜けてきたからね。慣れるしかないなら慣れれば良い。慣れれば気にならない。
「じゃあどうする?」
「どうするもこうするも、もう夜だ」
そう。今の時間は午後7時。おかしいね……朝、目が覚めて一直線にソリチュード服飾店に来たのに店を出たら夜だよ……。
「はぁ……」
「確かに疲れたが、これでアサギもオシャレさんだぞ」
グッとサムズアップするダニエラ。今の今まで僕はダニエラとアマリリスさんの着せ替え人形となっていた。あれを着せては脱がし、これを脱がしては着せ……最初は別室で着替えていたのに途中から面倒臭いという理由で2人の前で着替えさせられた。
そう思えばこんな視線など屁の河童ってもんだ。僕はもっと恥ずかしい目に遭っていた。
「んじゃまぁ、飯に行くか」
「今日は魚が食べたい」
「お、珍しいじゃんか。明日は雪でも降るんじゃないか?」
「何を言う。私だってあのホロホロとした食感を楽しみたい時もあるんだ」
なんて、からかいながら僕達はこの一週間の間に見つけた大衆食堂へと向かう。色んな客層に人気で、料理の品数が多いのが特徴のお店だ。彼処なら魚料理もあったはずだ。僕も魚の気分なので、今日はゆっくりと酒でも飲みながら魚を突こうかな。肴だけに。
□ □ □ □
たらふく魚を食って酒を飲んだ翌日。僕は1人、レイチェルの路地裏、玄関空間にやって来ていた。ダニエラに開けてもらっていたが、彼奴は今日は二日酔いで駄目っぽかったので僕が開けた。普通に開いたのでこれからも自分で開けようと思う。
「さて……」
レイチェルは居るかなー……っと。
「おーい。レイチェルー?」
「んぁ!? アサギか!? ちょ、ちょっと待て!」
「ん?」
何だろう。居てくれたのは嬉しいが、いつもより忙しない。まぁ待てと言われれば待つのが僕だ。レイチェルの準備が整うまで待つことにする。
「す、すまんな……待たせた」
「待たせ過ぎなんだよこの野郎。もう2時間だぞ!?」
諦めて帰ろうと思うこと2回。いい加減乗り込んでやろうと思うこと3回。その機会全てを踏みとどまって僕は路地裏に座り込んでいた。
「……あ!? お前風呂なんて入ってたのか!?」
見ればレイチェルの銀髪はしっとりと濡れていて、スンスンと嗅ぐとシャンプーのような香りがした。
「み、身だしなみをだな……!」
「いくら外での時間の経過が無いからってお前……何してんだよ……」
「うううううるっっっさいのぅ!! ナニもしとらんわ!! はよ入れ!!」
ダァン! と窓枠を叩くレイチェル。嘘だろ、逆ギレかよ……。僕は盛大な溜息を吐き散らしながらレイチェルの部屋に上がり込……もうとしてピタリと止まった。
「え、何でレハティが居るの?」
「あ、ぅ……えっと、その……こんにちは……」
人狼化していないレハティはふぇぇ系女子なので非常に大人しい。でも挨拶出来てるから成長したんじゃないかな。
「ん……まぁ、レハティとはあれから一緒に住んでおる……」
「何だよ……言ってくれよ。遊びに来るのに」
「ふん、お前が来ても嬉しくないわい!」
腕を組んでそっぽを向いてぷんすこするレイチェルを押し退けて部屋に上がり、ちゃぶ台を挟んでレハティの向かい側に座る。
「久し振り。あれからどうしてた? 温泉島に行ったんだよな?」
「ふぇ……はぃ……。とても、良いところで……」
それは良かった。温泉島か……いつか行きたいとは思っているが。
「でも、その……住む場所が……」
「無いのか?」
「ぅ……はぃぃ」
縮こまるように下を向くレハティ。を、レイチェルが抱きしめた。
「おいアサギ、わしのレハティを苛めるでないわ!」
「いつからお前のもんになったんだ……」
「そ、それは……あー、話せば恥ずかしいというか、なんというか」
「はぁ?」
よく分からないが2人して顔を真っ赤にしている。どういうことだろう。
「まぁ恥ずかしいが、お前のお陰というのもあるしのぅ……話してやるとするか……よいな、レハティ」
「はぃ……レイチェル様」
「その様を付けるのは辞めて欲しいんじゃがの……」
まったく展開が読めない僕だったが、その後のレイチェルの説明で理解することが出来た。
何でも、獣人という種族は求愛の仕草というのがあるそうだ。それが僕の知る腹を曝け出した『服従のポーズ』らしい。僕の知るそれとは意味合いが違ったようだ。
そして僕とダニエラがレハティをレイチェルに引き合わせた時、レハティはそのポーズをレイチェルにしていた。
「一目惚れだったんです……」
と、レハティは小さな声で言う。
「全く……わしも耄碌したもんじゃ」
コロッとやられたわい。と、レイチェルが言った。
つまりは一目惚れしたレハティがレイチェルに告白。ノックアウトされたレイチェルがそれをOKしたとのこと。
「はぁ、なんていうか、おめでとうございます」
僕が言えたのはそんな言葉だけだ。特にそれ以外に言うことは無いし……。ていうか本題じゃないし。
「それで、わしらの愛の巣に何の用じゃ?」
「開き直るなよ……いや実は装備を新しくしてな。ウィンドドラゴンの成体素材が手に入って」
「ほう、珍しいのぅ」
それから僕は装備を手に入れるまでの経緯を話した。事の発端は《神狼の脚》の力に装備が耐えられなかったことだった。
「……という訳でもう壊したくないから『不壊』の付与してくれないか?」
「えーめんどい」
「……」
のじゃロリキャラを捨てたレイチェルが畳の上に寝転んだ。
「お願いします。もう装備壊したくないです」
「そんなんスキル使わんかったらええやん」
「……」
のじゃロリ銀髪幼女は似非関西弁銀髪幼女になった。
「いや、レイチェルの眷属になれたお陰で黒化したルーガルーにも勝てたんだ。スキルは使わせてくれよ。でも装備は壊したくない」
「じゃがな朝霧、防具に不壊を付与する意味、分かっておるのか?」
「え?」
意味も何も、ズボンの裾を破けないように……。
「壊れないってことは、絶対防御ってことじゃ」
起き上がったレイチェルは真剣な顔で僕を見る。
「絶対防御……」
「そう。所謂チートじゃ。ズルじゃ。持たざる者であったお主は地道な努力と人の出会いを重ねて、その力を得たはずじゃ。その力を、努力を、無駄にするのか?」
「……」
レイチェルに言われてふと考えた。この世界に来た時のこと。初めて町に……フィラルドに来て、ラッセルさんやマリスさん、大将のお世話になって強くなったこと。
ガルドやネスに会い、冒険者という職業になって、ダニエラに出会った。
そんな素敵な出会いや思い出を、僕は無駄にして良いのだろうか……いや、良いはずがなかった。
「ありがとう、レイチェル。ちょっと駄目だ。不壊は無しだ」
「うむ、それが一番良いのぅ」
「代わりに僕にスキルの使い方を教えてくれないか?」
自らの努力を後回しにして付与に頼るなんて上社朝霧のすることではない。やってはいけないことだ。器用貧乏な僕は地道に目の前の出来ることをやるしかなかったはずだ。
僕は正座してレイチェルに向き合う。ジッと、銀髪のじゃロリ神狼を見てお願いをした。
「ふん、お主はわしの眷属じゃからな……寧ろ、力の使い方も教えんで放り出したのは悪かったと思っておる」
「え、じゃあ……!」
「そんな嬉しそうな顔をするでない! わしの修行は厳しいぞ!?」
するなと言われても顔に出てしまう。だって、凄く嬉しい。
「よろしくお願いします、先生!」
「ふん……」
そっぽを向くレイチェルの小さな耳は真っ赤で、それを見つけてしまった僕とレハティは思わず笑ってしまった。
金額を変更しました。金貨330枚→金貨530枚




